作品タイトル不明
1504.続く襲撃
「「ローラン!」」
石造の港湾都市ルネンベルグ。
逼迫した叫び声をあげたのは、神槍のグラムと金糸雀の二人。
敵は褐色の身体に毛皮の腰巻と胸元だけを隠すキャミソール、長い銀糸の髪を三つ編みにした少女だ。
大柄な弓の一撃はついに、ローラン・アゼリアを捉えた。
「ごめんね、回避が間に合わなかった……!」
HPゲージがそこを突き、久しぶりの敗北を喫したローランは、倒れ伏したまま無念そうにつぶやく。
「このままじゃ、終われねえよなあっ!」
仲間の敗北に咆哮を上げたのは、大きなハンマーを振るう戦士である金糸雀。
長い金髪を雑に結んだ、ちょっと不良っぽい雰囲気の少女だ。
「【アクセルスウィング】【キャンセル】!」
距離を詰め放つのは、豪快な大型ハンマーの振り降ろし。
「【ギガントハンマー】! オラァァァァァァァァ――――ッ!!」
巨大化したハンマーは地を砕き、衝撃波が駆け抜ける。
「……回避可能」
しかし少女は感情もなくそう言い放つと、低く長い後方へのステップで金糸雀の一撃をやり過ごす。
「逃がすかよっ!」
金糸雀はグラムと視線を合わせ、ハンマーを抱え直す。
「【グングニル】!」
重い破裂音を鳴り響かせての投擲は、走る閃光のよう。
続けざまの回避は、斜め後方への大きな跳躍で行う。
「っ!」
グラムの投じた神槍をかわし、着地したところで妖しい輝きをまとう金糸雀の姿に気づく。
「行くぞ……【金剛武装】ッ!!」
それはどんな攻撃を受けてもノックバックなしで進むことができ、さらに『中遠距離攻撃』に対する防御まで上げるスキル。
走り出した金糸雀の移動速度までもが、みるみるうちに上がっていく。
追いつかれれば一撃必殺のハンマーで即死という、恐ろしい状況下。
だが敵の少女は慌てず、無数の蝶を描いたタトゥーの入った右腕を掲げた。
「【雷蝶イミグレーティア】」
するとバングルが輝き、空間を割って飛び出してきた大量の蝶が襲来。
バチバチと黄金色に輝く蝶たちが、激流のように金糸雀へと殺到していく。
それは中遠距離攻撃を大幅に軽減する金糸雀の足が、遅くなるほどの高速怒涛の攻撃だ。
一直線に駆ける無数の雷光が恐ろしい速度で激突し、迫る金糸雀のHPを削り取っていく。そして。
「マジ……かよ……」
なんと十数メートルの余裕を残して、ゲージを削り切った。
「金糸雀!」
敵の少女は短く息をつくと、倒れる金糸雀に大した感慨も見せずに狙いを変更。
後方へ大きく跳躍しながら一回転。
叫ぶグラムに向けて、空中から大きな弓を向けた。
「【クラウド・サジタリエ】」
数十の光矢が、一斉に放たれる。
一度は広がった矢の軌跡は、途中で一斉にグラムを狙うようルートを調整。
群がる形で迫り来る。
「【大車輪】! 舐めるなァァァァ――――ッ!!」
しかしこれをグラムは、槍の高速回転で払って走り出す。
「【アロー・フランマ】」
放たれる炎の矢を、右にかわしながら駆ける。
「【アロー・ウェンタス】」
続く風の矢を、左にかわして進む。
「【アロー・アダマンティウム】」
「【鬼人の加護】!」
ごく短時間だが物理ダメージを大幅減少するスキルで、輝き銀の矢を肩で受け止め特攻。
「【ソニックドライブ】【クインビー・アサルト】!」
砂煙を上げながら放つシンプルな突きは、穂先から放たれた閃光が炸裂し、猛烈な衝撃を放つ。
その威力に吹き飛ばされた褐色少女は地を跳ね転がり、それでも回転を利用して立ち上がる。
「起き上がったのは失敗だったな! 【グングニル】ッ!」
重い破裂音を鳴り響かせての投擲で、走る閃光。
しかし敵の少女も、臆することなく反撃。
「【雷光蝶】」
すれ違う槍と雷蝶。
先手を打ったグラムの一撃は見事に敵を討ち、褐色の銀髪少女は再び地面を激しく転がった。
一方【雷光蝶】はグラムの肩を弾き、そのまま通り過ぎて炸裂。
付近にまばゆい閃光を走らせた。
「……思った以上の使い手。ここは一度下がる」
残りHPが5割を切ったところで、褐色少女は撤退を名言。
「だが、この程度なら――――恐れるに足らず」
「させるかあっ!」
グラムはすぐさま槍の投擲モーションに入るが、迫る一匹の【雷光蝶】に回避を優先。
どうにかかわすと、褐色少女はすでに姿を消していた。
「おお……っ! 追い返したぞ!」
「さすが神槍だな」
その光景を見た観客たちは口々にグラムの功績を湛える。しかし。
「ふざ……けるなーっ!」
グラムは【グングニル】を、地面に叩きつけた。
どう考えても、五割のところまでHPを減らしたところで強制終了となるクエストの類。
目的こそ達したが、こちらは金糸雀とローランが倒れ、グラムの残りHPはわずか16ほど。
