軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112 激震

「すげえ、目を閉じたままかわしてる……!」

「やるねえ! あの小さいの!」

「がんばれ! ちっちゃいおねーちゃん!」

小さな魔法使いが見せた曲芸的な回避と反撃に沸く観客席。

(厳しい状況下であの落ち着きと術式精度。間違いなく逸材と言わざるを得ない)

注視していたのは本戦に向けて各国から偵察に来た魔法使いたちも同じだった。

(だが、相手が悪かった。視界を封じられた状態で勝てる相手ではない)

息を吐いて、目の前の戦況を見つめた。

(この試合で彼女は消える)

◇ ◇ ◇

初めて経験する視界を封じられた状況下での戦い。

私を支えていたのは積み上げてきた反復だった。

魔法が大好きで。

あいつに負けたくなくて。

裏庭で日が暮れるまで一人で練習してたあの頃。

今もその気持ちは変わってない。

うまくできるとうれしくて、うまくいかないと悔しくて。

私はみんなよりちょっとだけ子供なところがあるから、限界なんてないと今でも信じてるんだ。

もっともっとうまくなれるって。

私は誰よりも私に期待していて。

何度も何度も繰り返し続けた。

その時間が私に力をくれる。

見えなくても大丈夫。

身体が覚えてる。

自分の中に生まれた手応えに私は口角を上げた。

――楽しくなってきた。

◇ ◇ ◇

(此奴、動きの鋭さが増して――)

ルーベンス・メンゲルベルクは、戦いの中での彼女の変化に誰よりも早く気づいていた。

偵察班から受け取っていた情報とここまでの戦闘からひとつの結論にたどり着く。

(異能の域にまで達した適応力……)

おそらく、想像を絶する地獄を経験してきたのだろう。

そうでなければこの若さでここまでの域にはとても到達できない。

(良いぞ若人。お主の情熱を心から賞賛する)

ルーベンスの笑みは、自身と同じ匂いを彼女に感じ取ったがゆえのことだった。

初めて魔法を使った日。

教室のみんなが驚いてくれてうれしくて。

もしかしたら天才なのかもって夢中で魔導書を読んだ。

なつかしい過去の記憶。

新鮮な喜びと情熱が彼女の魔法にはみなぎっている。

(だが、まだ青い。今のお主では儂には届かぬ)

敵が図抜けた適応力を持っていたとして、状態異常によるダメージを軽減することはできない。

老魔法使いが磨き上げてきた技術は、若い魔法使いの身体を着実に蝕んでいく。

戦況は依然、圧倒的に優位。

あとは、反撃の糸口さえ潰してしまえば、勝利は必然的に自分のものになる。

そして、相手の強みを消して負け筋を潰すことに関して、状態異常魔法ほど適したものはない。

猛毒と麻痺と忘却、 弱体化(デバフ) が着実に彼女を蝕み、追い込んでいく。

そして、ルーベンスが起動したのは勝利を決定的なものにする魔法式だった。

《 対象を石化する魔法(ゴルゴニス) 》

石化魔法を小さな魔法使いはかわしきれなかった。

どよめく観衆たち。

ノエル・スプリングフィールドの両脚が石化して、観衆たちはこの戦いが決着したことを知る。

時間を加速させる魔法による回避も身動きできない状態では何の意味も無い。

(あとは距離を取って安全な位置から確実に勝利を)

距離を取ろうとするルーベンス。

異変が起きたのはそのときだった。

(身体が、動かない)

質量を持った何かが自身の動きを制限している。

その正体に気づいて、ルーベンスは絶句することになった。

(風魔法――!?)

自身を吸い寄せる強烈な風。

即座に抜け出そうとするが、しかし逃れられない。

(此奴、魔力量が……!)

爆発的に増大する魔力量。

いったい何が起きているのか。

近づく距離。

視界を封じられた状態で確実に攻撃を当てるために、敵を自分が望む位置まで持ってくる。

目にも留まらぬ速さで展開する無数の魔法式に、老魔法使いは一瞬見とれた。

なんと自由で荒削りで情熱に満ちた魔法式だろう。

(この若さでよくぞここまでのものを)

いったいどれだけの量を積み上げたのか。

その美しさの裏にある汗を思って、ルーベンスは目を細めた。

(見事なものだ、若人よ)

炸裂する風の大砲。

自身の敗北を決定づける一撃。

広がる青い空。

背中に石畳の感触。

ルーベンスは鼻先を抜ける爽やかな風の残り香を感じていた。

(儂も、もっとやらねばな)

静まりかえる観客席。

誰もが言葉を失っていた。

戦況はたしかに老魔法使いが優位だったはずだ。

磨き上げられた状態異常魔法は間違いなくノエル・スプリングフィールドを絶望的なところまで追い詰めていた。

問題は、戦況が覆しようのないものになったその瞬間、彼女の魔力量が爆発的に増大したこと。

(何だ……何が起きたんだ……)

偵察に来ていた魔法使いたちもまるで理解が追いつかない異常な状況。

魔導国最強の一角――百戦錬磨の老魔法使いが作り上げた圧倒的優位を、力業で覆して勝利する。

(ありえない……そんなこと、ありえるはずが……)

息がうまく吸えない。

口の中がからからに乾いていた。

(いったいなんなんだ、あの子は……)