作品タイトル不明
1051.香辛料の買い付けです!
タヌキのレストランからの依頼で、香辛料と肉の収集を請け負ったメイたち。
店を出て、さっそくクエストの達成を目指す。
「クローブって、どんな香辛料のなのかしら」
レンが言うと、まもりがすぐさま応える。
「1.5cmほどの大きさで、甘い芳香と刺激をもたらす花の芽です! お肉料理を作る際に使うと良いんですよっ!」
うれしそうに、かつ早口に説明するまもり。
「花の芽が香辛料になる植物があるんだね」
「考えてみれば、香辛料の元々の形ってほとんど知らないわねぇ」
レンは依頼書を取りだし、あらためて行き先を確認する。
「ええと。【ローヤルクローブ】を売ってくれる商人は、ヌーベル山の中で仕事をしていて、見つけて買い付ける必要があります。ボクたちも山は得意なのですが、強い魔物もいるので……だって」
手紙に添えられた文の下に描かれている、魔物から慌てて逃げるタヌキたちのイラストに笑う。
「ヌーベル山は……あれですね」
見える山並はアルプスのように美しいが標高も高く、『登山』を思わせる角度の面も多い。
「それではさっそく!」
ここでメイは右手を上げて、【召喚の腕輪】を起動。
「それでは――――何卒よろしくお願いいたします!」
やって来たケツァールに飛び乗り、そのまま四人で空へ。
高原を飛び、そのまま並ぶ高山の稜線にあたるところまで上がる。
「すごーい! どっちに転んでも、そのまま山の麓まで転がっちゃいそうだね!」
「下につく頃には、間違いなく球体になっていますね」
道幅は進めば狭くなる形になっており、右に足を踏み外しても、左に足を踏み外しても、そのままかなりの距離を転がってしまうことになりそうな、急こう配。
「……でも、すごくきれいね」
「そうだねぇ」
青い空に、わずかにかかる雲。
森林限界を超えた高さなのだろう、木はなく、緑鮮やかな下草が続く光景は本当に美しい。
続く稜線の先に見えるのは、一際高い一つの山。
その途中からは草もなく、完全な岩山と化している。
「ありがとーっ!」
ここで四人は帰っていくケツァールに、手を振り見送った。
「メイ、周りはどうだった?」
「近くに人影は見えなかったよ」
「そうなるとやはり……あの岩山の上でしょうか」
「まあ、そうなるわよね」
こうして四人は岩山を目指し、のんびりと稜線を歩き出す。
「こういうところを歩くことって、現実ではなかなか経験できないわね」
「た、たどり着く前に体力が尽きてしまいますっ」
遠足でもすぐバテて、先生に引率されがちなまもり。
だが『星屑』の世界の中であれば、疲れてしまうこともなし。
「つい先日、あんなに大きな戦いをしたばかりとは思えませんね」
「本当だねぇ」
ここから見れば、トリアスの街も小さく見える。
緑の中に立つ街は、レンガの赤味が調和して綺麗だ。
陽光に照らされる湖も、青々としていて美しい。
そのほとりにある小さな街も、白の教会に橙の屋根がよく映えている。
「こういう冒険もいいねぇ」
「はい」
道が狭いため、横ではなく縦の並びでする会話。
これもまた、なかなかない体験だ。
「湖にポツンとある島。そこにある建物が気になりますね」
「何かクエストがありそうっ!」
「地下から行くのでしょうか、それとも小さな船が出ているのでしょうか。泳いでいくのもありですね」
「……ラスボスを倒した後に、あらためて世界を回ってるって想像すると……なんだか不思議な感じねぇ」
「そ、そうですね……っ!?」
そして危うく足を踏み外しそうになったまもりを、後ろからレンが肩を抑えて助ける。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございますっ」
『星屑』の世界では今、誰もが異世界へに夢中。
そんな中のんびりと登山を楽しんでいるのはメイたちか、『星屑』登山勢くらいだろう。
「さて、ここからは岩山ね。角度も急だし、途中からは軽いロッククライミングになってる」
「これは、大変そうですね……」
高度もあり、当然落下すれば高いダメージを受けることになる。
そしてここまで登って戻るのは、かなり大変だろう。
「まもりちゃん、掴まって!」
「はひっ! し、失礼しますっ!」
まもりは言われるまま、メイの背中に抱きつく。
「いくよー! 【モンキークライム】!」
するとメイは岩肌を、気持ちの良いテンポでよじ登っていく。
右手で出っ張りをつかんで上がり、左手でへこみをつかんで上がり、足がかかれば高く跳躍。
その速度は、まもりを背負っていても圧倒的だ。
それは角度が、さらに急になっても変わらない。
「『星屑』競技ボルダリング勢ですね」
「ジャングルでは高山に昇ることはなかったから、すごく新鮮かもっ」
メイは楽しそうに振り返って、二人に手を振る。
「それじゃ私は、いつものやつで……【浮遊】!」
そしてレンはフワフワと、メイたちを見守るような形で昇っていく。
「【跳躍】! ……【エアリアル】!」
一方ツバメは、ところどころにある休憩ポイントのような広めの足場を目がけて跳躍。
見事な目測で上手に跳び、最後は岩山にしがみつくと、そのままアクションゲームのようなよじ登りで頂点を目指す。
「ッ!?」
突然、手をかけたヒビが割れた。
仕掛けられていた恐ろしい自然の罠は、ツバメが球体になるまで転がしてやろうと牙をむく。
一気に走る緊張感。しかし。
「【ターザンロープ】!」
メイが先んじた理由が、ここにある。
足場の安定したところにメイがついてから、後を追って登るという流れを取っていたツバメは、ロープをつかんで復帰。
今度は問題なく、四人での登頂に成功した。
「ありがとうございます」
「いえいえー」
こういう連携も慣れたもの。
いつものように、笑い合うメイとツバメ。
「……ほう、これはめずらしいな。冒険者がこんなところまで何の用だ?」
たどり着いたヌーベル山の頂上には、どこまでも広がる眺望を楽しむ一人の男がいた。
腰までのベージュの外套に、使い込まれた同色のハット。
大雑把に流した白髪交じりの髪、大きな麻袋を背負った姿は、たくましい。
「はいっ! 実はお買い物を頼まれて、【ローヤルクローブ】を買いにきましたっ!」
「ふふ、ダイナミックなお使いねぇ」
「本当ですね」
近所のスーパーの店員にかけるようなメイの声に、笑みがこぼれるレン。
「なるほど、客だったか」
無事、香辛料商人を見つけることに成功したようだ。
「この山には『実』を採取しに来たついでに、こうして山頂まで登るのが趣味でな。こんなところまで来てもらって申し訳ない。だが……」
「だが、なにかしら?」
「オレの商品は、違いの分からないヤツに売っても意味がないんだ」
香辛料商人はそう言って、不敵な笑みを浮かべた。
「【ローヤルクローブ】は至高の一品。欲しければ、俺の出す問題に答えてもらおうか」
どうやらここでも、その能力が試されるようだ。