作品タイトル不明
226.野生の新王
【黒星落下】
それは完全体の古き悪王が持つスキルの一つ。
暗い砂漠の空に浮かんだ黒い太陽を落とす、特大の威力と範囲を持つ魔法だ。
「「「ッ!!」」」
黒星はそのまま突き刺さり爆発。
驚異的な威力の衝撃波が、付近一帯を薙ぎ払う。
生まれたクレーターに呆然としながら、レンが立ち上がる。
「メイの早い気づきがなければ全滅もあり得たわね。助かったわ」
「ありがとうございました」
「いえいえー。でもすごいスキルだったねぇ」
メイも感嘆の息をつく。
距離を取った後、防御態勢に入ったレンとツバメは約4割。
普通に衝撃波を喰らって転がったメイも、3割ほどHPを持っていかれている。
直撃ならどうなっていたか想像して、安堵の息をつくレン。
「来ます!」
大技を決めた古き悪王は、すぐさまメイに向けて動き出した。
右手に現れた『剣』による二連撃の後――。
「両手持ちですって!?」
左手に現れた『斧』による叩きつけ。
「うわっと!」
これを側転でかわすと『剣』が消え、現れた『槍』による薙ぎ払いへと続く。
慌ててしゃがみでかわすメイ。
左手の『斧』が消える。
代わりに現れたのは、蛇神が変身した『杖』
輝きの直後、スキル【砂刃嵐】によって花のような形状の砂刃が開く。
「うわわわっ! 【ラビットジャンプ】!」
とっさの後方跳躍でこれをかわすと、古き悪王はさらに『杖』を鈍く輝かせる。
生まれた【砂波】
ダメージこそないが、砂の高波をかぶると足元が砂に埋まってしまった。
そこに飛んできたのは、見えない『矢』
「【ラビットジャンプ】! うわああああーっ!」
メイはこれも後方への跳躍でかわすが、砂に足を取られた分の遅延で暴風に弾かれ転がった。
「完全に殺しにきてるじゃない……っ!」
広範囲の全体攻撃の後、すぐさま高威力の武器を次々に振るってくる古き悪王。
『完全体』の驚異的な強さ。
最前列がメイでなければ、すぐにでも崩されてしまうほどの凶悪さだ。さらに。
「【ソードバッシュ】からの【ソードバッシュ】!」
起き上がりと同時に放つメイの連撃。
『槍』を投じたばかりの古き悪王は、そのまま手を前へ伸ばす。
現れたのはアサシンの霊体。
盾代わりにされた霊体は、衝撃波を喰らい粒子となって消えていく。
「ひ、ひどいよー!」
「メイさん、次は私も前に出ます。おかげでパターンを把握することができました!」
「はいっ!」
「そういうことなら、最後は私が締めるわ」
目を合わせ、うなずき合う三人。
身代わりにした霊体アサシンを放り捨てた古き悪王のもとに、前衛二人が接近する。
「【加速】【リブースト】」
「【裸足の女神】【バンビステップ】!」
早い移動で先を行くツバメがターゲットを取り、その隙に飛び込んだメイが斬りつける。
ターゲットは即座にメイに代わり、振り下ろされる『剣』
これをメイがかわしたところで。
「【電光石火】!」
すぐさま死角からツバメが一撃を加え、駆け抜けていく。
そして二人が飛び回れば、自然と隙が生まれ出る。
「【魔眼開放】」
レンの右目が、黄金に輝き出す。
「【魔砲術】【誘導弾】」
杖を【ワンド・オブ・ダークシャーマン】に変え、【敏捷】の代わりに【知力】を向上させる。
そしてスキルを発動。
「【加速】【リブースト】」
「【アクロバット】!」
二人は見事に古き悪王を翻弄し、突進。
『斧』を振るい下ろしにきたところで――。
「【ラビットジャンプ】!」
「【跳躍】!」
目前で頭上を飛び越える大ジャンプ。
「――――【ダークフレア】!」
放つ暗黒の爆炎。
ターゲットを前衛二人に集中していた古き悪王は、これに直撃。
闇の炎は一気に燃え上がり、黒の粒子をまき散らして消えていく。
見事な連携に笑い合う三人。
黒の爆発に吹き飛ばされた古き悪王は、ゆっくりと起き上がった。
神妙な雰囲気の中、その赤い目を煌々と輝かせる。
そして、怒声と共に蛇神の杖を掲げた。
「「「ッ!!」」」
次々に生まれる砂の刃が花となり、咲いては散っていく。
「一気に仕掛けてきたわね……っ」
「ツバメちゃん! 【槍】がくるよっ!」
「【加速】! 【リブースト】!」
広がる砂の刃をかわしたところに、轟音とともに飛来する『槍』
