軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本編最終話・そんなつもりじゃなかった、と俺は言う。

「小谷っ!」

先生の声にハッと目を覚ます。教室。どうやら寝ていたらしい。なんかすげー疲れる夢を見た。なんだったか忘れたけど、すげー大変な夢だった。でも、充実した夢だったように思う。

だから、なんかその日は先生に怒られてもなんかうきうきだった。先生なんて怖くないって思えた。

そんな俺が帰り道に食堂横の自販機でジュースを買って飲もうとした時だった。

青い空だなーなんて呑気に思っていたら、よく見た制服の女子が屋上に立っていた。

俺は慌てて目を逸らす。多分、気のせいだ。そんなわけがない。なんで学校の屋上に立ってるんだよ。しかも、なんだ? とび、とびおりみたいな……。

「気のせいだ。気のせい……」

俺はジュースを一気に飲み干すと訳も分からず駆け出し、家に帰ってベッドに飛び込んだ。

絶対に気のせいだ。だって、朝霞とは教室で帰りの挨拶をした。ちょうど出口でばったり会って、

『あ、朝霞、さん。あの、さよなら』

『……うん、さよなら』

ちゃんと挨拶したんだ。ちょっと暗い顔してたかもしれないけど、俺はちゃんと挨拶をしたんだ。そう言い聞かせて気づいたら寝ていた。

そして、翌日、学校に警察がいっぱいいた。

朝霞ひかりが、しんだ。

飛び降り自殺だったらしい。

雨野達がいじめていたらしい。

仲のいい明神さん達は泣いていた。

大川や赤城達も泣いていた。

中原も泣いていた。

みんな、泣いていた。

俺は……泣けなかった。なんでか。泣けなかった。だから、泣いてるふりをした。

みんなと違ったらヤバいから。そうしてしまった。

雨野はいなくなった。それだけだ。

みんなで葬式に行って、みんなで色んな行事がある度に朝霞の写真を連れてって、卒業式も全部。

でも、朝霞は写真にいない。俺は知っている。ずっと俺を、遠くから幽霊になって見ていた。俺をそれまでなんも関係性のなかった俺を。ただのクラスメイトだった俺を。

なんで止めてくれなかった?

なんで本気で泣いてくれなかった?

なんで、なんで、なんで、生きている?って。

別に、そんなつもりじゃなかった。

朝霞のことはかわいいと思っていたし、力になれるならなりたいとは思っていた。

それは、本当だ。

でも、俺は怖くなって出来なかった。だから、朝霞はしんだ。

俺が、間違ったから。

俺が、さよならって言ったから。

ごめんな、朝霞。

「……雲くん!」

はっと目を覚ますと、教室。どうやら寝ていたらしい。

やめてくれよ。夢から覚めるスタートの夢。

俺を起こしたのは、夢の中の先生と同じ声ではなかった。

先生は起こしてくれなかったようで、時計を見れば授業は終わっている時間。

まあ、先生も俺に何かは言いたくないか。

「ねえ、や、こ、小谷、君」

「おう、朝霞。おはよう」

見上げると、俺を心配そうに見つめる美少女。黒のグラデーションが目立つようになってきたその伸びた髪を揺らす朝霞だ。うん、かわいい。

「おはようじゃないよ。ちゃ、ちゃんと勉強しないと、だめ、だよ」

注意する朝霞もかわいい。

「ま、まあ、ノートでもなんでも見せてあげるし、受験とか失敗してもわたしがなんとかするけど……」

にちゃあと笑う朝霞はこわいい。

「よ、よし、帰るか」

慌てて帰りの支度を始める俺。この話はあまり広げない方がよさそうだ。なんか色々よろしくない気がする。俺は一人ガチャに祈りを捧げる中原に別れを告げ、意味ありげな視線を送ってくる明神さん達に曖昧な挨拶をし、野球部に急ぐトラと謎のハイタッチをし、学校を出る。隣には朝霞。

色々あって、俺達の生活がそれなりに落ち着くまでかなりの時間がかかった。それでも、なんとかここまで戻ったのは、俺達にとって、いい大人のお陰。やっぱり俺達はまだ子どもだから。

俺はそこまで変わりはないけど、朝霞はあの事件以来すっきりした顔をしていた。

明るくなった、とは違うかもしれないけど、いい顔をしている。年末には、中学時代、雨野に虐められてた子の住んでいる北海道まで遊びに行ったというパワフルな一面も見せている。その時に何故か俺は、俺の行動を逐一報告して朝霞を安心させなければならないという謎のルールがあったけど。

だけど、それ以外、変わりはない。

いや……嘘だ。

朝霞や中原や明神さん、トラと色んな思い出を作った。本当に大切な思い出。

そして、俺は思ってしまった。

「…………ん?」

やはり元運動部のせいか足が速い朝霞が振り返る。ほのかなシャンプーの香りが漂い罪悪感に震える。俺は卑怯者だ。

「俺は、卑怯者だ」

「え?」

戸惑う朝霞。でも、俺は止まらない。

「俺は、偶然朝霞を助けただけだ」

「……うん」

本当にただの偶然だ。だけど、朝霞は俺を見て笑う。

「でも、すごいよ」

朝霞はやっぱり太陽だ。帰り道にすれ違った男子たちがぽーっとした目で見てたからな。前までは闇が深くそこまでではなかったけど、今は明るさとはかなさを一緒に持っている感じで、より一層本当にかわいい。

「俺は、助けた恩でずっと朝霞に甘えている」

「甘えていいよ。わたしが、そうしたいんだから」

朝霞は太陽だけど、普通の女の子だ。

嬉しいことには笑顔で、悲しいときには思い切り泣いて、怒って、驚いて、表情豊かな普通の女の子。

「俺と朝霞はあんなことがなければ、こんな風にならなかった」

「そう、だね。でも、あんなことがあったんだよ」

そんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかったんだよ。

ただ、ちょっと俺かっこいいかもって思ってただけだ。

そして、あわよくば朝霞が……その程度の浅い考え方だった。

でも、

「朝霞、ありがとう」

「や、小谷君、ありがとう」

俺は、

「朝霞」

「うん」

俺は朝霞が、

「あ、朝霞」

好きだ。本気で。

「これからもよろしくな」

だけど、歪な関係で始まった以上、俺達はそれを乗り越えなきゃいけない。

だから、俺は、本当に本当に本当に朝霞が俺のことを好きだよ思ってくれるようになるようがんばる。

そんな存在になってみせる。絶対に。

そして、その時に言うんだ。うん、好きだって。言うぞ! うん!

朝霞は驚いたように目を見開いて、そして、にちゃあっといつもの笑みを浮かべる。これが今の朝霞だ。うん。

「うん。や、小谷君、こ、これからもよろしくね。や、小谷君の為なら、わたし」

いつもの朝霞が笑う。大きな瞳に俺だけを映して。

「なんでもするから」

曇った笑顔で俺を見る朝霞。でも、絶対にこの朝霞もかわいい。

顔を見合わせ二人で笑い、二人で並んで歩く。帰り道を。夕方の光の中を。眩しそうに眼を細めながら二人で。

昔の俺は、そんなつもりじゃなかった。

烏滸がましく学校の太陽、朝霞を好きにさせるなんて。

でも、今の俺はそんなつもりだ。

そんなつもりじゃなかった、と君は言う~屋上から飛び降りようとした学校の太陽を助けたら、曇りまくって重すぎる従順女子に闇落ちした件~ 完