作品タイトル不明
1510.始まる戦いを前に
――――世界は再び、危機に見舞われた。
そんな文言が、幹線駅の大型モニターに映し出される。
続けて黒の巨大船団が、波を割って突き進むシーンが始まった。
『……弱い』
エキドラの植物に飲まれて崩壊した都市が次々に映し出され、女王が愉悦の笑みを見せる。
続けてグラムの激戦と、悔しそうな顔。
アルトリッテ渾身の一撃に耐えた敵少女が、楽しそうに頬を緩ませる瞬間。
そしてメイと槍使い少女の、人知を超えた驚異的な戦闘。
『一週間の猶予をやろう』
ここで再び巨大船団を率いた、女王の画に戻る。
『選べ、弱き人間どもよ。隷属か、それとも――――滅亡か』
挑発的でありながらも、圧倒的な王者の風格を見せる女王シャナ・ルドラジャ。
再び画面が黒くなり、そこに文字が映し出される。
――――決断の日まで、残り6日。
「すごーい……!」
さつきが、「おおーっ」と感嘆の声をあげる。
星屑運営が新たに打ち出した宣伝は、プレイヤーならずとも思わず息を飲んでしまうものだった。
「また、とんでもない映像を持ってきたわねぇ」
「はい……映画の宣伝かと思いました」
「な、七日後には運営さんが、各地でライブ上映をするみたいですね。さらに各所での戦いを、CMとしても使うんだとか……!」
「まもり、アイスがこぼれ落ちるわよ」
「あ、ああっ!」
呆然と大型モニターを見つめていたまもりが、三段アイスがこぼれないように慌てて唇で止める。
四人は7日間の猶予期間の間に、せっかくだからといつもの大型モニターに、宣伝映像を見に来たのだった。
「つばめちゃん、一口ちょうだいっ」
「っ!? ど、どうぞ……」
差し出したアイスをうれしそうに舐めるさつきに、思わず息を飲むつばめ。
「ありがとーっ! つばめちゃんもどうぞっ!」
「っ!? は、はいっ」
もちろん、もう何味なのか全く分からない。
「映像、すげーな……」
「巨大船団、生で見たけどすごかったぞ。あの迫力は異世界からの攻勢以来の規模だった」
「どうなるのか、楽しみだな……!」
「トップ勢の動きはもちろん、五月晴れは今回もやってくれるのか……!」
通り過ぎていく学生らしき二人組も、映像に興奮しながら進む。
「こうなってくると、地球最後の日まであと7日! みたいな感じがあってドキドキするわね」
「人によって、過ごし方が全然違うのも面白いねっ」
「トップの皆さんは、新たなスキルの入手や装備の回収に熱くなっているようですね」
「な、なんでも一日で計上されている経験値やスキルブックの交換回数などが、過去最大になっているそうです……!」
「すごーい!」
いよいよアイスがこぼれ落ちそうで、必死に食べるまもりに笑う可憐。
「まあグラムやアルトリッテのパーティで、部下を追い返すのがやっとだって考えると、間違いなく大変なことになるものね」
「はい、だからこそ皆レベルアップに全力なのでしょうね」
最強前衛の一角と名高い二人の苦戦は、やはり衝撃だったようだ。
またそんな強者のさらに上に、女王という絶対的な存在がいるという事実。
そうなれば自然と、戦いに向けた動きが盛んになる。
少しでも勝利に貢献できるよう、商人までもがスキルや装備品を探して駆け回る状況は、かつてない状態だ。
『猶予』というまさかの一週間は、星屑を始めとしたVRMMO界隈でも類のない時間となっている。
クエストの結果次第で都市すら潰し、異世界からの侵攻で世界が変わってしまう可能性もあった。
そんな星屑ならではの危機は、当然各界からも熱い視線を向けられている状況だ。しかし。
「でも四人一緒に、こんなに大きな物語に挑むなんて……ドキドキしちゃうね!」
それでもさつきは、目を輝かせて楽しそうだ。
ここが星屑の中だったら間違いなく、尻尾がブンブンと左右に振られていただろう。
「ふふっ、メイは変わらないわね」
出会った頃から変わらないその笑顔に、可憐も笑う。
敗ければ、世界は奪われる。
これまでの自由で楽しい世界の中に怖さが潜むのではなく、奪われた世界での行動が基本という状況になるだろう。
「仮に世界を奪い返す形になっていっても、皆さんと一緒だったら楽しいと思います」
「は、はひっ」
こうなってくると、つばめたちも楽しくなってきてしまう。
「試しで使ったメイさんの新スキル……すごかったですね」
「は、はひっ。驚きました」
「えへへ、私もワクワクしちゃったよーっ! 場所次第ではもっとすごいことになるかもっ!」
メイの新スキル【百獣の王】も、試してみればその効果は上々。
早くも大きな戦いでの発動が、楽しみな状態だ。
それは敵の巨大さよりも、新たなスキルをどう活かすかの方に意識が向いてしまうほど。
「もちろん、準備の方もしていくけどね。私は【絆のルーン】の準備をしたいし」
何よりダンジョンなどにこもってレベル上げをするプレイヤーが多くなっている中、集まって宣伝を見に行くことを選んだのは、五月晴れならではだろう。
「せっかくだし今日は、ちょっとオシャレな喫茶店で作戦会議でもして帰る?」
「いいと思いますっ!」
野生度が下がりそうな誘いには、全力で乗っていくさつき。
「はい、ぜひそうしましょう」
「パ、パフェでも食べましょうか」
もちろんつばめたちも、異論はなしだ。
「ふふっ、まだアイスを食べるの? 口周りを汚すのはメイだけだと思ってたのに」
「うええっ!?」
慌てて口周りを拭うも、汚れが反対側でまるで取れてないさつきと、溶けかけていた上二つのアイスを食べ終えて安堵の息をつくまもり。
「ほらメイ」
「ありがとーっ」
「あ、ありがとうございますっ」
可憐はハンカチを取り出して、二人の口元を拭う。
世界をかけた決断の日まで、残りは6日。
それでも四人は並んで、笑いながら作戦会議へと向かうのだった。