軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1261.温泉

「はあーっ」

さつきが、吐息をついた。

「「「はあーっ」」」

すると可憐たちも、それに続く。

四人だと、まさに程よい広さといった感じの温泉浴場。

ここは大浴場とは違い、予約が必要になる家族向け。

色合いの良い木材で作られた浴槽と、石材部分のバランスは高級旅館ならでは。

竹筒から注ぎ込まれる湯が、常になみなみとした状態を作ってくれるのが、最高に贅沢だ。

「浴槽が木製になると、雰囲気が大きく変わるわねぇ」

「そうだねぇ」

「カ、カポーンっていう音がしないですね」

「そうですねぇ」

「ちゃぷちゃぷ音がたまらないねぇ」

「そうねぇ……これって、ウェーデンみたいな北方の雪国で冒険した後だと、また違った感覚になるのかしら」

「雪の世界のひんやり感の後に温泉は、気持ちよさそうですねぇ」

「「「「はあ――っ」」」」

頭に乗せたタオル。

四人、とろけたまま続ける会話。

目の前を、ツバメが持ってきたヒヨコがゆっくりと通り過ぎていく。

「まもりさん、この後は確かお仕事でしたね」

「は、はひっ。レビューとレポーターのようなことをするらしいです……!」

「食レポというやつですね」

「食レポ!? すごーい!」

「でも、よく引き受けたわね」

「は、はひっ。なんでも新しいメニューを先駆けて紹介するという事らしいので……っ」

レポートの依頼なんて、普通なら受けないまもり。

しかし新作の食べ物が味わえるうえに、飲食システムが盛り上がるほど新たな可能性が出てくるということで、我慢できずに引き受けてしまったようだ。

たくさんのメニューや食材が追加されていくという運営の言葉は、見事にまもりを動かした。

「食レポかぁ……楽しそうだなぁ」

「メイさん、こちらの焼き魚いかがでしょうか」

「おいしいですっ!」

「それでは、こちらのお肉はいかがでしょうか」

「とってもおいしいですっ!」

「それでは、こちらの特製ジェラートはいかがですか」

「すっごくおいしいですーっ!」

「ふふっ。おいしいの三段活用なのね」

おいしいの前に言葉を増やすことで、三つのパターンを見せるさつきに、可憐が笑う。

「メ、メイさんの場合は、表情だけでいいのかもしれませんっ」

「そうですね」

メイの場合は満面の笑みで「おいしい」と言うだけで、それ以上は要らない。

これには、つばめも納得だ。

「それにしても、今回のイベントも力が入っていますね」

「育成バトルは初めてだけど、かなり良い感じで成長してるんじゃないかしら」

「ほ、本当ですね。最後に戦った時に見せた動きには驚いてしまいました。素晴らしい速さです……っ」

「特訓には失敗もあるはずなんだけど、ここまでミスはなし。それもプラスに働いてるわね」

「スキルはどんなのがいいのかな! 闇の剣みたいなカッコいいのがあったらいいなぁ」

「闇の要素は要らないわよ……っ! でもここからどんな戦い方をするようになるのかは、確かに楽しみね」

「「「「はああああ――っ」」」」

四人、またピッタリのタイミングで息をつく。

「ノド乾いてきちゃった! そろそろ上がろっかなっ」

そう言ってメイが脱衣所へ向かうと、三人もあとに続く。

大きな鏡に落ち着いた色使いの壁紙は、パウダールームという言葉の方が似合いそうだ。

せっかくだからということで部屋から持ってきた浴衣を、さつきはさっそく着込む。

「メイさん、その浴衣さすがに長くないですか?」

「備え付けの浴衣は男女両方あったけど……男性用の方を持ってきたのね」

裾を引きずって歩いているの見て、笑う三人。

さつきはそのまま、お洒落な扇風機ことサーキュレーターの前に座った。

バサバサする髪と浴衣に、また可憐は笑ってしまう。

すると、さつきはキョロキョロと辺りを見回し出した。そして。

「レンちゃん……」

「なに?」

「コーヒー牛乳がない……」

「こういうところでは、なかなか見つからないんじゃない?」

定番の冷蔵できるガラスケースは見つからず、困惑するさつき。

やはりさつきのイメージでは、温泉と言えばあのスタイルなのだろう。

「ええっ!? それだと一体何を……腰に手を当てて飲めばいいんだろう……」

「ふふっ、別に決まりじゃないわよ。腰に手を当てるのは」

「こういう旅館だったら、おしゃれなアイスコーヒー牛乳が出てくると思ったのに……」

「あははははっ。高級なところだといつものコーヒー牛乳が、フラペチーノになるかもって思考は斬新ね」

「部屋に置いてあったお水でよければ、持ってきていますよ」

「本当ーっ!?」

さつきはさっそく受け取って、勢いよく半分ほど飲み干す。

「ありがとーっ!」

そして残りを、「つばめちゃんも飲んでね」と返した。

自分は部屋に戻ってから、新しいボトルを開けて飲もうと思っていたつばめ。

「あれ、つばめさん湯あたりですか?」

その姿を見て、まもりが首を傾げた。

「さっぱりしたし、お部屋でのんびりしよっか!」

そう言って、さつきが歩き出す。

引きずるほど長い裾を、そっと持ち上げる可憐とつばめ。

「……そ、それだとさすがに短くないですか?」

ミニスカートくらい脚が出ているメイを見て、まもりは笑いながら後を追いかけるのだった。