作品タイトル不明
387.お嬢様と撃ち合いますっ!
メルーナが仕掛けた対決クエストは、青バラのリリーネたちの勝利となった。
「やはり、私たちの相手をするには不足でしたね」
茶髪お嬢様はそう言って笑うと、ソファへと戻っていく。
どうやら、二人に勝たなくてはリリーネは相手もしてくれないようだ。
「なんでギリギリだったのにあんな余裕の態度が取れるんだ……!」
「あの感じの悪さときたら……っ」
繰り返されてきた光景に、怒る魔法学校住人たち。
そんな中、わずかに温度が違うのは『ホウキレース』を見てやって来たプレイヤーたちだ。
メイたちの動きに、早くも注意深く視線を向けている。
「ありがとうメルーナ。次は私たちが行きましょうか」
「りょうかいですっ!」
「はい、いきましょう」
三人並んで、リリーネたちがいるソファに向かう。
すると青バラのお嬢様は、メイを見るなり静かに立ち上がった。
「……待っていました。ホウキでは後れを取りましたが、グレイシア家の力をここでしっかりと見せつけて差し上げます」
そう言い残して、リリーネはお嬢様二人を率いて舞台へと歩き出す。
「やっぱりー、これまでと違う」
リリーネが先導して進む姿に、メルーナはゴクリとノドを鳴らす。
「当然貴方なら、私のところまでたどり着くのでしょう?」
「戦う順番自体は譲ってくれないのね」
この流れなら「いきなりメイとリリーネの一騎打ちで良さそうなのに」と、苦笑いのレン。
「こっちはどういう順番で行く? メイがトリなのはいいとして……ツバメはどう?」
「メルーナさんがしっかりと戦い方を見せてくれたので、いけると思います」
『どんな勝負になるのか』を、身体を張って見せてくれたメルーナ。
その戦いを注意深く見ていたツバメは、そう言ってうなずいた。
茶髪お嬢様が舞台に上がり杖を構えると、ツバメも舞台に上がり幅や距離感を確認。
両手にダガーを構える。
「近接かぁ。近接は厳しいぞ……」
「茶髪も十分すぎるほど強いからなぁ」
これまでたくさんの近接プレイヤーがあっさり敗れてきたのを、見せつけられてきた魔法学校の住人たち。
ここで初めてメイたちを見た住人たちは「うまくいくといいけど……」といった感じだ。
「負けても泣かないでくださいね」
余裕の煽りを見せる茶髪お嬢様。
「様子見はなし。一気に勝負をつけます」
対してツバメは、静かにつぶやく。
「それでは始めます。用意……スタート!」
銀髪お嬢様の合図で、始まる戦い。
「【ファイアボルト】!」
先手打ったのは茶髪お嬢様。
早いキャストで炎弾を放つ。
これに対してツバメはなんと、数歩前に出て『防御』で対応。
「ああっ、そうなっちゃうと後は押し切られるだけなんだ……っ!」
あがる悲鳴。
ツバメはひたすら、放たれる炎弾から身を守る。
そのまま四発の炎弾に押される形で、二歩ほど足を引かされた。
メルーナ戦で見た限り、茶髪お嬢様は五連続で早いリキャストの魔法を放つが、その後わずかに息をつく。
五発の炎弾を、どうにか受け止め切ったところで――。
「いきますっ! 【加速】【リブースト】!」
真正面からの特攻で距離を詰めに行く。
「【ファイアシェル】!」
すぐさま放たれる中級魔法。
しかしツバメは【残像】を使い、難なく【ファイアシェル】を潜り抜けた。
「ッ!?」
慌てて防御に回る茶髪お嬢様に、ツバメはそこから大きく一歩踏み込むと――。
「これで決めます! 【アクアエッジ】【八連剣舞】!」
高速で放たれる八連発の水刃。
長い軌跡を描きながら舞う水の刃は容赦なく襲い掛かり、輝く飛沫を跳ね上げながら茶髪お嬢様を打ちつける。
怒涛の勢いで迫る水の軌跡は、四発目でバランスを大きく崩させた。
「そ、そんな! きゃああああっ!」
続く四連発は全て直撃。
そのままお嬢様を場外へ弾き飛ばした。
「「「…………」」」
キラキラと舞い散る水飛沫。
あまりに呆気ない決着に、ラウンジは静まり返る。
「ツバメちゃんすごーい!」
「余裕だったわね!」
ハイタッチしたメイとレンは、そのままツバメを抱きしめる。
「メ、メルーナさんのおかげですね。ありがとうございました」
するとツバメは、顔を赤くしながらつぶやいた。
「すごいー」
「マジかよ……」
「なんだよこれ、瞬殺じゃねえか!」
メルーナの戦いを参考にした見事な勝利に、ラウンジの空気が変わり始めていく。
