作品タイトル不明
1036.初めての感情
星屑最強前衛隊によって、戦いの最後は圧倒的なものとなった。
第七陣の大ボスは最後の暴走を見せたが、難なく打倒され消滅。
メイたちは、ゼティアの門に視線を向ける。
しかし、続く異世界からの攻勢はない。
「異世界からの流入が、止まった……?」
「あとは『封』を張れば……!」
魔力を溜めていた『鍵』の青年が、力を解放。
すると水鏡のような『封』が、ゼティアの門の隙間に張られていく。
「これで『赤月の夜』の終結も早まるはず。あとは時が過ぎるのを待つだけ……」
その言葉の通り、暗い空にうかんだ赤月が、ゆっくりとその輝きを失っていく。
それは異世界との戦いが、終わりを迎えるということだ。
「ッ!?」
突然『鍵』の青年が、驚愕の表情をした。
「……そんな」
こぼした悲痛なつぶやきに、視線が集まる。
「どうしたのかしら」
「な、何か様子が変です……っ」
「だいじょうぶー?」
そして青年が、ガタガタと震え始めた次の瞬間。
「「「ッ!?」」」
水面のような『封』が、大きな飛沫を散らした。
鳴り響く、重たい衝突音。
何かがぶつかる度に激しく波紋が生まれ、飛び散る水飛沫。
さらにゼティアの門自体も、振動で大きく揺れ始める。
その異常な激しさはまるで、王城に入り込もうとする化物が、体当たりで門扉をぶち破ろうとしているかのようだ。
「なにが、起こっているのでしょうか」
恐ろしい状況に、ツバメが息を飲む。
見守る参戦者たちも、緊張感に硬直したままだ。
すると『鍵』の青年が、疑問に答えるように口を開く。
「かつてこの世界に入り込み、文明を崩壊させた怪物。それは異世界において、十指にギリギリ届かないほどの実力だった」
そして、飛沫をあげて波打つ『封』を見上げる。
「異世界には『王』と呼ばれる怪物が十体ほど確認されている。その中の一体が……この世界に気づいてしまった」
「こっちに来ようとしてるってこと?」
レンの言葉に、『鍵』の青年はこくりとうなずいた。
「王が本気でこちらへの侵入を果たそうとすれば、『封』の効果はそう長くはもたない」
「どうするの?」
「今からもう一度準備を始めれば、王が『封』を破って入り込んできたところで、新たな『封』を張り直すことは可能。でも……」
「こっちに入り込んできた異世界の王を、向こうに返すようなことはできないわけね」
『鍵』の青年は、再びうなずく。
「ですが、もし勝つことができれば……」
「あ、赤月の夜は終わって、平和を取り戻すことができるんですね」
「ただし敵は旧文明を崩壊させた怪物よりも強いと。でもこれしか世界を救う方法がないのであれば、やるしかないわよね」
「もちろんですっ!」
メイは大きくうなずく。
「封が破られるまでに、各々できる限りの準備を……これが、最後の戦いになる」
『鍵』の青年は、メイに向けてそう言った。
「異世界の王は恐ろしく強いが、負ければ――――この世界は崩壊する」
そして揺れるゼティアの見上げると、次の『封』を張るための魔力を溜め始める。
「……本当に次が最後の戦いになるのね。準備の時間をもらえるみたい」
RPGではよく見られる、最後の戦い前の『確認』ポイント。
連戦の終わりによる解放感と、正真正銘最後の戦いが始まるという緊張感。
誰もが神妙な面持ちで、準備に動き出す。
「いよいよ、終わるんだな」
「星屑の一つの物語が、結末を迎えるのか……」
「最後の戦い、よく目に焼き付けておこう」
そんな言葉が、四方から聞こえてくる。
「何者が相手でも、この聖剣には関係ないぞ!」
「いかにラストバトルと言えど、この神槍を前に敗北などありえぬな」
アルトリッテとグラムが、自信ありげに準備を始める。
「いよいよですわね」
「ああ、ついにこの時が来た」
「終焉、ボクもしっかり見届けさせてもらうよ」
白夜にリズ、刹那もあらためて自身の状態を確認。
「最後の回復、急ぐぽよー!」
「迷子ちゃんは、持ち回りで見張るんだ!」
「よろしくお願いしますっ!」
掲示板を始め、トップ勢も各自が準備動き出す。
そんな中。
「……レンちゃん」
「なに?」
メイが振り返った。
「この戦いが終わったら、どうなっちゃうのかな」
レンは、すぐに気づいた。
これまで様々なゲームを遊んできたが、RPGなどの長い物語には当然結末が準備されている。
そしてその直前には『終わってしまう』という事実を、急に寂しく感じてしまうことがあった。
楽しかった物語の、終わりが見える瞬間。
それはメイにとって、初めての経験だ。
「このまま、終わっちゃうのかなぁ……」
『星屑』内には、いくつでもコンテンツがある。
だが一つの物語としては間違いなく、この先が終点だ。
そこにたどり着いた後、果たしてその気持ちに『一段落』といった変化が起こらないか。
これまでと同じように、四人そろって同じ温度で冒険を楽しむことができるのか。
それはまだ、誰にも分らない。
レンは何かを決めたかのように一度うなずくと、歩き出す。
「ちょっと準備があるから色々用意してくるわ。マーちゃんにも一度会っておきたいし、王都地下から戻る時に、先行するプレイヤーに頼んだあれこれも確認しておきたいから」
「ここで一度、休憩を入れるのもいいかもしれませんね」
「そ、それもいいですね」
「うん、そうだね……」
やはりいつものように、楽しさいっぱいとはいかないメイの表情。
レンはメイに一度笑いかけると、王都の方に戻っていく。
するとツバメたちも、あらためて準備時間の長さを確認。
一度ログアウトして、休憩を入れることにした。
メイは振り返り、準備にいそしむ参戦者たちを見る。
「…………」
そして三人を追いかけるように、『星屑』をログアウトした。