作品タイトル不明
1207.アジトとサブクエスト
「もう少しで二号機や三号機が続々とロールアップする予定だ。それまで少し待っていてくれ」
「りょうかいですっ!」
とても賊とは思えない、元気な返事をするメイ。
ブルーウィングは、空賊ウィンディアのアジト目がけて飛ぶ。
上空から見えたのは、密に木々が並ぶ山林。
高度を下げて進むと、そこには大きな滝があった。
高さもそうだが、特筆すべきはその大きな横幅だろう。
「これってもしかして……」
「ぶつかっちゃうよー!?」
メイがワタワタと手を振る中、飛行艇はゆっくりと進んで滝の中へ。
「ええっ!?」
メイは一瞬で表情を驚きに変える。
大きな滝の中には、飛行艇の発着が可能な広い基地が隠れていた。
「これは、なかなかのものね」
「そうですね……空賊と聞いていたので、もっと荒れた感じなのかと思っていました」
「飛行艇の図面を自分で引けるほどの『空』好きな資産家が、俺たちの活動を応援してくれてるんだ」
エアはそう言いながら、飛行艇を降りる。
「こういうタラップ、気分が上がるわね」
飛行艇の基地ならではの、乗降のための移動式足場。
これを渡って四人は、基地の格納庫に足をつけた。
「おおーっ! あれが組み立て中の船だねっ!」
「途中まで組まれたものが、複数ありますね」
「た、たしか一つのフロートから、八機の飛行艇と言っていましたっ」
当然、造船所のような迫力のある光景は初めて見るもの。
四人は思わず、視線を右に左にと忙しく走らせる。
「新人のスカウトを、ウィンディアの皆に説明してくる。君たちは自由にしていてくれ」
「こういう時は、細かなクエストなんかを探すのが定番だけど……」
立ち去るエア。
レンが辺りを見回しながらクエストのきっかけを探していると、イスカがやって来た。
「まいったなぁ」
「さっそくね。どうしたの?」
レンがたずねると、イスカは待っていましたとばかりに話し出す。
「実は使い捨ての【パラシュート】か【グライダー】を作ろうと思ってたんだけど、素材が足んなくてさ。森の奥で取れるんだけど……結構な手間なんだよ」
「そういうことなら、私たちが取りに行きましょうか」
「そいつは助かるな! よろしく頼むよ!」
イスカはそう言って、マグカップを渡してきた。
「マグカップ……? これをどうすればいいのですか?」
「バルーンの木の新枝に傷をつけて、こぼれた樹液を溜めるんだよ。新枝から取れる液体は固まると、すごく薄いのに伸縮性があって丈夫な風船みたいになるんだ。それならかなり小さく折りたたんだ【グライダー】や【パラシュート】ができるってわけ!」
「なるほどぉ」
「ただあの森は結構危険もあってさ。特にバルーンの木の辺りは注意が必要なんだよ」
「そういうことなら、おまかせくださいっ!」
メイの元気な答えで、クエストの受注完了。
「やってもやらなくてもだけど、受けておけば役に立つアイテムになる感じのクエストってところね」
「せっかくですし、基地の周りを散歩するつもりで行ってみましょう」
こうして四人は、洞窟でつながった出入り口から森へと繰り出した。
密林と言うほどではない森の様子は、割と穏やかに見える。
四人はそのまま真っ直ぐ、イスカに指定されたバルーンの木を目指して進む。
「あれがそうかしら」
「そのようですね」
割りと分かりやすく、樹の本数が減っている区画。
そこには黄色味の強い樹が一本立っていた。
なかなかの高樹だが、特徴的なのは葉の素材感だ。
薄緑の葉は名前の通り風船のような薄さで、向こう側がギリギリ透けて見える。
「それではさっそく!」
メイはゴーグル少女から受け取ったマグカップを取り出して、スタンバイ。
「いきます【跳躍】」
ツバメが大きく跳んで、短剣でバルーンの木の枝を斬る。
するとほどなくして、枝から一滴の樹液が零れ落ちてきた。