メイの指摘で、ツバメはこれをどうにか回避する。
「ありがとうございますっ!」
さらに古き悪王は、ここで『弓』を三連発。
巻き起こる爆風と共に咲く、三つの砂刃花。
さすがにかわし切れず、レンとツバメはHPを削られる。
だが、これすらも前段階に過ぎない。
三人が必死にこの連携を乗り越えたところに、杖の輝きと共に生まれた大きな【砂波】で足元を埋める。そして。
「ガアアアアアア――――ッ!!」
「「「ッ!!」」」
その咆哮に、思わず顔を見合わせる。
嫌な予感は的中。
足元を重くしたところで、古き悪王は二度目の【黒星落下】を発動した。
「最悪の流れです」
「マズいわ……このままじゃ全滅よ!」
移動速度を低減したうえでの、超火力範囲攻撃。
それはあまりに凶悪なコンビネーション。
仮に直撃を避けられたとしても、そこから生じる衝撃波にHPを残せるはずがない。
誰もが、呆然とするような流れ。
「全力で逃げれば、メイだけでも生き残れるかも……」
長い距離を超高速で駆けることのできるメイ以外、助かるのは難しい。
戦いの最後をメイに託して退場する。
そんな判断をレンがしかけた、その時――。
「もしかして……」
メイは一人、尻尾を傾げていた。
「メイ、どうしたの?」
動かないメイに、レンが問いかける。
「落ちてくる星って、魔法なのかな」
「ええ、それは間違いないわ」
黒の太陽は、砂漠に落ちると爆発して消える。
実際の星が落ちているわけではない。
「それって、大きな魔法の弾丸ってことだよね?」
「……メイ、まさか……っ」
メイの言葉を聞いて、そのとんでもないアイデアに思い至るレン。
「そ、そんなこと、可能なのでしょうか」
最悪の状況だというのに、ツバメも思わず興味を惹かれてしまう。
「やってみてもいいかな?」
どう考えてもおかしな話に、レンは思わず笑ってしまう。
「……ええ。こうなったら真っ向勝負よ」
「メイさん、おねがいします」
「はいっ! おまかせくださいっ!」
メイは笑って「よーし!」と気合を入れる。
レンもツバメも、逃げるという選択はここで捨てた。
落ちてくる巨大な黒星。
メイはじっくりと見定める。
そして、いよいよ落星が迫ってきたところで――――。
「【装備変更】!」
その手にあった【蒼樹の白剣】を【魔断の棍棒】へと換えた。
「いっくよ――――っ!」
振りかぶり、左足を高く上げる。
『ため』までしっかり行って、黒星の落ち際をしっかりと見計らう。そして。
「せーのっ! 【フルスイング】だああああああ――――ッ!!」
黒星に全力で【魔断の棍棒】を叩きつけた。
「それーっ!!」
豪快なフォロースルー。
巨大な岩石同士がぶつかり合うような轟音を鳴らし、爆風が巻き起こる。
「グオオオオオオオオ――――ッ!!」
運営側にすら、まるで予想されなかった反撃。
見事に打ち返された黒星はそのまま砂漠を突き進み、古き悪王に激突して爆発した。
「本当に……」
「打ち返しました……っ」
巻き上がる砂の中、並んで呆然とするレンとツバメ。
「さ、さあ、最後の仕事よ!!」
動き出したメイを見て、レンは即座に自分たちの職務を理解する。
「了解です!」
即死耐性によってどうにかこらえた古き悪王だが、残りHPはすでに1ドット状態。
「【加速】【リブースト】!」
ツバメが悪王の乱舞を高速移動でかわす。
「【誘導弾】【連続魔法】【ファイアボルト】!」
さらにレンがけん制して、動きを制限。
「【加速】【リブースト】【電光石火】!」
「【ファイアウォール】!」
そこに飛び込んだツバメが三連続移動で翻弄し、続くレンの魔法で壁を張る。
この時点でまだ、古き悪王は捕捉できていなかった。
その場にメイがいないことを。
「いっくよ――――っ!!」
その声は上空から。
召喚したケツァールに乗り、空高く舞い上がったメイが声をあげる。
そのまま落下。
ただ真っすぐに、古き悪王目がけて急降下。
「ダイビング……【ソードバッシュ】だああああああ――――ッ!!」
流星のような勢いで落ちてきたメイが放つ一撃。
割れる地面、天高く舞う砂。
生まれる新たなクレーター。
文句なしの一撃で、古き悪王は粒子となって消えた。