軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127 怪物

数日前。

封印都市に住む少女――ライラが、国別対抗戦を観に来たのは魔法に入れ込んでいる父に連れられてのことだった。

パパはどうして私より魔法の方が好きなのだろう。

魔法なんて絶対好きになるもんか。

しかし、ライラは父の血を引いていたし、その価値観は彼の影響を多分に受けていた。

必然、目の前で繰り広げられる魔法使いの戦いにライラは魅了されることになる。

展開する美しい魔法式と、想像を絶する大魔法の数々。

中でも、彼女が強く惹きつけられたのが、アーデンフェルド王国代表の小柄な魔法使いだった。

自由で伸びやかな風の魔法と、型に囚われない拳と頭突きをためらいなく使うスタイル。

「おねーちゃんの頭突きすごいね!」

勇気を出して声をかけたら、

「すごいでしょ。次も勝つから見ててね」

とやさしく頭を撫でてくれて。

他の子に比べ身体が小さかったライラは、彼女に自分を重ねた。

自分もいつかあんな風に強くて優しい魔法使いになりたいな。

胸の中に宿った小さな夢の種。

そんなライラが、準決勝の試合を観に来たのはほとんど必然のことだったと思う。

「相手はアーデンフェルドのちびっ子か」

「面白い子ではあるが《精霊女王》とは格が違う」

「一分持てば大健闘だな」

誰も小さな魔法使いに期待なんてしていなくて。

(そんなことないもん。おねーちゃんは強いんだ……!)

しかし、試合開始と共に目の前に広がったのは、目を覆いたくなる光景だった。

絶望的なまでの力の差。

何をやっても通用しない。

(そんな……)

見ていられない。

おねーちゃんの動きが悪いわけじゃないのに。

相手があまりにも強すぎる。

(おねーちゃん……)

思わず目を伏せそうになったそのときだった。

放たれたカウンターの一閃。

呼吸が止まる一瞬。

「…………え?」

「今、あの速さに合わせた?」

戸惑いの声。

誰も目の前の光景が受け止められない中、少女は祈るような思いで試合を見つめる。

(おねーちゃん、がんばって……!)

王宮魔術師団総長クロノス・カサブランカスは会場の一角で試合を見つめていた。

周囲に張った認識阻害の魔法。

誰もそこに彼がいることに気づいていない。

(転移箇所の先読み。ルークくんのデータを活かした反応。たった一日でここまでものにしてくるとは)

固有時間を加速させる魔法を使った超高密度の学習。

常人の域を遙かに超えた集中力と持続力は魔道具師時代に身につけたものだろう。

反応速度とタイミングは田舎の野生児として育ったことが良い影響をもたらしている。

今の一瞬だけでも、勘の良い魔法使いなら感じ取ったはずだ。

この子には、普通の魔法使いとは違う何かがある、と。

(でも、まだほんの一端)

クロノスは思う。

(君の才能が本当に力を発揮するのはここからだろう?)

◇ ◇ ◇

ついていくのが精一杯だった。

一瞬の隙さえ許してくれない。

私とエヴァンジェリンさんの間には、魔法使いとして気が遠くなるくらいの差があって。

だけど、その事実は私に勇気をくれるものでもあった。

ギリギリだけど、対応できてる。

ついていけてる。

私の魔法は、西方大陸最強の魔法使いにだって届いてる。

うれしくて仕方ないんだ。

苦しさなんて全部吹っ飛んでしまうくらい。

いける。

きっとできる。

防戦一方。

魔法が交差するたび突きつけられる力の差。

なのに、怖いという気持ちよりずっとわくわくする気持ちが大きかった。

踏み出せ。

リスクを取れ。

前を目指すんだ。

今よりちょっとだけすごい自分に近づけるように。

思考する時間はない。

身体の反応にすべてを任せる。

気がつくと私は、かわせないはずの攻撃をかわしている。

まるで、自分ではない何かに導かれているかのように。

経験したことのない速度。

ありえないはずの動き。

――なんだ、この感覚。

わからない。

自分が自分じゃないみたい。

止まらない。

止められない。

ううん、止めようなんて最初から思ってない。

もっと前へ。

もっと先へ。

――なんだ?

これはなんだ?

◇ ◇ ◇

「おいおい、冗談だろ……」

漏れるつぶやき。

観客席の魔法使いは皆、目の前の光景に呆然と見入っている。

驚くべきは、エヴァンジェリンが試合開始直後よりもその力を増していること。

ルーク・ヴァルトシュタインに力を封じ込められていた前戦とはまるで別人。

その強さは、彼女が今までの大会で見せてきたそれを優に超えている。

(これが数千年の時を魔法に注ぎ込んできた《精霊女王》の本領……)

次々に展開する美しい魔法式と規格外の破壊力。

世界が強振する。

特級遺物によって七重にも重ねられた魔術障壁が悲鳴を上げる異常なまでの力。

観客席保護のための障壁が無ければ、間違いなくこの都市は更地になっている。

しかし、さらに異常なのは戦いが終わっていないことだった。

時間が経過するごとに力を増している怪物に対して、小さな魔法使いは屈しない。

(うそ、だろ……)

目にも留まらぬ速さで繰り広げられる攻防。

(あれについていっている……?)

一線級の魔法使いが視認することさえ叶わない領域。

にもかかわらず、一歩も退かず互角に渡り合うその姿は、尋常な人間の域を完全に超えている。

(なんだ……なんなんだ、あの子は……?)

誰も何も言えない。

呆然と目の前にある異常を見つめている。