作品タイトル不明
1208.こぼしたら負けのクエストです!
「今度は大型のクマ!?」
おかしなクエストに、レンは笑いながら声を上げる。
魔物ではないうえに、全く悪意のない顔のせいで、攻撃するのは忍びない。
しかしその抱き着きは間違いなく、バルーンの木の樹液を溜めているマグカップをひっくり返してこぼそうという狙いのもの。
三体の大型ブルーグリズリーは三方向から、砂煙をあげながら駆けてくる。
「今度はツバメにマグカップを任せてもいい?」
「はいっ」
ツバメは駆け足でカップを受け取って、待機。
走って逃げる形でも、高速なら当然それだけこぼれてしまう。
よって足の速さではなく、クマにキッチリ対処することが大事だ。
「「いきますっ!」」
「きなさいっ! 【低空高速飛行】!」
機先を取ったのはレン。
一気に距離を詰め、駆けるクマの真横をそのまますり抜ける。
しかしその時、タッチすることだけは忘れない。
脚にしっかり触れたレンは距離を稼ぐように前方へ。
「【チャリオット】【地壁の盾】!」
ここでまもりは大きめの盾を、前に向けて突進。
ブルドーザーの要領で、大型ブルーグリズリーを正面から押し返していく。
「【ターザンロープ】からの【バンビステップ】!」
そしてメイは三体目のクマの胴体にロープを巻き付け、シンプルに『けん引』の感じでズルズルと引っ張っていく。
ツバメは残った一体のクマの接近に、注意深く視線を向けつつ落ちてくる樹液をキャッチ。
目前まで来たクマが、帰宅した主人に飛びつく犬のような勢いで跳躍した瞬間。
「発動!」
その姿がレンに入れ替わった。
「あっ! ツバメ避けて!」
「はいっ!」
跳躍中だったため、空中に現れたレンはそのままスライディングのような姿勢で滑って停止。
苦笑いしながら立ち上がる。
するとそこに、肩を落としながら帰っていくクマを見送ってきたメイとまもりが戻ってきた。
「あと少しです」
そしてツバメが、もう一滴受け止めたところで――。
「今度は空からドラゴンがきたよ!」
「なんなのよ、このクエストーっ!」
「あはははははっ!」
飛来して来たドラゴンがまた、顔からしてのんびり屋。
どう考えても敵ではなく、レンとメイは一緒になって笑ってしまう。
「ど、どうせならもう敵の方がいいですね……っ!」
「まもりちゃん! ブレスの動きだよっ!」
「は、はひっ!」
ドラゴンは予想に反して、大きく三度ほど呼吸を繰り返し、一度首を後ろに引いた。
「ブレスじゃないかも……この動きって、くしゃみ?」
「まもりィィィィ! ツバメの盾になってぇぇぇぇ――――っ!!」
「はひっ! 【不動】【天雲の盾】!」
確かに竜の口内に、ブレスなら見える炎の輝きはなく、またこの動きは人間なら確実にくしゃみのもの。
直後、吹き荒れたのは暴風。
「きゃああああ――っ!」
「うわああああ――っ!」
レンとメイが転がり、マグカップを持ったツバメはまもりの背後で事なきを得る。
「申し訳ない」と、手刀を切って去っていくドラゴン。
だが、事態はこれだけで終わらない。
「……また、空から?」
メイが視線を上げる。
その先に見えたのは、一体の巨大な鳥。
「もうその見た目なら、敵でいいじゃない!」
翼を広げた体長は約5メートルほどもあり、レンは笑いながらツッコミを入れてしまう。
口笛を吹きながらやってきた巨鳥はそのまま滑空し、長い翼で地を擦るほどの低空飛行で接近。
「いきます」
ツバメはタイミングを見計らい、思い切ってジャンプを選択。
「【跳躍】!」
「【浮遊】!」
「【ラビットジャンプ】!」
メイはまもりを抱えての跳躍。
レンは『着地時の反動』などを考えると、自分が受け取るべきだったと苦笑い。
ツバメは集中してカップを平行に保ち、そのままヒザを全力で曲げる形の柔らかい着地を決めた。
「こぼれて……いませんっ」
カップのフチを撫でていく樹液は、しかしこぼれることはなし。
ようやく全員で安堵の息をついた、その瞬間。
「「「「っ!?」」」」
その瞬間を狙っていたかのような、高速ダッシュの子ブルーグリズリーが突撃。
その狙いは、ツバメの背中だ。
「ダメーッ!」
今まさにジャンプしようとした、その瞬間。
メイが飛び込み、スライディングで子グマを抱きかかえた。
「「「…………」」」
ギリギリセーフ。
思わず四人で顔を見合う。
「あはははははっ、何よこの緊張感っ!」
「す、すごい緊張したねっ」
「はい、ドキドキでした」
「あははははっ、楽しかったー!」
子グマを抱えて、笑うメイ。
こうして四人は無事、バルーンの木の樹液をカップ一杯入手することに成功したのだった。
◆
「おおっ! バルーンの木の樹液を持ってきてくれたんだね! ありがとう!」
基地に戻ってくると、さっそくイスカが駆けつけてきた。
「これで不足してる【パラシュート】と【グライダー】が作れるよ。君たちはどっちがいい? ちなみに【パラシュート】はとにかく落下死を避けるためのもので、【グライダー】も同様だけど、場合によっては移動や風を受けて上昇も可能だね。ただ扱いに失敗すると落下しちゃうんだ」
「そういうことなら【グライダー】にしておく?」
「いいとおもいますっ!」
「はい、それで構いません」
「い、いいと思いますっ」
こうして四人は【グライダー】を選択。
イスカがさっそく、鍛冶師のもとに駆けて行った。
「……一個だけなの?」
受け取ったのは、四人で一個のグライダー。
そんな事態にまた、メイたちは笑うのだった。