作品タイトル不明
1162.持ち掛けられたギャンブル
「正気、なのでしょうか……?」
ツバメの一言にレンが噴き出す。
突然現れた、ワインレッド帽に同色ジャケット姿の男。
グリンデルが持ち掛けてきたのは、高額スロットへ自分の代わりに挑んで欲しいという、変わり種クエストだ。
対してツバメは「私が不運の申し子と知っていての所業なのですか?」と、息を飲む。
「僕は運が悪くてね。そこで君にお願いしたいと思っているんだ」
「そうですか……厄除けのお守りなどを持って、ステータス上げをして、完全な状態にすればあるいは……いえ」
持ちかけられた以上、断るわけにはいかないのが冒険者。
「スロットでの大当たり――――10年もあれば十分です」
「10分で余裕の時の言い方なのよ、それ」
白目のツバメの肩を、レンはポンポンと叩く。
「それにツバメを代表として話しかけているけど、持ちかけてるのはパーティでしょう?」
「もちろん、それで構わないよ」
ワインレッドの男がうなずくと、ツバメは安堵の息をつく。
「代わりに打つってことだけど、ペナルティの類は?」
「ないよ。もともと僕は運が悪いから、誰かにお願いするのが一番勝てるんだよ。君たちは結構勝っているし、もらったチップだ。負けても文句は言わないよ」
大きな額を動かすギャンブル。
レンはあらかじめ聞いておくが、どうやら負けてもマイナスはないらしい。
「勝った時の配分は、どうするの?」
「僕は商品の豪華船が一度見てみたくてね。あとは宝珠かな。でも船は一度見られたら充分。君たちに差し上げるよ。残ったチップも持って行っていい」
「ええっ、船がもらえるの!? すごーい!」
「もぐもぐ、まさか船とは……」
「ふ、船がもらえるのは驚きですね」
グリンデルがこちらに寄こした『賞品表』には、豪華な木製の帆船。
しれっと両手にモナココの料理を抱えて戻ってきたまもりが、表を確認する。
紋様の刻まれた白木に、金の意匠。
船の底面には魔法珠が埋め込まれ、風がなくても高速航行できるようだ。
数十人は乗れるであろうその造りは、豪奢の街モナココでも見劣りすることがない。
「すごいクエストだね」
「まったくだな!」
これにはローランやアルトリッテたちも、ドキドキの様子だ。
「どうだい? 受けてくれるかな」
「受けましょう」
「そうね」
「もちろんですっ!」
「ド、ドキドキしますっ」
四人は思わぬ大きなクエストを承諾し、最上層にある大型スロットへと向かう。
「ここはやっぱりメイかしら」
「そうですね」
「そ、それがいいと思いますっ」
「了解ですっ! 【蓄食】!」
メイはうなずき、スキルを発動。
【幸運】を上げる桃を、一つずつ丁寧に食べる。
戦闘時のように急ぐ必要がないのなら、上品に食べて見せたいところだ。
こうして念のため、【幸運】を大きく上げておいたメイ。
手にしたダイアのチップを入れて、大型のスロットのレバーを引く。
「がんばれよな! メイ!」
金糸雀が声援を上げ、マリーカも無言のまま「……がんばれー」と拳を上げる。
「あっ! そろった!」
まずは小さな役から。
それでも最大サイズのスロットは、演出が派手だ。
「おい! メイちゃんが最高級スロットで遊んでるぞ!」
下のフロアで遊んでいたプレイヤーたちが気づき、視線を上げる。
「やったあ!」
するとさらに、『ベル』をそろえたメイ。
勝敗は、二進一退といった感じだ。
「今のところ、着実に勝っていってる感じね」
「ど、どこかで大きく、当てたいですね!」
レンとまもりがそう口にしたところで、『7』が斜めにそろい、また大きく勝ち越す。
「やったー!」
「フン、いい流れだな」
グラムもその様子に、集中している。
「……グリンデルさんが、いませんね」
クエスト依頼主のワインレッド帽の男が消えていて、辺りを見回すツバメ。
「勝負中は、離れて見てたりするのかしら」
「ああー、惜しい……!」
再び『7』がそろいそうになったが、ギリギリ外れて声を上げたメイ。
好調だったスロットは、ここから不運が優勢になる。
手持ちの額は減り続け、ついにスタート時を下回り始めた。
「メ、メイさんこれをどうぞ」
まもりが、頭装備の【永遠の花冠】を渡す。
「ありがとうっ!」
メイは【幸運】を25上げる装備を身につけて、気合を入れ直した。すると。
「きたっ!」
再びのチャンス。
「いけっ! メイ!」
アルトリッテが、思わず声を上げる。
すると横と斜め、全5列の『7』がそろった。
「やったわね!」
これにはレンも思わず、メイの背中に抱き着く。さらに。
「まただ!」
続けざまの『7』が5列。
アルトリッテが、振り上げる拳。
一気に流れが変わり、ここからは狂ったように勝利を続けていく。
「……すごい」
これにはマリーカも、身を乗り出して興奮。
「あと一回! あと一回大当たりを出せば、クエスト達成よ!」
レンの目算では、あと一度『7』を並べればグリンデルの目標額に届く。
「これで……勝負っ!」
メイは力強くレバーを引く。
まず左のリールに、『7』が並ぶ。
続けて中央にも『7』が3つ並んだ。
「どうなる……?」
「どうなるんだ……っ!?」
ローランと金糸雀が、顔を寄せる。
「「どうだ……っ!?」」
グラムとアルトリッテも、思わず息を飲む。
「どうなっちまうんだっ!?」
下の階から見上げているプレイヤーたちも、背伸びして様子をうかがう。
止まる最後のリール。
そこに描かれていたのは、3つの『7』だった。
「やったああああ――っ!!」
見事に目標枚数を超え、メイは歓喜に飛び上がる。
「「「おおおおおおおお――――っ!!」」」
再びの紙吹雪に、あがるたくさんの歓声。
払い戻し口から飛び出してくる大量のチップに、誰もが目を奪われる。
「おおっ、これはすごい!」
すると勝ちが確定したところで、ようやくグリンデルが戻ってきた。
「やはり皆さんに、全てを賭けて良かった!」
こうしてメイたちは見事に、モナココ最初のクエストを達成してみせたのだった。