作品タイトル不明
314.恐るべき失敗作
そこは【投棄場】の奥深く。
破壊した旧研究場に陣取り、出入り口への道を塞いでいたのは、失敗作たちの王。
いくつもの頭を持つ深緑の大蛇。
研究コード【ミドガルズオルム】だ。
「これはまた、かなりデカイな……」
「隠された【投棄場】に眠る化け物とか……こんなの絶対強いだろ……」
真っ赤な目が、メイたちを捉える。
ミドガルズオルムは八つの頭部を持ち上げると、一斉に動き出した。
「【バンビステップ】!」
先行したのはメイ。
速い動きで敵前方へと躍り出る。
ミドガルズオルムは一気に四つの頭で、メイに喰らいつきにいく。
「うわ、うわ、うわわっ」
次から次へと喰らい付きにくる蛇頭。
メイはその勢いに驚きながらも、見事な回避でダメージはゼロ。さらに。
「それっ!」
四つめの頭部には、すれ違い際に軽く剣撃を叩き込んでみせた。
すると五つ目の蛇顔が口を開き、毒液を噴射。
「【アクロバット】!」
毒蛇も、ジャングルでは日常。
口を開いた瞬間に毒噴射の可能性を予想したメイは、これを大きなバク転一つで回避した。
「すげえ……」
「この連続攻撃を、なんで当たり前みたいに避けられるんだ……」
この連携は『初見は喰らってしまうことが前提』といえるレベルの攻撃だった。
ミドガルズオルムの【猛毒】は、長いダメージ時間によってプレイヤーを苦しめる凶悪な攻撃。
床に垂れた毒液の上に乗っただけで毒を受けるため、移動まで大きく制限されてしまう。
「ひっ、ひいいいいっ!」
そんな中、蛇顔の一つは元老院兵を狙う。
足に喰いつくと、引きずり出した。
「止めないとおそらく即死になるわ!! 【連続魔法】【フリーズボルト】!」
「【投石】」
レンの魔法が喰い付きを解除し、メイの【投石】が元老院兵を狙った蛇頭の動きをわずかに止めた。
「メイさんっ!」
しかしこの隙を突き、残った蛇頭はメイを狙って動いていた。
メイの隙を、見事に捉えた形だ。
「がおおおおおお――――っ!!」
しかし一転、メイは【雄たけび】で大きく硬直を奪い取った。
「【フリーズストライク】!」
生まれた好機を逃さず、氷砲弾を蛇の頭に叩き込む。
「【加速】【四連剣舞】」
それによって隙を晒した蛇頭に、続けてツバメが剣撃を放つ。
「今だ! 俺たちで元老院兵を引き戻すんだ!」
同行パーティの前衛はここで元老院兵を取り戻し、後衛のさらに背後に押し込む。
「俺たちはこのまま元老院兵を守ろう! メイちゃんたちが気兼ねなく戦える状況を作るんだ!」
「「「おうっ!」」」
こうして自然に分担が決まる。
三つの蛇頭が同時に頭をあげ、吐き出す大量の毒液塊。
「【ウィンドシールド】!」
前衛の剣士が、風の盾で防ぐ。
こうして元老院兵を守る流れができ始めるが、ここですかさず別の蛇頭がブレスを吐いた。
「くっ!!」
とっさの防御も、前衛組は低くはないダメージを受ける。
この波状攻撃が、ミドガルズオルムの恐ろしさだ。
「これ数十人での戦闘が前提だろ……っ!」
まき散らされる毒液。
そこに喰らい付きやブレスまで放つ頭がいくつもあるという、まさに化物だ。
元老院兵を狙う蛇頭は、追撃とばかりに攻勢を仕掛ける。
「くっ!」
頭突き、頭突き、また頭突き。
「うああっ!」
左右、そして上方からの強い叩きつけで防御を崩し、真正面からの突撃で前衛たちを弾き飛ばす。
「あれを見てっ!」
怒涛の攻勢に崩されていく前衛。
さらにここで、後衛の魔導士が声をあげた。
