軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1169.完璧な包囲網

「どうやら、ここまでのようですね」

計算君は、全てを知略で動かすプレイヤーみたいなノリで告げる。

緊張感漂う、マーケットの内部。

それまで何気ない顔で歩いていた客プレイヤーたちが、一斉に振り返って武器を構えた。

メイたちを完全な形で取り囲んだのは、掲示板組の一部を中心にした一団だ。

「まるで、映画みたいね」

360度全てに、武器をこちらに向けたプレイヤー。

こちらが武器に手を伸ばした瞬間、全員が一斉に攻撃を始めるだろう。

そこからクエストアイテムである【捕縛の宝珠】を使えば、勝負あり。

「すごい……っ」

身動き一つも取れない、まさに圧倒的な危機。

何も知らないフリをしたプレイヤーに道案内をさせ、メイたちが倉庫内に入ったところで即座に集合。

マーケットに来た客のフリをして囲み、武器を向ける。

狙い通りの展開となった計算君は、屋根の上から命ずる。

「――――捕えてください」

振り下ろす手と共に、前方の面々が【捕縛の宝珠】を取り出す。

これまでどんな攻撃でも切り抜けてきたメイたちに、計算君は「下手な全員攻撃」ではなく捕縛を優先。

武器の準備ができていないメイたちには、これ以上ない危機だ。しかし。

「ここまで、何も用意してなかったと思う……?」

映画や漫画のような危機に、うっかりちょっと闇の魔導士感が出るレン。

そしてまもりは、いつも通り盾を手にしたままだった。

「解放! 【暴水のルーン】!」

「「「なああああああああ――ッ!?」」」

先手を打ったのは、まさかのレンとまもり。

『盾は武器ではない』という常識が、隙となってしまった。

あふれ出す大量の水の爆発が、手前のプレイヤーたちを吹き飛ばす。

同時に散らばり、降り落ちる水しぶき。

「【紫電】!」

この隙をツバメは逃さない。

放った電撃が、属性効果で飛沫を駆け抜ける。

高い密度のプレイヤーで、メイたちを取り囲んだことがアダとなり、さらに多くのプレイヤーが感電硬直した。

まさかの反撃によって、生まれる驚き。

「たった二手で、この完全包囲を崩した!? 前方はすぐに攻撃を! 後方は魔法等で攻撃を集中! 足止めと捕獲を同時に仕掛けてくださいっ!」

もはや乱戦は避けれない。

覚悟を決めた計算君が叫ぶ。

「ソード――」

しかしメイはすぐさま剣を取り出し、掲げる。

「メ、メイちゃん! ここにはハンターじゃない普通の商人もいるよ!」

「ええっ!?」

そんな者は付近におらず、掲示板民とその仲間でガッツリ固めている状況。

グラムなら「我が一撃を喰らえるとは、幸運だったな!」と、容赦なく吹き飛ばしに来るシーンだ。

だが、メイには効果てきめん。

見事な心理戦で、【ソードバッシュ】の使用を阻止してみせた。

「今だ!」

この隙にメイの側にいた包囲プレイヤーたちが一斉に接近し、【捕縛の宝珠】を手にした。

「がおおおおおお――――っ!!」

しかしメイは【雄叫び】で、まとめて硬直を奪う。

こうして四人は見事に、敵の完全な包囲網を崩すことに成功した。

「逃がすかぁぁぁぁ――――っ!!」

「っ!?」

ここで屋根の上を駆けてきたのは、一人の戦士。

「使徒長は確実に、足止めさせてもらう! 【魔力の鎧】【跳躍】【爆風の斧】!」

レン目がけて跳躍し、掲げた大斧を振り下ろす。

この一撃、防御しても受けた時点で爆風が炸裂。

付近のプレイヤーを、まとめて転がすことになる。

