作品タイトル不明
300.お次のクエストは?
「ホワイトパンサーがどこにいったのか、気になりますね」
発信機付きの従魔は、何人ものプレイヤーと共に探したものの、見つけることができなかった。
発信地点は分かっているのに見つからない。
不可解な状況。参加者たちは未達成クエストを抱えたまま解散となった。
「でも、たまにはこういうのもいいですね」
「もっと派手な失敗でもいいわね。三人で「どうしてこうなるのよー!」って叫ぶのなら、きっと楽しいわよ」
「うんっ! そうだね!」
一人では残念なだけの未達成も、三人なら楽しい。
笑い合う三人。
「……でも、クエスト以外のところでは「どうしてこうなるのーっ!」って結構言ってる気がする……」
思わぬメイの言葉に、レンは「確かに」と苦笑い。
「そういえば」
不意にメイが立ち止まった。
「この辺って、植物学者さんの研究所が近かったよね。無事だったのかな」
「行ってみましょうか」
「うんっ」
こうして三人は、植物学者の住む研究所へ向かう。
ラボはドラゴン襲来の影響がそれほど酷くはなく、学者のトミーは倒れた苗をせっせと直していた。
「トミーさーん! 無事でよかったですっ!」
「おや、メイさんたちではありませんか。皆さんもよくご無事で……あっ!」
トミーの目に見えたのは、土の上にこぼれた種。
慌ててひろい上げようとするが、早く伸びることが特徴のその草は、グングン成長していく。
「ああっ! もう出かけなくてはならないのに……っ!」
「何か用でもあるの?」
「錬金術師さんに『指定された実を採取し、粉末にして送る』という仕事を依頼されていたのですが……こ、このままじゃ、ラボが草に飲まれてしまいますっ!」
そう言ってトミーは、袋に入った植物の実を取り出した。
「連絡はとれないの?」
「それがなぜか毎回口約束なんです。うあわわわ!」
「そうなの。この袋を、錬金術師に渡してくればいいのかしら?」
「お、おねがいしますっ! 錬金術師さんは魔女帽子を目深にかぶり、黒のマントを羽織った少し風変わりな男性です。今回、彼とは王都公園の奥で待ち合わせをしています!」
「りょうかいですっ!」
「皆さんにならお願いできます。よろしくお願いいたしますっ!」
「皆さんになら……植物学者との関係性ができてからじゃないと始動しないクエストっぽいわね」
「そのようですね」
伸び続ける草を、大慌てで刈り出す植物学者。
メイは「いってきまーす!」と元気に手を振って、ラボをあとにした。
「今回は見つかるかしら」
トミーが待ち合わせをしていた王都公園の奥には、広葉樹の並ぶ林があった。
「……いたっ!」
木々の陰に隠れるようにしてたたずむ魔女帽子の男を、メイの【遠視】は即座に発見する。
「今回は早かったわね」
「錬金術師さんですかー?」
「ッ!?」
しかしメイに声をかけられた錬金術師NPCはびくりと身体を震わせて、一目散に逃げ出した。
「ええっ!?」
「ちょっと、何で逃げるのよ!」
「追いましょう」
全力で駆け出す錬金術師。
しかし林という場所は、このパーティから逃げるのには絶望的に向いていない。
「【モンキークライム】っ!」
メイはすぐさま近くの木に駆け上がると、そのまま枝から枝へ跳躍。
一瞬で錬金術師の前に降り立った。
「待ってくださーい!」
「な、なんてしつこいやつらだ……っ」
「しつこかったですかね?」
「本来は、ある程度追いかけっこをさせる予定だったんでしょうねぇ」
状況とセリフの差に、思わず苦笑いのレン。
「ええい、こうなったらもう仕方がないっ!」
数秒で追い詰められた錬金術師は、腰に提げた剣を掲げてみせた。
「来い! バフォメット!」
すると地面に描かれた魔法陣から三本角の山羊型モンスターが現れ、付近に炎をまき散らす。
「「「ッ!!」」」
三人は見事な反応で炎を回避する。
「悪魔型のモンスター……また急な戦闘ねえっ!」
「【加速】【アクアエッジ】【四連剣舞】」
最初に動いたのはツバメ。
四連続の水刃で、続けざまにバフォメットを斬りつける。
「はい【フリーズブラスト】!」
続く猛烈な氷嵐によって、凍結を奪う。
「【バンビステップ】!」
それを見て、メイが距離を詰めに行く。
「【装備変更】! それーっ!」
手にした【大地の石斧】で放つ単純な振り回しが炸裂、バフォメットは林の木をへし折りながら転がっていった。
実は中ボス級の悪魔型モンスター。
残りHPは、すでに一ケタだ。
すると起き上がったバフォメットの額の角が赤熱し、ごうごうと紅蓮の炎を上げ始めた。
「やれバフォメット! 【メギドフレイム】!」
放たれた豪炎は、マグマの様な輝きを放つ必殺の一撃。
かすめるだけで高いダメージを与えるその一撃は、メイに向けられた。
「【装備変更】っ!」
だがそのスキルも、メイとの相性が致命的に悪い。
「いっくよー! 【フルスイング】だーっ!!」
球形をした灼熱の炎弾は、【魔断の棍棒】による打ち返しで、容赦なくバフォメットのもとへ。
「ギャオオオオオ――――ッ!!」
自ら放ったスキルを喰らい、悪魔は粒子となって消えた。
「くっ……【メギドフレイム】すら効かないとは……っ」
なす術を失い、座り込む錬金術師。
メイは植物学者から受け取った紙袋を取り出すと、男に差し出した。
「こちら、お届けに参りました!」
「……なに?」
錬金術師は、怪訝そうな表情のまま紙袋の中身を確認する。
「これは……そうか、例の実を届けに来たのか」
そう言って錬金術師は息をつき、黙り込んだ。
それから付近を注意深く見回し、公園にも王都兵が駆け回っているのを見て「チッ」と舌打ちをする。
巨竜による攻撃以降、王都の警備体制は強化されているようだ。
「やはり、この状況では厳しい……」
錬金術師は受け取ったばかりの紙袋に新たに何かを詰め込むと、再びメイに差し出してきた。
「……これを王都酒場の裏手、廃棄タル置き場の『4』と刻印されたタルの中に置いてきてくれないか」
「なによそのクエスト……」
その妙な内容に、困惑するレン。
とはいえ、明らかに植物学者の手伝いからつながっているクエストだ。
ここで切ってしまうという選択肢はなしだろう。
メイは紙袋を再び受け取った。
「いいか? 中身は絶対に見るなよ」
「はい!」
「いいな、絶対に見るんじゃない! 絶対だぞ!」
「はいっ!」
素直に応えるメイ。
「……ツバメ、これどっちだと思う?」
「何とも言えないですね……」
本当に開けない方がいいのか、それとも開けて中身を確認した方がいいのか。
レンとツバメは、首を傾げ合うのだった。