見れば四つの蛇顔が、同時にその口内に炎をたぎらせている。
「ウソだろ、四匹同時ブレス……っ?」
「こんなの防ぎきれねえよ……っ!!」
愕然とする同行パーティの面々。
ミドガルズオルムの赤い目は、明らかに元老院兵に向いている。
前衛組は死に戻り覚悟で防御に回るが、吐き出されたブレスは広範囲そして高威力。
「……ここまでか……っ」
最前にいた剣士が、悔しそうに目を閉じる。
「――――おまかせくださいっ!」
そんな同行パーティの前に駆け込んできたのはメイ。
ツバメとレンに残りの蛇頭を引き付けてもらい、剣士と四つの蛇頭の間に入り込む。
「ここはわたしが守りますっ! 【装備変更】!」
そして、迫る豪火に一人で立ち向かう。
直後、四つの蛇顔から放たれた炎は、暗い旧研究場内をまばゆいほどに照らし出す。
その凄まじい威力はまさに、ミドガルズオルムの一撃必殺範囲スキル。
「お、おい……メイちゃん!?」
さすがに心配の声が上がる。
必殺スキルの容赦のなさに唖然とする同行パーティ。しかし。
「効きませんっ!」
巻き起こる風。
灼熱の猛火が打ち払われ、火の粉が舞い散っていく。
そこには【王者のマント】をはためかせて、仁王立ちするメイの姿。
「「「ッ!?」」」
驚きに思わず硬直する同行パーティたち。
この流れを予想していたレンとツバメは、反撃を叩き込む。
「【フリーズストライク】!」
「【電光石火】! 【四連剣舞】!」
氷塊の直撃を喰らった頭部が落ちたところに、叩き込む連撃。
一つの頭に攻撃を集中したことで、ミドガルズオルムがわずかに体勢を崩す。
ここで駆け込んでいくのは、もちろんメイだ。
対してミドガルズオルムも一気に五つの頭を差し向けて、メイを叩きに行く。
「【モンキークライム】!」
しかしメイは喰らい付きにきた一つ目の頭を踏み台にして、続けざまに迫ってきた蛇頭の上へ。
さらにその後頭部へと駆け、そのまま次の頭へと跳び上がる。
そこからさらに四つ目の額を蹴って、五つ目の鼻っ柱に右足をかけた。
「【ラビットジャンプ】!」
「なんだあの回避法……あんなの見たことねえよ」
「あの連撃を一人で避け切るとか、メイちゃんの運動性はどうなってんだ……」
「お、おい、ちょっと待て! この流れはアレがくるぞ!」
「「「っ!!」」」
高く舞い上がったメイの姿に、同行パーティの面々が期待の目を向ける。
「いっくよー! ジャンピング――――っ!!」
メイを知る者たちは、その勢いに乗せられ思わず拳を突き上げた。
「「「【ソードバッシュ】だああああ――――っ!!」」」
重なる声。
駆け抜ける猛烈な衝撃波で、ミドガルズオルムが壁に叩きつけられる。
これで残りHPは五割。
「シャアアアアアアア――――ッ!!」
大きな咆哮が、旧研究場に響き渡った。
戦いが後半戦へと入ったところで、身体を覆うウロコがその色を濃緑から濃紺へと変える。
「【ソードバッシュ】!」
この隙を狙って放つ、メイの追撃。
「あれっ?」
見事に直撃し、体勢もわずかに崩すもダメージは激減。
「……あのウロコの変化はバリアチェンジってところかしら。物理系のスキルに強くなるって形みたいね」
レンの予想は正解だ。
ミドガルズオルムは前半戦に『魔法』『物理』どちらの攻撃で多くダメージを受けたかで、後半の防御姿勢を変えるモンスターのようだ。
「おいおい、そんなのありかよ……」
ここまでのダメージ源は、主にメイを中心にした連携だ。
思わぬ状況の悪化に、同行パーティの面々は再び恐怖に震えるのだった。