軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216 エピローグ1

大規模回復魔法によって、私の身体は急速に修復されていった。

かけつけた教国の聖十字騎士団によって、他のところで戦っていた仮面たちも捕まった様子。

そのまますぐにルークとニーナ、エヴァンジェリンさんにも回復魔法をかけてもらう。

「でも、この人は悪い人たちの仲間なのでは?」

「実は、いろいろと事情がありまして」

ルークが心を破壊された状態で、操られていたことを伝えるのに、少し時間がかかった。

「この方はノエルさんとニーナさん、そしてこちらの 森妖精(エルフ) の女性に致死的な威力の攻撃魔法を放っていましたし。心神喪失であった証拠がないと……」

マザー・ルイーゼの言葉に、口を挟んだのはエヴァンジェリンさんだった。

「私はやられてないわよ」

「え。でも、たしかに」

「幻影魔術でも見ていたんじゃないかしら。ねえ、ニーナさんも攻撃されたりしてないわよね」

エヴァンジェリンさんはニーナに言う。

「はい。攻撃されてないです。ノエルもされてないよね」

私だけに見えるように小さくウインクするニーナ。

「そうですね。多分何かの見間違いだと思います」

咄嗟に言葉を合わせた。

「しかし……」

マザー・ルイーゼは少しの間視線を彷徨わせてから言った。

「いえ、ここは助けてくださった皆さんの意思を尊重するべきですね。心神喪失であれば教国法上罪には問われませんし、そもそも被害者がいないのであれば、加害行為自体成立しません」

ルーク逮捕ルートは回避できたみたいでほっと息を吐く。

折角助けられたのに捕まるとか悲しすぎるし。

「ノエル、僕は……」

戸惑った顔のルーク。

「何があったのか覚えてる?」

小声で聞くと小さく首を振った。

「何も覚えてない。ただ、気がついたらノエルを……」

「私を?」

「自分の魔法で刺していて……」

信じたくないという顔。力ない声。

かなりショックな光景だったのだろう。

それはそうだと思う。

意識を失った状態から戻ったら、一番仲の良い友達を刺している、なんて。

だからこそ、私はルークを小突いた。

「あんたの魔法なんかでやられる私じゃないから。あんなの私にとってはかすり傷だし」

「どう考えてもかすり傷では」

「助かったんだからオールオッケーなの。帰ったらごはんおごって。それでチャラ」

そこまで言ってもルークはまだ気にしているようだったので、辛気くさい顔をデコピンしてやった。

ルークは額をおさえてうずくまり、ふるえていた。

「ふふん。見たか。地元で一番痛いと評判だった私のデコピンを」

「信じられないくらい痛いんだけど……」

「辛気くさい顔してた罰だよ。あんたが笑えばあんたの世界は明るくなるんだから。気にせず前向いとけっての」

痛がるあいつに満足しつつ、聖女のメルちゃんと聖女候補者たちに回復魔法をかけてもらう。

破壊されていた心が少しでも修復されるように丁寧に。

ニーナが近づいてきて、私に耳打ちする。

「ルークさんの言葉や反応に違和感はある?」

「いや、今のところはないけど」

「よかった。あの感じなら大きな後遺症は残らないと思う。もしかしたらいくつかの記憶の欠落とかはあるかもしれないけど」

「記憶の欠落?」

「うん。ある部分の記憶がすっぽり抜け落ちているとか」

そんなことがあるんだ、と思いつつニーナに聞く。

「それって時間が経てば戻る可能性はあるの?」

「あるよ。でも、しばらくは思いだせないこともあるかも」

大丈夫かなって少し怖かったし、残念だとも思った。

過ごした時間や思い出をあいつは忘れてしまっているかもしれない。

だけど、それ以上にそれまでと同じルークがそこにいることが私はうれしかった。

二度と話せないかもしれないと思っていたから。

生きていてくれる。

また同じ時間を過ごすことができる。

当たり前のようで当たり前じゃない。

それは本当に尊いことだ。

(私だって、危うく死んじゃうところだったし)

神様のお迎え来たと思ったもんな。

別に神様とかは信じてないつもりなんだけど。

でも、魔法の神様はがんばっていれば見ててくれるのかなって思うし、お腹が痛くて漏れちゃいそうなときは神様に、「お願い。神様どうか」って願ったりするからそういう神様は無意識的に信じているのかもしれない。

「少し傷口を見せてもらえる?」

エヴァンジェリンさんが私の肩を叩いて言った。

私は周囲から見えないよう位置関係を調整してから、服を少しだけめくってお腹の傷を見せた。

「やっぱり見間違いじゃなかったわね」

「どうかしたんですか?」

「傷口がほんの少しだけ急所から外れてる。致死的な傷ではあったけど、蘇生が間に合ったのはおそらくそれが理由」

「急所を外れてるってどうして」

「わからないわ。ただの偶然かもしれない。そう考えるのが自然な解釈でしょう。でも、私はこんな風にも思うのよ。薬によって破壊され、特級遺物による精神支配を受けてなお、抗えるような力が私たちの心にはあるのかもしれない」

エヴァンジェリンさんはふっと笑みを浮かべて言った。

「なかなかやるわね、貴方の親友」

それは私自身が褒められるよりもさらに胸をあたたかくしてくれる言葉だった。

国別対抗戦でルークが負けた相手だからこそ、なおさら認めてくれたことがうれしく感じられるのかもしれない。

あいつに教えてあげないと。

いや、でも絶対あいつ調子に乗るから、教えない方がいいのかな。

こんな風に迷えるのもあいつと私の両方が助かったからで。

当たり前じゃないことだからこそ、本当によかったと思う。

「助けてくださってありがとうございました」

聖女候補者さんたちが寄って来て私に言った。

「いえいえ、こちらこそ聖魔法で助けてもらってありがとうございます」

みんながかけてくれた大規模回復魔法。

見たこと無いくらい大きい聖魔法の魔法式。

みんなが一生懸命私を救おうとしてくれたことを思いだして頬をゆるめる。

修道女服の聖女候補者さんたちは、目を輝かせて私にいろいろ話しかけてくれた。

「あんなすごい魔法初めて見ました」

「ここに来る前は何をされてたんですか?」

「まさか飛竜種まで倒してしまうなんて」

……ん?

