作品タイトル不明
1361.飲食店で待ち構えます!
オーダーを一定時間待たせてしまうと、NPCの補助が入ってしまう。
そのためプレゼントに【魔宝石】を選ぶ対象者を、見落とす可能性が高くなる。
そんな、少し変わり種のクエスト。
「なああああっ! 止まってえ――っ!!」
見事な客さばきを見せていたメイたちの店に聞こえてきたのは、クエストNPCの声。
なんと狼の従魔が三体、腹を空かせて店に飛び込んで来た。
「きゃあっ!」
腹をすかした狼は、目を輝かせながらパイに向かって大喜びで特攻。
まもりの手にあった、制限時間近い三枚のパイが宙を舞う。
落ちれば狼に喰われて作り直しとなり、時間に間に合わない。
「【加速】【スライディング】!」
これに一早く気づいたツバメが、駆けてきて一枚を見事にキャッチ。
「【装備変更】【バンビステップ】!」
耳が【狼耳】に代わったメイは、入れ替わり中の客の間を華麗にすり抜けてダイビング。
そのままローリングで、残り二枚のパイを受け止めるが――。
「飲み物が……っ!」
可愛いカップに入った飲み物は、そこからさらに先に落下していく。
「いーちゃん!」
ここでローリングの、早い立て直しが活きる。
飛び出してきた真っ白なイタチは、猛ダッシュで追走。
その両手で、どうにか受け止めてセーフ。
「捕まえちゃうにゃっ!」
その隙にクルデリスが、一体の従魔狼を力強いヘッドロックで捕らえた。
「それーっ!」
さらにスキアが、元気なメイド風な声をあげながら組み敷いて二体目も確保。
「今のうちにっ!」
レンもスキアの様に、三体目を身体を使って止めることに成功するが――。
「ウォオオオオオオ――――ッ!!」
「なっ!?」
従魔狼があげた咆哮は【獣呼び】
直後、新たな狼たちが呼ばれて店に駆け込んできた。
続くまさかの危機に、誰もが息を飲む。
「……あれ?」
しかしメイが、違和感に気づいた。
実際に飛び込んできた狼たちは、色味が薄い。
それも当然。
いくら仲間を呼んでも、『従魔が突然増える』ということはシステム的にない。
よって【獣呼び】は、動物の狼を呼ぶスキルとなる。
要するにこれは、【呼び寄せの号令】と同じだ。
そのことに、感覚で気づいたメイは――。
「おすわりっ!」
「「「ワンッ!!」」」
ピタリと、その場に並んで座る追加の狼たち。
メイは見事な指示で、狼たちの攻勢を止めることに成功した。
「いい子だねーっ!」
近寄っていくと、一斉にじゃれつかれてもみくちゃに。
そんなメイに、思わず笑みがこぼれる。
「「「おおおおおお――――っ!」」」
「声一つで止めるのすげえーっ!」
「さすがメイちゃん! 野生児の力は伊達じゃないな!」
「違うんですっ! ちょっと動物たちと仲がいいだけなんですっ!」
メイの野生児ぶりに、わき立つ店内。
従魔の狼たちも捕まってしまえば後は大人しく、パイを買ったNPCに連れられ店を出ていった。
「それじゃあそうだなぁ……【魔宝石】にしようかな」
「「っ!?」」
一息つきかけた直後、一人の青年がプレゼントから【魔宝石】を選んだ。
相手をしていたのは、狼騒動から離れて全体を見ていたレン。
【聴覚向上】のメイも、ハッと顔を上げた。
「まずは私が追うわ。メイの機動力なら間違いないけど、こんなにすぐ来るとは思えないし、店の対応力を重視したいから」
「りょうかいですっ!」
レンは【変身の杖】の効果を切って着替えてから、【魔法石】を手にした青年を追いかける。
「【魔宝石】を選ばれると、追いかけての確認作業が必要になるから、その分だけ店から人が減って客の対応が難しくなるのね」
青年は、何かを気にする様子もなく街を進む。
「これ、見切る力も必要になるわ……」
深追いすれば当然、店に人手が足りない時間が長くなる。
だが、追跡を止めた後に対クエスト受注者だったことが分かるのは最悪だ。
レンは悩んだが、仕方なく青年の後を追い続ける。
「誰か来た……!」
【魔法石】を手にした青年は、一人の黒衣装魔導士と合流。
「例のアレ、手に入れたぞ……」
「そうか……よくやったな」
「っ!!」
二人の会話に、思わず息を飲む。
レンは意識を集中し、その話の内容に耳を傾ける。
「これで悲願に、また一歩近づいた」
「この感じ、間違いないかも……っ」
笑い合い、そのまま街外れへと進んで行く二人組。
「さあ、このまま魔法陣のもとに連れて行ってもらうわよ」
追従するレン。
青年たちはさらに街の隅へと進み、一件の店の前で足を止めた。
「その【魔法石】、どうするつもりかしら?」
「っ!」
「使徒長……!?」
二人は驚きと共に、顔を向けてきた。
「なるほどね。この店で何をするつもりだったのかしら?」
降臨祭を潰すクエストの受注者に、ぶつける問い。
「ここで、その出力を上げるんだよ」
「隠す気はなしってことね」
レンは静かに杖を取る。
「もちろんだ! 俺は正々堂々戦って勝利する! ――――次のドールバトルに!」
「……えっ?」
「俺のドールは【魔宝石】によって出力上げができるんだ。だから今度こそ、不敗のなーにゃに勝って見せる!」
「ま、紛らわしいこと言わないでよ――っ!」
どうやら完全な勘違いだったらしい。
レンは思わず頭を抱えて叫ぶと、慌てて店に戻るため走り出した。
一方その頃、レンを欠く店は慌ただしさを増していた。
スキアが走ることでキッチン前の席をさばいているが、やはり待ち時間が長くなり出している。
そんな中。
「【魔宝石】でお願いします」
「っ!!」
物静かな黒ローブの少女が、【魔宝石】を選択。
「ベリアルのいない隙に、本命っぽい者が……!」
店の状態を見て、悩むスキア。
しかしあくまで、クエストの目的は魔法陣の発見。
「スワローちゃん、お願いっ。お店は私が少し足を延ばして、前衛組の助けに入るからっ」
「はいっ」
スキアは可愛らしい挙動で、追跡任務をツバメに頼むことにした。