作品タイトル不明
190.砂漠で試しましょう
「すっごーい!」
メイは尻尾をブンブン振って、歓喜の声をあげる。
「これは壮観ねぇ」
レンも辺りを見渡しながら、思わず感嘆の息をつく。
「どこまで行っても砂と青い空ですね」
一度港町ラフテリアに戻って来た三人は、その足で転移結晶を使い砂漠の街『ルナイル』へ。
たどり着いたのは、石壁の建物が並ぶ街の出入り口前。
そして、広大な砂漠の目前だ。
煌々と輝く太陽と、青い空が心地よい。
どこまでも続く砂漠は、陽光に照らされてまぶしいほどだ。
「あのとがってるのがピラミッドね」
レンが指を差す。
「結構距離がありますね」
ツバメは目を細めて、遠くピラミッドを眺める。
「すごーい……結構人が出入りしてるんだね」
対してメイは【遠視】の効果で、早くもその入り口に目を向けていた。
ピラミッドはプレイヤー間で有名なダンジョン。
その宝は、サービス開始から半年ほどで回収された。
そのため今は、炎武器片手に効率的なレベル上げができる場所として認知されている。
「ここの転移結晶はいい場所にあるわね。あっちがピラミッドなら、こっち側は街と宮殿よ」
レンの言葉に振り返ると、そこには続く石造りの街並みと、特徴的な尖塔を持つ宮殿が見える。
あえて古い町並みを再現しているのだろう。
派手な柄の絨毯に座った商人たちが、いい彩りを添えてくれている。
「わあ……」
続く初めての光景に、メイはいよいよ感動の声をあげた。
「まずは街を通って宮殿の見学に。その後ラクダを借りてピラミッドを目指すって感じでどうかしら」
「いいとおもいますっ!」
「良いとおもいます」
同じ言葉が出て、笑い合うメイとツバメ。
観光気分でやって来た三人としては、これくらいの緩さがちょうどいい。
「ただ、その前に一つ試してみてもいい?」
そう言ってレンは付近を確認。
いかにも「ワクワクしてます」といった感じで、続く大きな砂山の陰に身を隠す。
「どうしたのー?」
「せっかく手に入れたんだし、新しい魔法スキルを使ってみたいのよ」
レンは【銀閃の杖】を手にすると、手にしたばかりの新スキルを発動する。
「さあ、どんなものかしら……それっ!」
すると付近から黒い魔力粒子が収束し、杖の先に集結していく。
これがこの魔法の特徴である『ため時間』だ。
「【ダークフレア】!」
杖から放たれた粒子の集合体は、さらに小さく集束すると猛烈な勢いで炸裂。
激しい黒輝の爆炎をまき散らしながら、ゆっくりと消えていく。
「なるほど……威力はこれまでの最高値かもしれないわね」
そのエフェクトの派手さに、レンは思わず感嘆の息をつく。
するとその姿をじっと見ていたツバメがやって来た。
「……レンさん、もう一回いいですか」
「いいわよ。何か気になることでもあったの?」
レンは言われるまま、再び【ダークフレア】を発動。
集まってくる黒の粒子に、レンの白銀の髪が揺れ出す。
始まる『ため』の時間。
ツバメが静かに口を開く。
「――――反転よりいずるは狂気の崩剣。静天、暗転、天神の落墜。堕天と共に打ち鳴らすは葬送の福音なり。畏怖し陶酔せよ――」
「【ダークフレア】! ってちょっと待って!」
再び闇の輝きが収束し、闇の爆炎を巻き起こす。
吹き荒れる黒の炎の中、レンが叫びをあげた。
「魔法を放つ直前になにを詠唱してくれてんのよ! ものすごい雰囲気出ちゃったじゃない!」
【ダークフレア】特有の、放つ前の『ため』と集束エフェクト。
そこに詠唱が加わったことで、かつてないほど完璧な中二病ができあがっていた。
「より雰囲気が出るのではないかと思いまして」
「雰囲気を出す必要性がないのよ! ていうか……よくそんなの即興でできたわね」
ツバメの意外な才能に、驚くレン。
「適当にそれらしい言葉をつないだだけなのですが……」
「適当な割にはまとまりすぎじゃない……?」
特に意識した感じもないツバメに、『かつて詠唱していた頃』はしっかりと前準備していた自分を思い出して震えだす。
そんな中。
「…………かっこいい!」
メイだけがキラキラとその目を輝かせているのだった。
「さあ行きましょう! せっかくだし、観光しながら街歩きをしましょうか!」
素直なメイが闇の世界に踏み込まないよう、そそくさと歩き出すレン。
「はいっ!」
「いきましょう」
メイとツバメも、すぐそのあとに続くのだった。