軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169 エピローグ4

退院した後、一日中ベッドの上でゴロゴロしながら積んでいた魔導書を読んで、長いお休みをたっぷり満喫してから、私は仕事に戻った。

遊んだりゴロゴロするのも良いものだけど、やっぱり私には魔法が一番。

(魔法を使った仕事ができる……! ああ、幸せ……!)

遠征で使った魔道具の修繕をしつつ頬をゆるめる。

「あんたほんと好きだよねぇ。変人を超えてもはや変態の域だわ」

「えへへ。そんなに褒めないでくださいよ」

楽しくお話ししていた私を呼びに来たのはルークだった。

「ノエル。招集かかってるから来て」

「招集?」

何事だろう、と思いつつルークの背中を追う。

連れてこられたのは中央統轄局にある大会議室。

「げっ、会議……!」

「なにその因縁の相手を見たみたいな顔」

「だって、礼儀作法が苦手な私には天敵だし。失敗しちゃいけないと思うと、緊張して余計うまくできないというか」

「失敗してくれてもいいけどね。面白いし」

ぐっ……好機とばかりにからかいやがって、意地悪なやつめ。

恨みがましくルークを見るけれど、嫌なことでもがんばらないといけないのが社会人というもの。

深呼吸して心を落ち着かせ、会議室の中へ入る。

そこにいたのは、総長であるクロノスさんを除く六人の 聖宝(メイガス) 級魔術師。

最高責任者である《明滅の魔法使い》アーネスト隊長を中心に、六人の隊長が並んでいる。

四番隊隊長である《救世の魔術師》ビセンテさんがにっこり目を細めて手を振っていた。

(い、いや、緊張でそれどころでは無いんですが……!)

あわあわしつつ、全力で冷静な自分を取り繕う。

(大丈夫。私はクール系大人女子。聡明でかっこよくてスタイル抜群。礼儀作法も完璧。無敵)

自分に言い聞かせつつ、ルークの背中を追った。

張り詰めた空気。

アーネスト隊長が静かに口を開く。

「まず、ノエル・スプリングフィールド」

「ひゃいっ」

「…………」

大事な会議の返事で、目も当てられない噛み方をした残念な女がそこにいた。

私だった。

「……見事な活躍だった。特別報酬と褒賞を与える」

感情のない声で言うアーネスト隊長。

「ありがとうございます」

私は凜とした声で答えて、一礼する。

きりっとした顔でルークの隣に並んだ。

(何も無かった。うん、何も無かった。よし!)

都合の悪い記憶を抹消しつつ、進んでいく会議。

「続いて、新しく創設される王宮魔術師団七番隊について。多様化する世界情勢と魔法犯罪に対応するために試験的に部隊が作られることに決定した。他の隊に比べると極めて小規模なものだが、活躍によっては規模を大きくしていくことも検討している」

(新しい部隊ができるんだ)

技術の発展によって世の中が変わっていくと共に、王宮魔術師団のあり方も少しずつ変わっていっているのだろう。

いったいどんな部隊になるのかな、とわくわくしながら聞いていたそのときだった。

「今回、七番隊の隊長をルーク・ヴァルトシュタインに任せることに決定した」

(…………え?)

頭の中が真っ白になった。

(ルークが隊長になるの……? 三番隊は? 私との 相棒(バディ) の関係は?)

目の前の出来事がうまく頭に入ってこない。

戸惑いと共に、見上げたルークの横顔は、ただ前だけを見つめていた。

ルークは前に進もうとしているのだ。

その事実に、私は激しく混乱する。

別に混乱するようなことではないはずだ。

何事も変わらずにはいられないのは当然で。

だけど、私は気づかないうちにずっと続くんじゃないかって思ってしまっていたのだ。

永遠なんてないことを、頭ではわかっていたはずなのに。

呆然と立ち尽くす。

そのとき、聞こえたのは背後からの扉が開く音だった。

その音は普通のそれとは違う独特の奥行きと響きを持っていた。

まるでこことは違う遠くの世界から聞こえているような。

近づく無数の足音。

王の盾(キングズガード) の精鋭に連れ添われて現れたのは、金色の髪をした男の人だった。

ミカエル・アーデンフェルド第一王子殿下。

美しく整った顔立ちは、芸術品のような、あるいはこの世のものとは違う何かなんじゃないかと感じてしまうような、非現実的な空気を纏っている。

「伝えたいことがあって寄らせてもらった。構わないかな」

「ええ、構いませんが。我々も職務がありますので、手短に済ませていただけると」

「そうだね。すまない。手短に話そう」

第一王子殿下は言った。

「私は、王宮魔術師団三番隊に所属するノエル・スプリングフィールドを 王の盾(キングズガード) の筆頭魔術師として迎えようと思っている。できるだけ早く。できれば、来月からにでも」

(………………へ?)

何を言っているのか、まったく理解できなかった。

( 王の盾(キングズガード) の筆頭魔術師? 私が? どうして?)

戸惑う私に、にっこり目を細めてから、王子殿下は言う。

「検討してもらえるかな」

「お待ちください」

静かで淡々とした声が隣から響いた。

聞き慣れた、よく知っている声。

「各部隊の隊長には副隊長を指名する権限がある。新設される七番隊にもそれは同様ですよね」

言葉には、どことなく怒りが込められているような感じがした。

ルークは言った。

「七番隊隊長として、 相棒(バディ) であるノエル・スプリングフィールドを副隊長に指名します」

張り詰めた空気。

青と黄金の瞳が交差する。

(筆頭魔術師!? 副隊長!? 私が!?)

そんな二人を見上げながら、私は頭を抱えていた。

拝啓、お家で待つお母さん。

駆け出しだったはずの私の王宮魔術師生活は、いよいよまったく想像もしていない方向に進んでしまっているみたいです。