軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94 二人なら

「無茶苦茶だ……あんなの、死にに行くようなもの」

廃城の壁によりかかるルーク・ヴァルトシュタインの姿に、一人の冒険者がそうつぶやく。

他の冒険者たちも考えは同じだった。

立っているのが不思議に思えるその姿は明らかに限界を超えている。

もはや、まともに魔法を放つことさえ不可能なはず。

怪物に対し、有効な何かができるとは到底思えない。

いったいどうして、そんな愚かな判断を。

既に尋常な思考能力を失っているのだろうか。

ルーク・ヴァルトシュタインは止まらない。

ボロボロの身体を引きずって絶望的な敵に向かう。

◇ ◇ ◇

私とは次元が違う規格外の怪物との戦い。

持っているすべての力を振り絞ってなんとか食い下がっていた私だけど、それにもすぐに限界が来る。

そこにあったのは、単純な力の差。

最高難度迷宮の未踏領域。

八十層の 階層守護者(フロアボス) は気が遠くなるくらいに高みにいて、あまりに強すぎて思わず笑ってしまう。

なんとか戦えているように見えているかもしれないけど、その実は決定打をかわし時間を稼ぐのが精一杯。

斬撃はかすっただけで致命傷。

一瞬だって気の抜けないギリギリの攻防。

引き延ばされた刹那の中、宝剣と魔法による九連撃をかわした私は、その直後に放たれた一閃に息を呑んだ。

――知らない攻撃パターン。

咄嗟に魔法障壁を展開して、かろうじて直撃は免れた私だけど、そこが私の限界だった。

粉々に砕け散る魔法障壁。

不死の王。

骸骨の頭部が笑う。

空中にいるこの体勢では次の一撃はかわせない。

(ここまで、か……)

迫る最後の時に凍り付く私の眼前で炸裂したのは鮮烈な電撃のきらめきだった。

異能の域まで達している術式精度とそれに伴う驚異的な出力。

その電撃が誰のものなのか、視線を向けずとも私にはわかって――

「なんで……」

だからこそ理解できない。

傍にいた私が誰よりも知っている。

戦えるような怪我じゃなかったはずだ。

廃城の残骸によりかかるその姿に、息を呑む。

どうしてそんな状態で――

冷静ないつものあいつからは考えられない無茶な行動。

その理由に気づいて、私は呼吸の仕方を忘れた。

あいつ、信じてるんだ。

私たち二人なら勝てるって。

ずっとそうだった。

どこまでも私のことを信頼してくれる親友。

地方の魔道具師ギルドで無能扱いされて、働くところもなかったのにそんなこと全然気にしなくて。

いつだって味方してくれて、期待してくれて。

それがどんなにうれしかったか。

きっと、あいつにはわからない。

いいよ、やってやろう。

奇跡を起こすんだ。

剣聖相手にできなかったことを、今度は二人で。

人類史上最大の 番狂わせ(ジャイアントキリング) 。

私たち二人は無敵だってことを証明する。

どこまでも子供で頭の悪い方程式。

目の前の敵はどうしようもなく強くて、

だからこそ胸が弾んで仕方ない。

高すぎるくらいの壁の方が、挑むのが楽しいってもんでしょうよ。

二人なら――きっと超えられる。

思いを込めて地面を蹴る。

空だって飛べる。

そんな気がした。

◇ ◇ ◇

「おいおい、冗談だろ……」

そうつぶやいたのは誰だったか。

ルーク・ヴァルトシュタインは限界なんてとっくに超えていた。

立っているのが不思議に思える絶望的な状況。

なのに、どうしてあそこまですさまじい魔法が撃てる?

五つの魔法式を並行して起動する《 多重詠唱(マルチキャスト) 》

放たれる電撃の鋭さは、尋常な魔法使いの域を完全に超えている。

怪我をしていることさえ忘れてしまうくらいに美しい魔法式のきらめき。

加えて、恐ろしいのはそのすべてが目の前で戦うノエル・スプリングフィールドを最善に近い形で支援していることだった。

一切の無駄のない連携。

互いの意図を完璧に理解して放たれる閃光と暴風。

視線をかわすことさえ必要としない。

長い年月を重ね、互いの能力と癖を知り尽くしているからこその奇跡のような連撃。

彼の支援を受けた彼女はさらにその勢いを増す。

二人で戦う状況への最適化。

空間さえ歪める魔力の余波。

放つ風の大砲は廃城のフィールドごと骸蝕王の巨体を強振する。

もはやどちらが怪物なのかわからない。

規格外の階層守護者に対し、一歩も退かずに渡り合う二人。

(なんだ、これ……)

冒険者たちは目の前の現実が受け止められなかった。

(押し返してる、のか……?)

絶望的だった戦況が揺らぎ始める。

呼吸を忘れて見入っていた。

とんでもない何かが目の前で起きようとしている。