軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

188 反撃開始

穴の下に降りてきたのは三人の仮面の男だった。

「みんな! 練習通り連携して攻撃! 絶対に一人にならないで!」

鋭く指示を出す。

訓練で行っていた二人一組で自分の身を守る戦い方。

放たれる魔術砲火。

カルロスくんとヒューゴくんが放った魔法は、仮面の男の一人を直撃する。

「一人では無理でも二人なら――」

興奮の混じった声でカルロスくんが言う。

しかし、煙の奥から見えたのは彼が想像もしていない光景だった。

「なん、で……」

立ち上がり、首を鳴らす仮面の男。

砂塵で汚れてはいるものの、その身体はまったくダメージを受けてないように見える。

普通の人間ではありえない、異常なまでの耐久力。

仮面の男が魔法式を起動する。

放たれた爆轟は二人が放っていた三枚の魔法障壁を一瞬で粉砕した。

吹き飛ばされた二人の身体は、後方にいた新人さんたち三人を巻き込んでようやく静止する。

「でたらめすぎる……」

呆然と目を見開くヒューゴくん。

「落ち着いて! 自分にできることに集中!」

はっとした様子でアランくんとムーナさんが魔法式を起動する。

二人の展開した魔法障壁と氷魔法は、仮面の男の魔術砲火に対して、ほんのわずかな時間を稼ぐことしかできなくて――

だけど、そのわずかな時間が私たちには大きかった。

私が風魔法で攻撃を相殺し、ルークが電撃魔法で敵を迎撃する。

ルークにできたわずかな隙を狙った攻撃を、ミーシャ先輩がカバーしていた。

「ありがとうございます」

表情を変えずに言うルークと、

「今度ごはん奢ってね」

真剣な顔で言うミーシャ先輩。

頼りになる仲間の存在が本当に心強い。

だからこそ、私も真っ直ぐな目で新人さんに言うことができる。

「みんなのことは私たちが守るから。みんなも私たちのことを守って。力を合わせれば、絶対に勝てる」

ルークの攻撃は仮面の男に少なくないダメージを与えたようだった。

警戒が強まる。その分、新人さんたちに対する踏み込みは少しだけ浅くなる。

交差する魔術砲火。

「セルティちゃん、七時の方向!」

セルティちゃんの背中を狙った攻撃を、風の大砲で相殺する。

数では勝っているものの、個人能力の差は歴然。

ギリギリで耐えしのぎ、持ちこたえるのが精一杯。

しかし、周囲の状況が戦況に大きな影響を与えていた。

月のない夜。

ベルトール火薬によって空いた大穴の底は、深海のように一点の光も射さない。

濃い闇がすべてを覆っている。

視覚情報はほとんど使えない。

だけど、私はこの状況に対処する効果的な方法を知っていた。

国別対抗戦の最終予選。

魔導国の魔術師さんの状態異常魔法で視覚を封じられたときの戦い方。

(見えない視覚は捨てる)

意識を研ぎ澄ませる。

(風の反響から敵の位置を把握する)

不利な状況でも、心に一点の揺らぎも無かった。

(みんなを絶対に生きて帰らせる)

最初からそう決めている。

◇ ◇ ◇

圧倒的な個人能力を持つ仮面の男たち。

ギリギリで耐えしのぐのが精一杯の厳しい状況。

目まぐるしく状況が変わる激戦の中で ミーシャは誰よりも近くでノエルの動きを見ていた。

(また動きが良くなった)

視界を失った状況への常軌を逸した対応力。

狂気的な集中と反応。

戦況を隅々まで把握し、最善の行動を選ぶ。

すべてはこの子がやってきたことの延長。

魔道具師ギルドの劣悪な職場環境で種がまかれ、王宮魔術師団での経験を通して磨き上げられてきたこと。

しかし、ミーシャはそこに今まで以上に強い何かを感じていた。

(多分、先輩になったから)

後輩を守るという強い決意。

覚悟と意志が、ノエルの動きをさらに鬼気迫るものにしている。

副隊長としての職責。

ずっと後輩のあの子は、理想とする仕事を全うするために自分から多くを抱え込んでいる。

(誰かのためならもっとがんばれる。やっぱりすごいなこの子は)

記録的な速度で昇格を重ねて、あっという間に自分を追い越していった後輩。

悔しさがまったくないと言ったら嘘になる。

でも、それよりは綺麗だと思う気持ちの方が強かった。

好きなことを仕事にする中でいつの間にか忘れている新鮮な情熱。

他に何もいらないと思えるくらいの、とびっきり強い大好きという気持ち。

そんな風に思い続けられること自体が何よりも大きな才能で。

人生を前向きに楽しみながら、そのすべてをひとつのことに捧げている。

自分にはできないことだったからこそ、小さくてちょっとお馬鹿なこの子がミーシャには綺麗に見える。

(でも、この状況はさすがにキャパオーバーか)

爆発による消耗。驚異的な戦闘力を持つ仮面の男たち。

八人の新人全員を守るために、ノエルは明らかに無理をしている。

(なら、それを支えるのが私の役目)

ミーシャは決意を込めて魔法式を起動する。

(行け。もっと高く飛びな、ノエル)

◆ ◆ ◆

仮面の男たちにとって、目の前の王宮魔術師たちは決して脅威となる相手ではなかった。

もちろん、西方大陸屈指の高い技術力を持つアーデンフェルド王国の魔法界を勝ち抜いた、その才能には特別なものがある。

しかし、それはあくまで表世界の中での話だ。

手段を選ばない世界の裏側にはもっと別のやり方がある。

寿命を縮める危険な違法薬物と肉体を改造する手術。

犯罪組織《黄昏》でも使われていたこの技術は、特級遺物を使用した新しい方法が発明され、さらに質と強度が高いものになっていた。

ほとんどの人間は廃人となって使い物にならなくなるが、成功すれば魔術師としても、戦士としても、常人では届かない化け物じみた力を手にすることができる。

並の王宮魔術師であれば十倍の数が相手でも容易に圧倒することができる。

加えて、敵のほとんどは王宮魔術師にしては経験の浅い者たちだった。

(脅威になり得るのは二人。あとはそもそも相手にさえならない)

勝敗は戦う前から決しているようなものだった。

彼らに求められていたのはより確実な方法で敵を殲滅すること。

包囲の維持が最優先。

一人も逃がさず、この場で起きた出来事のすべてを闇に葬らなければならない。

(力の差は明白。退路さえ塞いでおけば、自ずと結果は出る)

しかし、王宮魔術師たちの動きは仮面の男たちの想定を超えるものがあった。

一歩間違えれば死が迫る状況下でも冷静に連携し、戦線を維持している。

(あの女だ。あの女が集団を統率している)

的確な声かけと窮地の仲間への支援。

小柄な魔法使いは、経験が浅い仲間の力を引き出し、増幅させ最大化している。

三メートル先も見えない深い闇の中で、全方位が見えているかのような空間把握。

的確に仲間を援護して、押し込まれそうな部分をカバーする。

傍で控える魔術師がサポートすることで、ノエルの動きはさらにその力強さを増していた。

単純な個人での強さだけではない。

味方を誘導して数的有利を作り、彼らの特徴と個性を活かして戦局を有利に運ぶ。

人数が増え、戦局が複雑なものになるにつれてさらに鋭さを増す状況判断と統率力。

加えて、彼女の動きは時間が経つにつれて明らかに良くなっているように感じられた。

異常な速度で変化し、力を増していく。

(なんなんだ、こいつ……)

深い闇の中、底知れない何かがさらにその鋭さを増す。