「それじゃ、次は私の番ね」
ツバメの圧勝で熱い視線が向けられる中、今度はレンが【浮遊】でゆっくりと舞台に上がる。
「言っておきますが、私に隙はありませんよ。貴方に勝ち目などありません」
そう言って余裕の笑みを見せた後、静かに杖を構える銀髪お嬢様。
レンもそれに応えるように、杖を向ける。
「それでは始めましょう。よーい、スタート!」
茶髪お嬢様の合図と共に、二回戦が始まった。
「【ウィンドバレット】!」
「早っ!? 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
銀髪お嬢様のキャスト速度に驚きつつ、即座に四連続の魔法で対抗するレン。
「おおっ! 四発出せる【連続魔法】なんてものを持ってるのか!」
リキャスト速度で負けていても、【連続魔法】でなら問題なく対応することが可能。
銀髪お嬢様の高速リキャストと、互角の勝負を繰り広げる。
「連続魔法でも先行できないなんて……さすがにやるわね」
挑戦者たちを7年に渡って返り討ちにしてきたお嬢様の能力に、思わず感嘆する。
「でもっ! 高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンはここで弾速をアップ。
【魔法速度変化】による四連続の高速魔法弾で、一気に押していく。
「すげえ撃ち合いだな! こんなに派手なのなかなか見ないぞ!」
「しかも押してるじゃねえか! あの銀髪相手に!」
ぶつかり合い、派手に弾け散る炎と風の弾丸。
そのエフェクトの激しさに、魔法学校住人たちは歓声をあげ始めた。
「すごい……」
まばゆい魔法の輝きに、メルーナもすっかり夢中だ。
「もう一回いくわ! 高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
前進と共に、さらに押していくレン。
銀髪お嬢様も高速リキャストで対抗するが、ついにレンの【連続魔法】が押し切った。
撃ち合いを抜け出した炎弾が、お嬢様に向けて猛進する。
「くっ! 【バリアアーム】!」
すると銀髪お嬢様は杖を持たない方の手を輝かせ、迫る【ファイアボルト】を消し飛ばした。
「やるわね! でもこれならどう!? 低速【誘導弾】【ファイアボルト】!」
しかしレンは慌てない。
この隙を使って場外へ炎弾を放つと、再び杖を銀髪お嬢様に向ける。
「なんで場外に?」
「ていうかあの遅い魔法はなんだ?」
初めて見るスキルに、その意図を測りかねる魔法学校住人たち。
「高速【連続魔法】【ファイアボルト】!」
レンは押していく。
再び先ほどと同じ状況を作り出し、銀髪お嬢様が真正面からの撃ち合いを始めたところで――。
「……さあ、どうする?」
「なっ!?」
ゆっくりと回り込むように飛んで来た【ファイアボルト】
こうなってしまうと銀髪お嬢様は、くらうか【バリアアーム】で対応する他ない。
「っ! 【バリアアーム】!」
選んだのはスキルによる魔法の撃ち消しだった。
隙が生まれれば、あとは押し切るだけ。
「はいこれで終わり! 高速【連続魔法】【フレアアロー】!」
「きゃああああーっ!」
放たれた四本の炎矢はビームのように直進して炸裂、銀髪お嬢様を場外へ弾き飛ばした。
レンは薄い笑いを浮かべると――。
「魔法は使い様なのよ――――お嬢様」
ローブを大きく払って背を向けた。
「「「お、おおおおおーっ!」」」
「銀髪お嬢に、普通に魔法で力勝ちしたぁぁぁぁっ!!」
「おおーっ! すごいー!」
真正面からの派手な撃ち合い。
そして熟練の魔導士のような勝ち方に、上がりまくるテンション。
メルーナも思わずぴょんぴょんしながら拳を突き上げる。
「これ……あるぞ!」
「ああ! これ勝てるぞ!」
ラウンジで初めてメイたちを見た住人、ホウキレースからついてきた住人。
観戦者たちの空気が、完全に期待へと変わる。
「ちょっとだけ、熱くなっちゃったわね……」
【浮遊】でふわりと舞台を降りてきたレン。
メルーナが固唾を飲んで見守っていたのを見て、勝ち台詞まで放った自分に苦笑いをこぼす。
「私もです」
これにはツバメも、こくりとうなずいた。
「さて、ここまではうまくいったわね」
「あとは青バラのお嬢様を残すのみです」
自然と集まる視線、向けられる期待。
「はいっ、おまかせくださいっ!」
メイはそう言って、強く胸を叩いた。