作品タイトル不明
421.出航ですっ!
「ツバメちゃん、レンちゃん! 本当にすごいねー!」
「自然の風景、荘厳な人工物もいいけど、その両方が同時に広がる光景っていうのもまた特別ね!」
「こんなの、初めて見ます!」
『星屑』マップ西方の王国フロンテラ。
たくさんの大型船が並ぶ光景に、テンションが上がるメイたち。
大きな港町の海上には、大航海時代に活躍したような3本から5本の帆柱を備えた大型帆走船。
それが3、4隻だけならまだしも、100隻も海上に並んでいる光景は壮観の一言だ。
そんな船に多くのプレイヤーたちが詰めかけているのも、また見物。
マストに登った三人は、並ぶように腰かけて広がる海を眺める。
どこまでも続く青空に、帆を揺らす風が心地よい。
「ふふ。さすがにこの数は『星屑』の世界じゃないと見られない演出でしょうね」
「そうなの?」
「大型イベントの始まりっていう事で、とにかく派手に見せたいんじゃないかしら」
そう言って楽しそうに笑うレン。
綺麗に飾り付けられた港の一角に、集まる大量の見学者とNPCたち。
そこに、従者を引きつれたフロンテラ国王がやって来た。
いよいよ大型イベントのオープニングが始まる。
「冒険者諸君! よくぞフロンテラ大調査船団に参加してくれた! この度我々は、古より王家に残されていた伝記をもとに、新たな大陸の調査に挑むことにした!」
豪華ながらも整然とした格好をした壮年の王は、力強く拳を握る。
「そこは未知の世界。どんな危険が待つのかは分からない。だが、勇敢にも新大陸にて成果をなしたものには報酬を与えよう! 頼むぞ猛き冒険者たちよ! 今こそその力で、新たな世界を切り開くのだ!」
「「「おおおおおお――――っ!」」」
さっそく、テンションの高いプレイヤーたちが声を上げる。
それがまた、雰囲気を大きく盛り上げる。
「おおーっ!」
もちろんメイも、拳と尻尾を立てて元気に応える。
それにちょっとだけ乗っかってみるツバメと、そんな二人を見てほほ笑むレン。
今日も三人は、最高に『星屑』の世界を楽しんでいる。
「――――フロンテラ大調査船団……出港だ!!」
フロンテラ国王の合図で、盛大に鐘が鳴る。
出航を祝う花が舞い、国民NPCたちの盛大な見送りの中、ゆっくりと船が動き出す。
「すごーい!」
見送るNPCたちや、今回は出航シーンだけを見にきたプレイヤーたちに大きく手を振るメイ。
ツバメも少し恥ずかしそうにしながら、小さく手を振ってみる。
今回のイベントは、この出航シーンから参加しても良し、後で第二弾、第三弾の船で送ってもらっても良しという形だ。
「新しい島にみんなで踏み込んでいくなんて、ワクワクしちゃうね!」
「いまだに誰にも知られていない新マップに乗り込むところから始まるイベント。そのうえ対戦になるって、どうしても気分が上がっちゃうわね」
「とても楽しみです」
マストの上で、早くも新たなイベントにワクワクする三人。
「あっ、メイちゃんだ」
「本当だ……初めて見た……」
「あんなに可愛いのに、めちゃくちゃ強いんだよな」
そんなメイたちに気づいたプレイヤーの声が聞こえてきた。
「その通りなんです」と何度もうなずくツバメ。
「えへへ」
一方のメイはちょっと恥ずかしそうだ。
「普段は耳と尻尾だけ。でも本気を出す時は野生化して戦うのがまたすごいんだよ」
「そうなのか……」
「わあー違いますー! あれはそんな演出じゃないんですー!」
尻尾を左右にブンブン振ることでさらに「違うんです!」と表現しながら、マストを降りてまで説明に向かうメイ。
「違うと言いながら尻尾をブンブンさせるところ、とても可愛いです」
「……そこ?」
レンたちも笑いながら甲板に降りる。
ツバメは影の薄さを利用して、メイの話で盛り上がる子たちの間に潜り込んでご満悦。
こんな状況でも「アサシンちゃんだ!」とはならない辺りは、相変わらずだ。
「おおっ、あの黒い子は最近噂の――!」
「闇の使徒からすでに足を洗ったただの魔導士、レンよ」
そしてレンは、メイも驚く速さで先手を打つ。
儀式や魔法学校でのことには、触れさせない。
「イベント、メイちゃんたちも参加するんだね!」
するとメイの姿を見つけて駆けてきた一人の少女が、うれしそうにたずねてきた。
「はいっ!」
「いやったー! 広報誌で見て、一度会ってみたいなって思ってたんだぁ!」
長めの黒髪を頭の左右で大きめのお団子にした小柄な少女は、ジャンプして喜びの声を上げた。
それを聞いてまた、参加者たちも盛り上がる。
『星屑のフロンティア』は、異例の来歴を持つ野生少女が広報誌に掲載された頃から、プレイヤー数が増加の一途をたどっている。
それによって、大きな展開を見せるクエストやこだわった世界観なども同時に知られ、これ以上ない盛り上がりを迎えている状況。
そんな中で大々的に始まったのが、この新大陸冒険の大型イベントだ。
各船にたくさんのプレイヤーが乗り込んでいる光景は、まさに最近の盛り上がりの影響と言えるだろう。
「あっ、夕方になった!」
乗船時間は決して長くない。
早くも太陽が沈みだし、夜を迎える。
そしてまたすぐに朝が来ると、そこからは早送りのように昼夜が連続することで長い航海を演出として見せていく。
間に大型海棲モンスターとの戦いの光景を挟み、数十回目の夜になったところでまた時間の進みが緩やかになると、ゆっくり朝日が昇ってきた。
「わあ! 島が見えるよー!」
「本当っ!?」
お団子少女に続き、同乗のプレイヤーたちもメイの指さした方角に目を向ける。
先導するサンタ・マリーナ号を中心とした調査船団は西に進み、目的通り新たな大陸にたどり着いたようだ。
すると水夫が駆け出してきて、望遠鏡をのぞき込んだ。
「島だ! 島が見えたぞー!」
そのセリフと共に、島の影がハッキリと見え始めた。
「ふふ、ちょっと早かったわね」
「てへへ」
本来であればNPCが望遠鏡でのぞいてから『新大陸の発見』が叫ばれ、プレイヤーたちが一斉に集まるという想定だったのだろう。
しかし【遠視】で早々に島を見つけたメイの言葉で、すでに付近のプレイヤーたちは島の方へ視線を向けている。
これによって水夫NPCが『遅れて出てきて騒ぎ出した』感じになってしまった。
「メイちゃんすごーいっ!」
「あはははは、さすがメイね」
「これは意外な展開でした」
はしゃぐ黒髪お団子少女。
さすがに誰も予想できない流れになって、集まったプレイヤーたちは楽しそうに笑うのだった。