ほとんどのプレイヤーが【捕縛の宝珠】を持っている状況での転倒は、さすがに不利が過ぎる。

「くっ!」

「炎でも氷でも、俺は止められないぞ!」

「ダメージ軽減、弱い不動効果付きの【魔力の鎧】は良いスキルだけど! 【悪魔の腕】!」

「あっ」

魔法陣から伸び上がった悪魔の剛腕が、飛び込んできた戦士を叩き潰し、暴風の発生前に強制停止。

「こうなったら宝珠です! とにかくダメもとでも魔力縄を放ってください!」

「「「【捕縛の宝珠】!」」」

「【加速】【スライディング】!」

全員真っ直ぐに宝珠を持ち、使用すれば当然地面に平行の魔力縄が飛ぶ。

そのことに気づいたツバメは、地面を滑って敵プレイヤーの前へ。

「【アクアエッジ】【瞬剣殺】!」

「「「うわあああああ――――っ!!」」」

一気に【捕縛の宝珠】組を斬り飛ばした。

「さすが五月晴れ……ッ! トップでも捕まえられる確率85%の状況を作ったというのに、当然のように……こうなったら仕方ありません!」

このままでは、メイたちを取り逃がしてしまう。

計算君はそう判断し、屋根上に隠れていたプレイヤーの起用を決断。

「お願いします!」

「了解っ! 来たれ【グレイトドラゴン】!」

奥の手プレイヤーが召喚したのは、巨大な翼竜。

一撃離脱型の召喚獣は、一直線にメイたちに向けて滑空する。

この隠し玉、実は誰にも伝えてない。

誰も知らないからこそ、広範囲に高いダメージを与える一撃は奥の手となる。

突然の範囲攻撃をメイたちの誰かが喰らってくれれば、そのまま捕縛も夢ではない。

「……例え、味方を巻き込んだとしても!」

これは非難されることを、覚悟したうえでの作戦だ。

「レンちゃんっ!」

しかし空に多少でも異変があればメイの耳が、いつ巨大鳥が攻撃を仕掛けてきてもおかしくないジャングルにいたメイの視野が、異変を捉える。

「この召喚獣の外殻……おそらくこのまま特攻してくる、物理攻撃型だわ!」

特攻を仕掛ける巨竜に対し、レンはシンプルな『突撃』で来ると予想。

この一撃で付近一帯をまとめて吹き飛ばし、転がったところに宝珠による捕縛を仕掛ける狙いだと判断した。

「そういうことならっ!」

メイは走り出し、そして巨竜が仕掛けるボディプレスの『先端』となる頭部へ。

「……【ゴリラアーム】」

そっとスキルを発動する。

そして両手を開き、真正面から来た巨竜の下あごを両手でつかむ。

「まさか……!?」

他のプレイヤーではまずありえない光景に、計算君は嫌な予感を覚える。

「まさかああああ――っ!?」

メイは、巨竜の突撃の勢いを後ろに流しつつ利用して回転。

「【大旋風】だああああああ――――っ!!」

豪快な三回転で付近の敵プレイヤーを弾き飛ばし、そのまま投擲する。

囲みのプレイヤーを弾き飛ばした召喚獣は、そのまま大通りをバウンドして転がり、商店の屋根に突き刺さって消えた。

「行きましょう!」

「「「はいっ!」」」

散り散りとなり、呆然とする敵プレイヤーたち。

その隙間を、駆け出すレン。

「【ブリザード】!」

思い出したかのように後を追おうとした者たちを、しっかりと氷嵐で足止め。

炎と違い白煙も巻き起こる【ブリザード】は、後続の視界も遮る効果もあり。

メイたちの姿は、すぐに見えなくなってしまった。

「チェックメイト状態からでも、普通に切り抜けるのかよーっ!」

「正面からの戦闘じゃなくても、ここまで圧倒的なのか……」

「逃げ方まで、全部がうますぎる」

「この人数で取り囲んで、一人も捕まえられないとは。さすが、五月晴れですね……っ!」

これには計算君も、さすがに苦笑いを浮かべるしかできなかった。