それは常勝のグラムにとって、敗北も同然だった。
◆
「……大きなクエストの、ボスより強力」
「だが、勝利を譲ってやるつもりはないぞ!」
砂漠とオアシスの街マスダリア。
つぶやくマリーカとアルトリッテの前には、楽しそうに笑う見事なスタイルの女性。
褐色の肌に革製の下着と、毛皮のコートを羽織るのみ。
金色の髪で作った三つ編みを頭に巻き、足には銀のアンクレット。
手にした飾り付きの大斧が、ギラリと輝く。
「……【霊鳥乱舞】!」
マリーカの攻撃で、一斉に飛んでくる光の鳥たち。
褐色女は楽しそうに唇を舐めると、左足を強く踏み鳴らす。
「【ウォール・サンドラ】!」
すると地面を割って噴き出した砂壁が、霊鳥たちを完全に粉砕。
「【プラッシュ・サンドラ】!」
「……っ!?」
足元から盛大に出す砂の勢いを使い、マリーカに一瞬で接近。
羽飾り付きの大斧を振り回す。
シンプルな振り降ろしを、マリーカは決死の横っ飛びで回避するも、駆ける衝撃に転がる。
「【ペガサス】!」
追撃は許さない。
アルトリッテは【天馬靴】から生える光の翼で、地上を滑るような動きで進んで剣を振る。
「【ホーリーロール】!」
そのまま豪快に一回転。
「まだまだっ!」
そこからさらに連続でもう一回転、聖なる光の横なぎを叩き込む。
「いいねぇ! そういうのだよっ!」
アルトリッテの連続攻撃を斧の柄で受け、弾かれた褐色女性との間に生まれる距離。
「【サンドラ・シーカ】」
褐色女が高く脚を蹴り上げると、生まれる砂刃の弧。
「っ!」
アルトリッテは慌てて真横へ回避。
「もう一回っ!」
今度は回し蹴り、すると水平の砂刃が再び弧を描く。
「くっ!」
「ほらほらどうした! もっと楽しませてよ――――ッ!!」
「言われるまでもない! 【シールドブラスト】!」
手にした盾を振るうことで放つ爆風が、砂刃とぶつかり飛沫を巻き上げる。
「いいね! そうこなくっちゃさァァァァ――ッ! 【プラッシュ・サンドラ】!」
褐色女は足元に生まれた飛沫に押されて、アルトリッテの元へ。
「そーらァァァァ!」
シンプルな振り降ろしが、地面に突き刺さる。
するとそこから自分を軸にして放つ、豪快な振り払い。
「くっ!」
とても重量装備とは思えない速さに、回避に集中することしかできない。
「【エクスシリール・サンドラ】!」
右足の強い踏み込みは、地面にクモの巣のようにヒビを走らせ噴き出す砂刃。
アルトリッテが思わず足を取られ、崩れる体勢。
「……【霊鳥】!」
しかし魔力で形作られた一羽の鳥を、マリーカが突撃させる。
「いいね! いいよォォォォ!!」
追撃を阻まれた褐色女性は光の鳥をかわして、一転斧を投擲。
「……【ハードリフレクター】ッ!」
マリーカを囲むように現れた白い四枚の魔法壁がギリギリで、斧の直撃を阻む。しかし。
一撃で粉砕されて転倒。
「……【分霊】!」
しかしここで残した、魔力製のマリーカ二人が本人の背後に立つ。
「【霊鳥鳳火】!」
霊鳥たちが集結して一羽の輝く巨鳥となり、まばゆいほどの光彩を放つ。
鳴き声のような高音を響かせると、二匹の鳳凰が空中で一回転して突撃。
「へえーっ、やるじゃん!」
うれしそうに笑う褐色女は直撃を避けるも、焼かれて大きく体勢を崩した。
「ここだ!」
そしてマリーカの生みだした隙を、アルトリッテは逃さない。
「解放剣技! 【エクスクルセイド】!」
キラキラと輝く黄金の粒子をまといながら、振り下ろす聖なる光の刃。
直撃して、褐色女は弾き飛ばされた。
「【転身】」
「っ!」
しかし受け身スキルを使うと、即座に反転して斧を拾い跳躍。
「【エウレシアの穿つ風】!」
迫るのは盛大な斬撃エフェクトと共に放たれる、豪快な回転撃。
「【セイントシールド】!」
金色の盾を構え、タイミングをしっかり合わせての始動。
それは近接武器による攻撃と、派生スキルまでもカットする『お宝級』の盾スキル。
「ぬああああああ――――っ!」
防御は成功させたが、その威力はすさまじく、アルトリッテは地を転がった。
追撃はなし。
「思ったよりは悪くないけど……本気でやるってほどでもないかなァ」
褐色女性は残りHPが7割を切ったところで、アルトリッテとマリーカを見てそう言い放った。
「そろそろ行くわ。次はもっといっぱい遊ぼうね。私の可愛いオモチャたち……アハハハハハッ!」
そして足元に炸裂させた砂飛沫を利用して大きく跳躍すると、そのまま消えて行った。
「な、何者だったのだ……?」
「……謎。でも、ただ者ではない」
唖然とするアルトリッテと、マリーカ。
二人は座り込んだまま、大きく息をついた。