なんか話が大きくなっているような。

というか、ドラゴンさんってまだ敵だって勘違いされてる!?

慌てて誤解であることを伝え、聖女候補者さんたちと一緒にドラゴンさんの下に走って回復魔法をかけた。

仮面の男たちを引きつけるために奮戦したドラゴンさんは消耗しきっていた。

それだけがんばってくれたのだろう。

周囲では気を失っている仮面たちを聖十字騎士団の騎士たちが捕縛している。

「でも、この竜は悪い連中の仲間なのでは?」

「逆です。助けに来てくれたんです」

騎士団の人に悪いドラゴンさんではないことを伝えるのに少し時間がかかった。

黒いし怖いし、どう見ても邪竜だと騎士の人は言った。

『どうせ我は怖いし……』

ドラゴンさんは大きな爪で地面に○を描いていた。

騎士たちは、何かあったら困るとドラゴンさんへの回復魔法を止めようとした。

私と聖女候補者さんたちでは説得できなくて、困っているところに近づいてきたのは、マザー・ルイーゼと聖女のメルちゃんだった。

「何をしているのですか」

「しゅ、修道女長と聖女様」

慌てて膝をつき礼をする騎士たち。

「この者たちが邪竜を治療しようとしていたので」

「邪竜ではありません。邪魔をしないように」

「しかし……」

食い下がろうとする騎士に、歩み出て言ったのはメルちゃんだった。

「りゅうをちりょうする。このものはわたしをたすけてくれた」

「し、失礼しました」

青い顔で引き下がる騎士たち。

聖女の威厳ってすごいと感心する。

こんな小さな子供なのに。

あるいは、特級遺物の機械人形として何百年もの間ずっと聖女のふりをしていたからだろうか。

「わたしがげんきにする。まかせて」

そう言ってメルちゃんはドラゴンさんの頬に手をやる。

巨体のドラゴンさんをメルちゃんが治療する姿は、なんだか幻想的な光景だった。

聖女として振る舞うメルちゃんは、思わず背筋を正してしまう神聖な空気を纏っている。

(これが聖女の聖魔法……)

現代魔法とはまったく違う体系の魔法式。

「あとでその魔法教えてもらっていいかな?」

小声でメルちゃんに言うと、

「あそんでくれるなら」

と表情を変えずにメルちゃんは言う。

「せ、聖女様と遊ぶというのは」

「じゃあおしえない」

「遊びます。全力で遊びます」

「うん。いっぱいおしえる」

にっこり目を細めるメルちゃん。

聖女様と遊んだりして大丈夫なんだろうか、と思いつつマザー・ルイーゼを見ると悪い子を見つめる先生みたいに顔をしかめていた。

やっぱり、遊んだりするのは大丈夫なことではないようだ。

「かくれてあそべばだいじょうぶ」

自信に満ちた笑み。

絶対大丈夫ではないと思ったけど、他ならぬメルちゃんの頼みなら、怒られるのを覚悟で付き合ってあげた方がいいかなと思った。

この子はずっと、周囲の人のためにがんばり続けてきたのだ。

重すぎる責任を果たし続けてきたのだから、少し悪い子になるくらい、神様も見て見ぬフリをしてくれるはず。

『身体が軽い。礼を言う小さき者』

「かまわない。こちらこそれいをいうおおきいもの」

大きさが全然違う二人のやりとりに目を細めつつ、ドラゴンさんに感謝を伝える。

「一番大変な役割を引き受けてくださってありがとうございました」

『問題ない。なかなか骨のある相手で楽しめたしな。とはいえ、あの程度なら我にとっては造作もない敵だが』

「普通にやられて倒れてませんでしたか?」

「…………」

沈黙が流れた。

とても長い沈黙だった。

『弱くてごめんね……』

ドラゴンさんは肩を落として地面に○を描いていた。

別人のようにか細い声だった。

「いや、それは私が無茶なことをお願いしたからなので」

『張り切ってかっこよく登場したのに……人間に負けたって同胞にバカにされる……』

「あれは人間やめてる特殊な相手ですし。ドラゴンさんは十分すぎるくらい強かったですよ。あの状況であれだけ時間を稼ぐなんてなかなかできることではありません」

『本当か? また呼んでくれるか? 頼ってくれるか?』

「もちろんです。喜んで頼らせてもらいます」

『またいつでも呼ぶがいい。友よ』

ドラゴンさんは凜とした表情で言った。

地面を蹴る。

大地が揺れる。

別人のように威厳に満ちた姿だった。

(意外に繊細……でも立ち直りすごい早い……)

人は見かけによらないと言うけれど、竜もそうなのかもしれない。

黒い姿が小さくなっていくのを見ながら、知らなかった一面を思いだして私は頬をゆるめた。