作品タイトル不明
285.見たことのあるリアクション
「どんなところなんだろうね」
さつきは少しソワソワしながら、流れる景色に目を向ける。
「山間にある街で、大きなお寺とか神社があるって言ってたから、緑豊かな場所なんでしょうね」
「緑が多いのかぁ。楽しみだなぁ」
「ふふ、メイが『緑多くて楽しみ』って言うとちょっと面白いわね。すごく活躍しそう」
「……?」
時刻は昼過ぎ。
さつきと可憐が乗った電車は、都市部からわずかに離れた郊外へと向けて走る。
少し大きめのパーカーを着たさつきと、今回も制服姿の可憐。
やがてたどり着いたのは、こじんまりとした作りの駅舎。
改札を出たところに、きれいな黒髪をまとめた小柄な少女が待っていた。
「つばめちゃーん!」
手を大きく振りながら、リュックを背負ったさつきが駆けていく。
同じく小さめの旅行カバンを手に、可憐も小走りで改札を抜けた。
「お待ちしてました」
「二度目の合宿の始まりだね!」
見慣れぬ街の光景に、さつきは早くもキョロキョロと辺りを見回す。
駅付近には商店街があり、部活帰りの学生が楽し気に歩いている。
のどかだが、程よく店や学校もある穏やかな街のようだ。
「それじゃ、まずは買い物からかしら?」
「はい、ではこちらへ」
つばめの先導で向かうのは、駅から少し進んだ先のスーパー。
大手のものとは違う、その街独自のスーパーは不思議な懐かしさを感じる。
「もちろんクッキーは外せませんっ!」
さっそくムーンライトとチョコチップクッキーを抱えるさつき。
不意にその足を止める。
「…………」
「メイ、どうしたの?」
「やっぱり最近、果物を見るとちょっと目が惹かれちゃうよぉ……っ」
「文明の生んだお菓子より、自然が生んだ甘味を求めてるってこと?」
可憐の問いかけに「むむむむ」と、うなり声をあげるさつき。
「……メイさん、お肉は大きな骨についたものがいいのでしょうか、それとも……焼かない方がいいですか?」
「ツバメちゃん、生のお肉にかじりつくのは原始人でもあんまりやってないと思うよ」
真面目に悩むつばめに、さつきもツッコミを入れざるを得ない。
「私は無難に、いくつかチョコレート系を選んでおこうかしら」
「それではスーパーBIGチョコを」
「ツバメはチョイスが毎回駄菓子からなのよね……私も結構好きな方だけど」
普段着はかなり女の子らしいつばめの選択に、可憐はくすくすと笑う。
そして前回同様、カゴに一杯のお菓子と飲み物を詰め込んださつきたちは、会計を済ませて店を出た。
民家の続く道を進むと、少しずつ木々の量が増えていく。
その中に、和風の一軒家が建っていた。
瓦屋根の門から見える広い庭には池があり、生える木々には手入れが行き届いている。
「わあ……旅館みたい……っ!」
「本当ねぇ。和風なのにちょっとおしゃれな感じがするのはなんでかしら」
「どうぞ」
つばめは門を開け、さつきと可憐を迎え入れる。
三人が玄関に入ると、つばめをそのまま大人にしたような女性がやって来た。
「つばめちゃん、どこに行って……た……の?」
「はじめまして! 青山さつきと申しますっ!」
ブンっと勢いよく頭を下げるさつき。
「初めまして。星城可憐と申します」
可憐も優等生みたいな雰囲気を作りながら続く。
「…………え、あれ?」
つばめの母は、困惑の表情で付近を見回す。
「つばめちゃん、これは一体……どういうことなの?」
「先日言ったように、今日からこのお二人と合宿をします」
「あ、あれって、本当だったの?」
「はい」
「このお二人は、本当につばめちゃんのお友達なの?」
「はい」
「本当の本当に?」
「「はい」」
「…………」
「…………」
「本当に?」
「はい」
つばめ母、少しボーっとした後。
「た、たいへんだわーっ!!」
身体を壁にぶつけながら、大慌てで廊下を走っていく。
「つばめちゃんのお友達は実在した! 実在したのよ! こうしてはいられないわぁ!」
「……UFOとかUMAと同じような存在なのね、私たち」
「すみません。どうやら合宿をするという話は、冗談だと思われていたようです」
「私の時もそうだったけど、家族のリアクションで普段の生活が垣間見えるわねぇ……」
「まともな友達連れてきたー!?」と母と妹に叫ばれた可憐は、しみじみとつぶやく。
ドタンバタンと、慌ただしくなるつばめ宅。
「それでは私の部屋に」
案内されたのは、つばめの部屋の前。
そしてつばめは、まだ慌ただしい家の雰囲気に息をつく。
「少し説明が必要かもしれませんね……行ってきます。お茶も淹れてきますので待っていてください」
「はい、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい!」
ちょっと恥ずかしそうに母のもとに向かうつばめの可愛らしさに、思わず笑みがこぼれる可憐だった。