軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

409.青いバラ

旧研究塔の廊下に倒れていた、二人のお嬢様。

途中で会った魔法学校住人たちにも声をかけつつ、四人は医務室へ。

だが、どちらも目を覚まさない。

「……彼女たちが持っていたものだ」

そう言って魔法動物塔教授ベルリッドが渡してきたのは、一枚の花びら。

レンは手にした花びらを見つめる。

「これってどう考えても……」

「リリーネちゃんの着けてたバラだ!」

鮮やかな青色。

リリーネの髪飾りに付けられた、青いバラのものと見て間違いないだろう。

「どうやら、深い眠りにつかされているようじゃな」

「……学校長」

死んだように動かない二人のお嬢様。

その様子を見にやってきたのは、白髪白髭の学校長だった。

「良からぬことが続いておるな」

「続いている……? 何かあったのですか?」

ベルリッドが学校長に問いかける。

「実はな、悪の大魔法使いを封じた『封魔の箱』が消えたのじゃ」

「なっ!?」

ベルリッドは驚きに身体をのけ反らせる。

見れば肩のフクロウも「マジかよ!?」と、その目を見開いていた。

「まさか、かの魔法使いが……復活すると……?」

「可能性はある。だが仮に悪の大魔法使いを箱から解き放っても、その魂を完全憑依させるのは難しい。ヤツは数百年に一人の逸材じゃったからな。その強大な魔力を扱える身体でなくてはもたないのじゃ。だが……もしも完璧な姿で復活したりすれば……世界は大変なことになるじゃろう」