メイはしっかりと、これをキャッチ。
そこからはポタポタと落ちる樹液を、集中して受け止める。
「お、落ちてくる一滴一滴を、見つめるクエストでしょうか」
「せっかちさん殺しですね」
そんなことをつぶやくまもりとツバメに、レンがくすくすと笑っていると――。
「どうやら、そうはいかないみたいよ」
そこに現れたのは、体高2メートルほどのブルーグリズリー。
ツバメはすぐさま攻撃体勢に入るが、異変あり。
「HPゲージがありません」
「普通に動物ってこと?」
クマは特に攻撃体勢に入ることもなく、なぜか二足歩行でやってくる。
しかも両手を上げて、まるで『抱きしめ』に来るかのような体勢で。
「そういうこと! これこのままだと抱き着かれてこぼしたり、落ちてくる樹液を受け止めそこなったりする感じになるんだわ!」
まさかのクエスト内容。
一滴一滴ためた樹液を、抱き着きクマによって盛大にこぼすというのは、賽の河原のようだ。
「ちょっと待っていただけますか?」
こうなると攻撃するにもいかないツバメは、その身一つで立ち塞がるが、クマは止まらない。
そのままツバメを、シンプルな体幹の強さで押しのけて進む。
ツバメは思い切って抱き着くが、それでも引きずられるのみだ。
クマはそのままメイのもとへたどり着くと、思いっきり抱きしめに来た。
「うわっと!」
メイは抱き着きをかわす。
するとしょんぼりしながら帰っていくクマを見送って、あらためて落ちてきた樹液をマグカップで受ける。
「何このクエスト」
思わぬ方向性のクエストに、さすがに笑うレン。
「なんか、いっぱいきたかもー!」
メイの猫耳が、ぴくぴくと動く。
すると今度は木々の隙間から、たくさんのクマたちが登場。
二足歩行で両手を上げ、メイのもとに左右から駆け寄ってくる。
「この数はやっかいね! でも、動物であるのなら!」
「止まってくださーい!」
マグカップ持ちのメイは、開いた手のひらを突き出して制止を要求。
するとクマはメイの動物値の高さに、大人しく止まる。しかし。
クマたちは記憶力がないのか、一度立ち止まっても数秒で「あれ?」となってまた寄ってくる。
どうやら、ニワトリよりも鶏頭のようだ。
「あっ! 止まってください!」
右のクマたちを止めると、左のクマが接近。
「そっちの皆さんも、止まってくださーい!」
左のクマを止めると、何を言われたのか忘れた右のクマが接近してくる。
「回れー右っ!」
ここでメイは森に帰ってもらおうと、右側のクマたちに向けて『振り返る』ように言う。
するとこちらに背を向けた時点ですべて忘れて、またすぐに振り向いて寄ってくる。
「これは大変だー!」
「敵じゃないことがむしろ、手間を増大させています!」
それは、構って欲しい時の犬や猫のような状態。
ツバメも正面に立って押し返そうと狙うも、少し遅くなる程度。
まもりの腕力で、ようやく少し押し返せる感じだ。
ここでレンは、メイがクマ対策に出た方が良いと判断。
「メイ! 一度変わりましょう!」
「りょうかいですっ!」
一滴ずつ見守る担当に変わる。
「お願いっ、いーちゃん!」
さすがにまとめて剣で吹き飛ばすような形は、取れないメイ。
駆け抜ける烈風で、ブルーグリズリーに対応。
するとクマたちは、ゴロンゴロンと転がって遠ざかっていく。
これでようやく息をつくことができた四人。しかし。
「ええええええ――――っ!?」
思わずメイが叫ぶ。
そこに現れたのは、3メートル級の大ブルーグリズリー三体。
別々の方向からやはり、二足歩行状態でハグを求めて猛ダッシュ。
「あはははっ! なんなのよこれ!」
「どどど、どうしますかっ!?」
「もちろん、攻撃なしで押し返しましょう!」
「りょうかいですっ!」
「は、はひっ!」
何とも滑稽なピンチに、レンは笑いながら応えた。