作品タイトル不明
349.レンの思う最悪の敵
「ここは研究者の工房なんかも並んでいるのね」
見慣れない素材のインゴットが置かれているラボをのぞき見て、レンがつぶやく。
円形の段々畑を思わせる遺跡の下層階には、植物園の管理人ロボット用パーツを取りに来た倉庫などもある。
そこには助手用らしいロボットたちが、暇そうにする姿。
ロボットの外見は少しずつ違い、大きな荷物なんかを運ぶ個体は、角を丸くした冷蔵庫に手足を付けたような形をしている。
「なんだか味のある見た目ねぇ」
「宇宙服みたいだね!」
「そうですね。どこか動きが可愛いのが気になります」
そこはかとなく不器用そうなロボットたちの妙な愛らしさに、笑みがこぼれる。
「そう言えば、この階層の中央部分はどうなっているのかしら」
ここでも階層の段差部分には扉が設置されており、メイたちは機械獣に注意しながら内部へと進む。
たどり着いたのは、紋様入りのブロックを積んで作られた石壁ホール。
やはり中央部へと続く道は起動しておらず、ただ静かな空気だけが流れている。
ホールの真ん中に走る、複数の円形ライン。
起動すれば青い光がこのラインを走り、遺跡の中央部へ進めるようになるのだろう。
そしてホール中央の天井にも、同じく円形のラインが走っている。
その中心には、金属の管が一本だけ飛び出していた。
三人がホールを眺めつつ歩いていると、管の先に銀色の液体が溜まっていく。
粘度の高いその液体はしばらく管の先に溜まっていたが、やがてボトリと床に落ちた。
「ん? なんだろう?」
それに気づいたメイが、銀色の液体を見つけて近づいていく。
「なるほど、ここには門番がいるって感じかしら――――ちょっと待って!」
嫌な予感に、レンは大慌てでメイたちを制止。
そのまま二人の手を引いて、大急ぎでホールの外へと駆け出していく。
「どうしたのレンちゃん?」
「何かあったのですか?」
「いいから全力で走って!! 大変なことになるかもしれないっ!!」
そのままメイたちはホールを出て、出入り口を出たところに身を隠す。
そして一つ息をついたレンは、そーっとホールの方に顔を出してみる。
「……遅かったみたい」
顔を戻し、大きくため息を吐く。
「やはりモンスターだったのですか?」
ツバメの問いかけに、レンは頭を抱えた。
「まあそうなるわね……考えうる限り、最悪の敵じゃないかしら」
「最悪の敵?」
妙な言葉に、ツバメもホールをのぞき込んでみる。
「……なるほど」
そしてすぐにその言葉の意味を理解して、真顔になった。
「不思議な素材の街、研究所、動き回ってる機械獣、そして銀色の液体ときたら、もっと早く気づかないといけなかったわね……」
反省するようなレンの言葉に、いよいよメイも不思議がってホールの方をのぞいてみる。
「え、ええっ!?」
するとそこには、見覚えのある一人の少女。
というよりも、自分自身。
銀色になった『メイ』がたたずんでいた。
「わ、わたしがもう一人っ!?」
まさかの事態に、驚くメイ。
「レンちゃん、どういうことなの……っ!?」
「変身してプレイヤーに化ける敵なのよ。今回はよりによってメイに姿を変えたのね」
「やはり、戦わないとダメなのでしょうか」
「どうかしら……戦わずに残していった場合、一定時間でまたあの管に戻っていくのならいいけど、もしあのままだったら……」
「最強の門番となって、冒険者たちを狩り続けることになりますね……」
「ええええええ――――っ!?」
「……こういうのって大抵、使うスキルはもちろんレベルとかステータス、装備もコピー対象そのままなのよね」
コピー敵のセオリーを思い出して、いよいよレンは頭を抱える。
「本来はプレイヤーに化けて襲って来るけど、こっちは複数だから問題なく戦えるみたいな敵なんでしょうね。それがメイに化けたことで、最強のボスに成り代わってしまった……」
「一応装備やスキルだけのコピーで、本体のレベルは【銀色の液体】の可能性もあります……一縷の望みですが」
「そうね。メイ、一度【ソードバッシュ】でけん制してみてくれる?」
「う、うんっ」
メイはホールへの出入り口へと進み、手にした剣を振り上げる。
「【ソードバッシュ】!」
「……【ばんびすてっぷ】」
猛然と接近してくる衝撃波を、ニセメイは速い動きでかわす。
「【とうせき】」
「「ッ!!」」
そこから反撃とばかりに投じた石が、ツバメとレンの前を豪速で飛んで行った。
遅れて、特急電車が通り過ぎた後のような強い風が吹き荒れる。
「……ステータスも、メイで確定ね」
「そ、そういうことならっ! 【バンビステップ】!」
メイは一気にホール内を駆けていく。
そのままニセメイのもとにたどり着き、剣を振り降ろす。
これは後ろへの移動でかわされた。
「【あくろばっと】」
さらに踏み込みからの横なぎを放つも、バク転一つで回避される。
メイの攻撃を、素早い動きでかわすニセメイ。
「【フルスイング】!」
続く豪快なエフェクトと共に放つ振り下ろしも、ニセメイは大きなバックステップで回避。
「高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】」
ここでレンはすかさず、高速の炎弾でニセメイを狙う。
「【連続投擲】」
ツバメはブレードを四連投擲。
「【ソードバッシュ】!」
さらにメイが追い打ちのように放つ衝撃波。
「【ばんびすてっぷ】【らびっとじゃんぷ】」
しかしニセメイは、これをさらに速い移動で見事にかわして跳躍。
大きなジャンプで、一気にツバメのもとへ迫る。
「ッ!! 【加速】【リブースト】【跳躍】っ!」
ツバメは慌てて大きく距離を取りにいく。
「【そーどばっしゅ】」
「ッ!!」
叩きつけにきた剣撃が、爆発的な衝撃波を巻き起こす。
最速かつ全力の逃げで回避を成功させたが、吹き付けていく強烈な風にツバメは大きく足をフラつかせる。
「この威力……近場での回避なんかを選んでしまったら、衝撃波に吹き飛ばされて転倒ですね……」
「それでも隙ができないわけじゃないわっ! 高速【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
スキル使用直後のニセメイを目指して進む、高速の連続魔法。
これなら回避もそう簡単ではないと踏み、思考を追撃に切り替えるが――。
「【そうびへんこう】」
ニセメイの手に握られる、銀色の棍棒。
「マズっ!」
レン、思わず目を見開き硬直する。
放った四つのファイアボルトは全て、【魔断の棍棒】の乱打に打ち返された。
「痛っ!」
必死の回避も、自らの放った四発の火炎弾から二発を喰らい、1割弱ほどのダメージを受けた。
ニセメイは止まらない。静かに右手を掲げると――。
「【ちくし――】」
「そそそそれはダメよッ!! 高速【連続魔法】【フレアアロー】ッ!!」
「……【らびっとじゃんぷ】」
レンは大慌てで炎の矢を放って邪魔をする。
後方への跳躍で回避するニセメイ。
その手に一瞬取り出しかけたのは、【腕力】上げのバナナだった。