軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113 魔導国の鍛冶工房

遂に手に入れた本戦出場権。

連戦で体力的にも厳しい戦いだったけど、なんとか結果を出すことができてほっと胸をなで下ろす。

あいつに置いて行かれるのは悔しすぎるもんね。

十四秒で簡単に決めちゃったあいつに比べると、若干の先に行かれてる感はある気もするけれど、結果だけ見れば同じなので気にしないことにしよう。

私の方が当たった相手は強かったしね。

うん、実質互角よ、互角。

疲労で身体が重くて。

だけど、その重さもなんだか心地よい。

がんばって良い結果を出した充実感があるからだろう。

魔法使いとしての実力を信じてもらえて。

大事な仕事を任せてもらえた。

役立たず扱いされてたあの頃には考えられないくらいのやりがいあるお仕事。

幸せだなって改めて思う。

ご褒美として、午後には自由時間をもらえた。

「ねえねえ、ルーク! 街に繰り出すよ!」

私の言葉に、ルークは瞳を揺らした。

少しの間、黙り込んでから言う。

「わかった。準備するから待って」

ルークが出てくるのを外で待つ。

女の子は準備に時間がかかるものだからな、と思ってから不意に気づいた。

……ん?

あれ? 逆では……?

いやいや、支度が早いのは良いことだからね。

これも、ブラックな職場で時短への意識が高くなったゆえのこと。

むしろ、上品で優秀な大人女子だからこそ、家を出る五分前まで寝れる効率的身支度術を身につけていると言える。

やれやれ、ルークさん。

時間に対する意識がまだまだ低いようだね。

心の中で勝ち誇っていると、ルークが出てきた。

「お待たせ。どこに行く? 簡単に調べた感じ、表通りのカフェとか――」

「魔法鍛冶師さんの工房! 近くに有名なところがあるんだって!」

ルークは感情のない瞳で虚空を見上げてから言った。

「……知ってたよ。うん、知ってた」

なんだかルークは不思議な反応をしていたけれど、そんなことよりも何よりも私の心はこれから行く工房に夢中になっていた。

魔導国リースベニア。

王国とは異なる形で発展した魔法体系と高い技術力を持つ魔法先進国。

特にこの魔法鍛冶師さんの工房は有名で、魔導国における付与魔法技術の神髄がここにあるとのこと。

いったいどんな魔法が使われているんだろう。

想像しただけで、わくわくする気持ちを抑えきれない。

知らない街を歩いて鍛冶工房へ向かう。

何度か道に迷いそうになっては、ルークに正しい道を見つけてもらって。

到着した工房は、有名なだけあって大きく立派な外観をしていた。

広大な敷地内に立つ三棟の建物。

周囲には巨大な倉庫と、野ざらしで積まれた材料や資材が並んでいる。

「すみません。見学をさせてもらいたいんですけど」

「見学? ダメだ。そんなの受け付けては――」

言いかけて、何かに気づいた様子で息を止める。

「あんた、最終予選で活躍していたアーデンフェルドの」

どうやら、知ってくれていたらしい。

職人さんは戸惑いつつも、親方に話をつないでくれた。

「アーデンフェルドの王宮魔術師様が見学とはね。だが、誰が相手だろうと答えは同じだ」

親方さんは冷ややかな口調で言う。

「見学は受け付けてない。どうしてもと言うなら、資材倉庫の整理くらいやってもらわないと」

「親方! 繁忙期以降あそこはひどい状態ですよ。整理なんて一日二日ではとても――」

「だからどうした。俺には関係ない」

「いくらなんでもかわいそうです。見学するくらいであの量なんて」

「無理ならあきらめろってことだ」

ぶっきらぼうな口調で言う親方さん。

なるほど。

倉庫の掃除をすれば見学させてもらえるのか。

「ノエル相手にその発言は……」

ルークが頭を抱える隣で私は言った。

「倉庫の掃除ですね! 任せてください!」

◇ ◇ ◇

一時間後、綺麗になった倉庫の前で職人たちは絶句することになった。

誰も声を出せない。

親方も、呆然と倉庫を見つめて立ち尽くしている。

「こ、この短時間でどうやって……」

一人の職人がふるえる声でつぶやく。

「夢でも見てるのか……?」

「指でなぞっても埃ひとつつかないぞ」

「意地悪な姑対策もばっちりかよ……」

目の前の現実を受け止められない職人たち。

「倉庫の整理は魔道具師時代下っ端の仕事としていつもやってたので慣れてるんです。これで、見学させてもらえますよね?」

弾んだ声で言う小さな魔法使い。

不可能なはずの難題を突破されてしまった以上、親方も首を横に振ることはできない。

「あ、ああ。わかった」

完全にペースを乱され、求められるがまま見学に応じることになった。

(翻弄されてる……)

(あ、あの親方が……)

この出来事は、魔導国屈指の頑固さで知られる工房の長が、その長い経歴の中で唯一完全に翻弄され手玉に取られてしまった事件として、職人たちの間で語り継がれていくことになるのだが、

「親方! こっちも見ていいですか!」

「ああ、構わないが」

「すごい! そこで第二補助式を入れるわけですね! 勉強になります!」

当の小さな魔法使いは、そんなことまったく知らないで、夢中で目の前の魔法に目を輝かせていたのだった。