軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

128 精霊女王

(すごい。今のに対応できるなんて)

刹那の間に交差する魔法。

激戦の中で、エヴァンジェリンの思考は澄み切っていた。

積み上げてきた経験が形作る落ち着き。

(じゃあ、これはどう?)

展開する十一の魔法式。

放つのは他の相手ではまず対応できない複合魔法。

対してノエル・スプリングフィールドの反応は的確だった。

後ろに下がって時間を作り、相手の魔法が発生させる事象を見極め、簡略化した 魔法障壁(マジツクバリア) の局地展開と時間加速魔法による回避で凌ぎきる。

(すごいすごい。まだついてくる)

真っ直ぐな目で自身を追走する小さな魔法使い。

弾む鼓動。

期待。

エヴァンジェリンは思いだしている。

幼き日のことを。

彼女が背負うことになった宿命を――

才能が天から与えられるのなら、間違いなく神はその配分を不平等に決めている。

生まれ落ちたその瞬間から、エヴァンジェリンは特別な存在として育てられた。

五千年に一人の逸材。

赤子が持つそれとしては、異常としか形容のしようがない魔力量。

泣き叫ぶ彼女を見て誰もが理解していた。

この子は、自分たちとは違う異質な存在なのだ、と。

幼い彼女を大森林の 森妖精(エルフ) たちは神に与えられた祝福として大切に育てた。

福音の意味を持つ名前。

与えられる最高の教育。

期待と尊敬。

『みんな期待してくれてる! がんばらないとだわ!』

幼き日のエヴァンジェリンは真面目で頑張り屋だった。

たくさんがんばるとみんなすごく喜んでくれる。

褒めてくれる。

魔法の勉強は楽しかったし、一日十五時間の勉強も全然苦しいとは思わない。

でも、ひとつだけ気になることがあった。

書物の中で見かける友達と遊ぶという行為。

自分はそれをしたことがない。

友達もいないし、遊ぶというのもよく理解できなかった。

そんな時間、生活の中で普通手に入らないと思うのだけど。

『友達と遊んでみたい、ですか?』

勇気を出して伝えたエヴァンジェリンに、教育係の先生は言った。

『そうですね。とてもいいことだと思います。でも、エヴァンジェリン様は普通の子とは違う特別な存在ですから。精霊魔法を使う上で幼少期の訓練は何よりも大切です。たくさんお勉強して、一人前の精霊魔法使いになったら、友達と遊ぶことを始めましょう』

(一人前になったら、友達と遊べるのね!)

エヴァンジェリンはさらに精力的に勉強に打ち込んだ。

十年が過ぎた。

『もう友達と遊んで良い?』

『ダメです。まだ一人前とは言えませんから』

エヴァンジェリンはもっと精力的に勉強に打ち込んだ。

百年が過ぎた。

『もう友達と遊んで良い?』

『ダメです。まだ精霊王様ほど上手に精霊魔法を使えませんから』

エヴァンジェリンはもっともっと精力的に勉強に打ち込んだ。

千年が過ぎた。

『おめでとうございます。今日からエヴァンジェリン様がこの大森林の女王です』

『もう友達と遊んで良い?』

『ダメです。女王としてのお仕事がありますから』

エヴァンジェリンは女王としての仕事に奔走した。

三千年の時が過ぎた。

『友達と遊んでみたいのだけど』

『ダメです。女王としてのお仕事をしていただかないと』

『でも、私はずっと――』

『エヴァンジェリン様は私たちにとって特別な存在なのです。貴方様が帝国の軍勢を撃退してくれたから大森林の平和は保たれている。力を持つ者としての責務を果たすのが女王としてのあるべき姿ではありませんか』

そのときにエヴァンジェリンは気づいた。

この人たちが見ているのは私ではなくて、

自分たちにとって都合の良い女王なのだ、と。

いつもそうだった。

求められるのは皆が望む振る舞い。

誰も女王ではない私のことを考えてくれない。

私の幸せを願ってはくれない。

だから、思ったのだ。

私だけは、私の幸せのために行動しよう、と。

誰に何を言われようが知ったことじゃない。

(私は、私がしたいように生きる)

それからエヴァンジェリンは、皆が求める理想の女王としての振る舞いよりも自分の意志を優先するようになった。

遅れてきた反抗期のようなものだろうか。

三千年もの間、我慢し続けて生きてきたのだ。

少しくらいわがままを言っても許されるだろう。

周囲を振り回して困らせては、悪いことをしている喜びと開放感に浸る。

最近は、『世界は私のもの』なんて無茶苦茶な言葉も本気で言えるようになってきた。

少しやりすぎているような気もするが、楽しいので細かいことは気にしないことにする。

(あとは友達の一人でもできれば、幸せだと胸を張って言えるんだけどね)

友達と遊んでみたい。

そんなささやかな願いは、彼女にとって実現不可能な難題として存在し続けた。

大森林の《精霊女王》。

大きすぎるその肩書きは、対等な関係作りを阻害する。

加えて、何千年もの間憧れ続けたのだ。

彼女の求める理想の友達像は現実的なものからすっかり乖離していた。

(女の子で、私と同じくらい強くて、私よりお馬鹿で、面白くて、普通と違う変わったところがある子がいいのだけど、これがなかなかいないのよね)

候補になりそうな相手さえなかなか見つからない。

だからこそ、風の噂で聞いたその子の話は、強く彼女の興味を惹くものだった。

アーデンフェルドの小さな魔法使い。

王宮魔術師団入団後、記録的な速さで昇格を重ねている一方で、それ以上にとんでもない力を秘めた存在である可能性があるという。

自分と同じくらい強くなるかもしれない女の子。

会ってみたくて。

国別対抗戦の候補者として見つけたその名前に、胸を弾ませずにはいられなかった。

(面白い子だった。秘めている可能性と常識に囚われない自由な振る舞い。ちょっとお馬鹿な感じも好きだし、周りが見えなくなるほど魔法に夢中なところも好感が持てる)

理想の友達像にも多くの点で当てはまっていて、

だからこそ、エヴァンジェリンは残念に思っていた。

気づかないふりをしていた現実。

センスはある。

勘も良い。

この年齢でここまで優秀な魔法使いになれていることを考えれば、どれだけ多くの時間を魔法に捧げてきたのだろうと感動さえ覚える。

しかし、私の捧げてきた三千年はこの子のそれを、はるかに超越している。

奇跡や偶然では絶対に埋められない地力の差。

この子の力は、まだ私の域までは届かない。

そう思っていたのに――

常軌を逸した反射速度と未来予知のような先読み。

遠い高みから見下ろしていたはずの彼女は、自分のすぐ傍まで迫っている。

(この子、どこまで――)

思わず零れる小さな笑み。

もはや手加減の必要は無い。

ただ全力を尽くすことに集中する。

《 空間を創造する魔法(エア・フリユーゲル) 》

具現化する心象風景の大森林。

彼女を庇うように立つ千を超える数の高位精霊たち。

ルーク・ヴァルトシュタインを粉々にした《精霊女王》が持つ中で最強の超位魔法。

(決着をつけましょう。ノエル・スプリングフィールド)