「復活したら、どうなるのでしょうか」

「世界の危機の始まりじゃな。そして……この学校も奪われてしまうじゃろう」

「……え」

まさかの言葉に、驚くメルーナ。

魔法学校住人たちも息を飲む。

「もしかして、王都ロマリアのパターンかしら?」

「かもしれないですね」

「悪の大魔法使いの狙い通りにシナリオが進んでしまうと、ここが居城マップに変更される感じでしょうね」

「クインフォードに……いられなくなるのー?」

「その可能性が高いわ」

魔法学校に住んでいたといっても過言ではないメルーナは、まさかの展開に言葉を失う。

「とにかく、ベルリッド教授も気を付けるのじゃぞ……君たちもな。月の夜は魔力が昂ぶる。悪の大魔法使いを復活させるにはうってつけじゃからな」

そう言って魔法学校長はメイたちを一瞥すると、医務室を出ていった。

「学校長の言う通りだ。もう夜は部屋を出ず、おとなしくしているように」

ベルリッドもその後に続く。

「……残されたヒントは青いバラ。この話は大きな展開につながっているんだろうけど……メルーナは青バラがどこに向かうか心当たりはない?」

「あの子ー、あんまり色んなところに出てくる感じじゃないんだ。だからいつもの場所にいなければもう、想像がつかないかも」

「それならとにかく校内を動き回って、青バラのいそうなところを探してみましょうか」

「りょうかいですっ!」

「それがいいと思います」

うなずき合い、さっそく四人は動き出す。

「私たちも、気になる場所を回ってみましょうかぁ」

「よし、各自慣れてる塔に向かって青バラの痕跡探しを手伝おう! 何か見つけたらメイちゃんパーティに連絡する形で!」

「悪の大魔法使いから、魔法学校を守るんだ!」

「「「おう!」」」

魔法学校住人たちも、魔女帽のお姉さんの言葉を合図に手分けを開始した。

魔法学校住人と、メイたちによる青バラ捜索。

夜の魔法学校を駆け回る、ローブ姿のプレイヤーたち。

時間は深くなっていくが、捜査が進んでいる感じはない。

「この広い、隠し部屋と隠し通路の殿堂みたいな魔法学校で、メルーナでも思い当たる場所がない状況……かなり厳しそうね」

「消えた錬金術師、失踪した青バラさんと、復活しそうな悪の魔法使い……要素はそろっているのですけどね」

様々な手がかりが出てきているが、倒れていたお嬢様たちのような分かりやすい違和感は見当たらない。

「ただいまーっ! 【装備変更】っ!」

するとレンとツバメのもとに、メルーナを背負ったメイが戻ってきた。

「どうだった?」

メルーナと共に、【鹿角】装備で各塔を駆け回ってきたメイ。

しかし二人は首を振る。

「見つからなかったよー」

「夜間禁止区域にも、特に変化はなかったわ……」

「旧研究塔自体は、今も十分怪しいのですけどね」

「ここで止まっちゃう感じかもー……」

これまでも無数のクエストが、中途の状態で止まってきた魔法学校。

メルーナは悩ましそうに息をつく。

「ここから一体、どうやって青バラの失踪先を見つけるのかしら……」

教授から受け取った鮮やかな青い花びらを今一度、取り出してみるレン。

四人囲んで、じっと見つめる。

「本当にきれいな花ですね」

「鮮やかな青色ー」

「あらためて見ると、いい匂いがするのね。お嬢さまらしい感じがするわ」

「本当だー……あれ?」

鼻をすんすん鳴らして尻尾を振るメイ、不意に首を傾げる。

「どうしたの?」

「これって……匂いで追いかけられるかも……?」

「なるほど……っ!」

その言葉を聞いて、レンは息をつく。

「そう考えると、花びらを持ってきたのが魔法動物塔の教授だったのもある意味ヒントだったのかもしれないわ!」

メイはさっそく、花びらを受け取って右手を上げる。

「匂いの追跡が得意な皆さん! よろしくお願いしますっ!」

【呼び寄せの号令】を使用すると、十頭を越える大小様々な犬たちが一斉に駆け寄って来て、そのままメイに飛びついた。

さっそくメイの足元で飛び跳ねる犬たちの鼻先に、青い花びらを向けると――。

元気に一つ鳴いて、駆け出した。

「これはもう間違いなさそうね!」

「はいっ!」

「動物塔のクエストはー、ここのカギになってたんだ!」

犬と一緒に駆けていくメイを追って、レンたちも走り出す。

たどり着いたのは旧研究塔の一階。

倉庫として使われている小部屋の石床を動かすと、ハシゴ付きの穴が現れた。

「ここからは足で探せってことかしら?」

犬たちは、このハシゴを降りることができないようだ。

「ありがとーっ!」

道案内してくれた犬たちの頭をなでるメイ。

ハシゴを降りたところで、バトンタッチ。

「……でも、匂いは残ってるよ」

現れた別れ道も、メイには関係ない。

捜索範囲は大きく限定された。

ここからは【嗅覚向上】によって匂いを追い、一発で正しい道を選んでいく。

「思ったよりあっさり進めそうね」

進んだ先にあったのは、一つの部屋。

魔法灯を点けると、橙色の光が広がる。

「あの子、リリーネちゃんだよ!」

殺風景な部屋の奥。

簡素なイスに腰かけているのは、間違いなくリリーネ・グレイシアだ。

頭の青バラも、一つ減っている。

すぐに駆け寄って、肩を揺するメイ。

「大丈夫ー?」

すると青バラは、ゆっくりと目を開いた。

そして目前にいたメイを確認すると――――。

「ここは……」

辺りを確認するように視線を走らせる。そして。

「こうしてる場合ではありません!」

「ええっ? どうしたの?」

突然の剣幕に、驚くメイ。

「封じられた悪の大魔法使いが、復活してしまいます!」

よく見れば、青バラの手と足はイスに縛り付けられていた。

「どういうことか聞かせてもらえる?」

「悪の大魔法使いは、その類まれな魔力と才能ゆえに普通の人間では受け皿になりえない。だからあの人は最高の『素体』を求めていた。でも、どうしても手に入らない。そこで仕方なく私の身体を使うのだと……!」

「素体と言えば、錬金術教授が消える前に『最高の一品ができた』と自慢してたって学校長が言ってたわね。それが完璧な素体だったってところかしら」

レンは旧研究塔にあった、『人形の部屋』を思い出す。

「そして手に入らなかったのは……悪の大魔法使い復活の素体として狙われていることに気づいた錬金術教授が、最高の一品を隠すことにしたから」

「もしかしてー、その守護者が……」

メルーナの言葉に、レンはため息をつく。

「あの魔法獅子だったわけね。でも完璧な素体が手に入ることになったから、青バラはここに放置されていたと」

「どういうことっ?」

「要するに、錬金術教授が作った完璧な素体の話を知って襲い掛かったのが旧研究塔。フロアにあった傷や焼け跡は、完璧な素体を求めて襲ってきた者との戦いの痕跡よ。そいつの狙いに気づいた錬金術教授は戦いに負けたけど、その素体を隠して魔法獅子に守らせていた」

「私たちは、邪魔な魔法獅子の退治をさせられたというわけですね……」

「それって、もしかして……っ!」

「そういうことね。一応聞いておくわ。リリーネ、あなたを監禁したのは誰?」

「薬学教授オーブルです」

「これでおそらく天才錬金術師が作った素体と、悪の大魔法使いの魂を封じた箱がそろってしまった……そうなれば、次にすることはもう一つだけね」

「悪の大魔法使いの復活……っ」

メルーナはゴクリとノドを鳴らす。

後を追ってきていた魔法学校住人たちも、ざわつき出した。

「とにかく薬学教授を探しましょう! これは魔法学校の存続を賭けた、最大のクエストになるわ!」

大急ぎで動き出すレンに、続くツバメとメルーナ。

「……待ってください」

その言葉に、足を止める。

「リリーネちゃん?」

ゆっくりとイスから立ち上がったリリーネは、メイたちの方を見据えると――。

「――――私も一緒に行きます」

「「「「……え?」」」」

まさかの言葉に、メイたちはもちろん魔法学校住人たちもが驚きに困惑する。

「これだけの恥をかかされて、このまま泣き寝入りするなんてありえません。貴方たちなら、この私が足手まといになるような魔導士でないことは知っているでしょう?」

それは青バラに勝利したパーティだけが、向けられるセリフ。

「ここでー、青バラのお嬢様まで仲間になるなんて……」

「驚きましたぁ」

メルーナと魔女帽子のお姉さんも、意外な展開に感嘆するのだった。