軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海守の腕輪

泥棒を衛兵に引き渡し、ルミアとサフィーと別れた俺は当初の予定通り海岸にやってきていた。

白い砂浜に透き通ったような青い海が寄せては返し、空には海鳥が鳴いている。

まさに南国の海にきたかのようでこうして眺めているだけで、心が洗われるようだ。

「……ああ、海っていいな」

思わずそう呟くと、風が強く吹いて前髪を持ち上げる。

まるで海が『そうだろ?』って返事をしてくれたかのようだ。

景色を眺めながら歩くと、砂浜にくっきりと俺の足跡が残る。

足から伝わる柔らかな砂の感触が随分と久し振りだった。

砂場にやってくるのなんてどれくらいぶりだろう。社会人になってから一度も海に行っていなかった気がするなぁ。

波打ち際まで歩いてみると、押し寄せた波が靴の裏を微かに濡らす。

屈んで水に手を入れてみると、初夏の暑さを吹き飛ばすような冷たさがあった。

このまま飛び込んでみれば気持ちがよさそうだが、今日の目的は遊泳ではなくアイテムの実験だ。

「そろそろアイテムを試してみるか……」

立ち上がった俺は、ルーカスに言われたように左腕にはめている海守の腕輪に魔力を流してみる。

すると、腕輪が輝いて魔力の膜のようなものが身体に張り付いた。

思わず身体を触ってみると、透明なシールで覆われているかのような感覚。

このまま海に入っても息ができるのだろうか?

なんて不思議に思いながらも、海の中に足を入れてみる。

明らかに靴の中に海水が入り込むような深さまで足を突っ込んでみたが、海水が入り込んでくるような感触はない。それどころかまったく濡れてさえいないし、冷たさも感じなかった。

そのことに驚きながらザブザブと海の中に入ってみる。

目元に海水がやってきて思わず目を瞑ってしまう。

しかし、膜で守られているからか、冷たさがやってくることはない。

腕輪の力で大丈夫だとわかっていても水の中で目を開けるのは少し怖いな。

それでも俺は海の中を見たい。その想いが恐怖を押しのけて、重くなった瞼を持ち上げた。

視界にある泡が晴れると、どこまでも青い世界。

視界の端にいくつもの魚が泳いでいる。

もっと広い海の世界を堪能したくて歩いてみると、普通の地面を歩いているかのように踏み出せた。

その感触に驚きこそすれど、足元を見ることはない。

初めて見る海中の景色に目が離せないからだ。

ドンドンと海面から遠ざかって深い位置まで歩くと、気が付くと周囲は海の生き物で溢れ返っていた。

「……これが異世界の海」

足元には珊瑚のようなものが広がっており、大小様々な魚が三百六十度を泳ぎ回っていた。

海の中を悠々と泳いでいる魚はとても美しく、市場や店で並べられているものよりも優美だ。

魚の群れが俺という障害物を目にして散開する。

しかし、障害物を通り過ぎるとまた一つの群れに戻った。統率のとれたその動きが花の輪郭のようだった。

きっと、この辺りだけで何千、何万という魚が存在するのだろう。

地上とはまったく違った海の世界に圧倒される思いだ。

上昇していく魚の群れを目で追いかけると、降り注ぐ太陽の光が眩しかった。

「アイテムの力のお陰で呼吸も問題ないな」

景色に圧倒されていたせいか自分が普通に呼吸できていることに気付くのが遅れた。

海守の腕輪はちゃんと機能しているようで、問題なく呼吸もできるし目や耳に水が入ることもない。

自分の身体に異変がないことを確認すると、海の底を歩いてみる。

水が存在し、波の流れのせいで少し歩きづらいがそれ以外は地上で生活しているのと何ら変わりがない程に快適だな。

走ることやジャンプも一応はできるが、地上にように俊敏とはいかないようだ。

「むっ、この岩場の辺りは水の流れが強いな」

岩場の間を歩いていると、ちょうど水流が流れ込む場所に差し掛かって。

それでも無理矢理突っ切ればいけないことはないが、ちょっとしんどそうだ。

「だったら、このまま流されてみるか」

逆らわずそのまま身を任せてみると、簡単に俺の身体は押し流されていく。

傍から見れば完全に水死体のように見えるが、自分の足で歩くよりもよっぽど早い。

手足を使えばそのまま泳ぐこともできるので、まるで自分も海の魚になったような気分だ。

海の中でも地上と変わりないように活動できるこのアイテムは最高だな。

でも、ルーカスさんやクラウスの言っていた通り、魔力がたくさん必要なようだ。

ただ膜を維持しているだけだというのにバカみたいに魔力が減っていく。普通の人だと数分しか保たないと言われるのも納得だった。

とはいえ、俺の魔力ならば問題はない。このままでも一日は軽く持つだろう。

ということで、早速海の調査だ。

海の沖の方に行くにつれて魔物が多くなると聞いたので浅瀬だけになるけどね。一日目なので海に慣れる方が大事なのでそれでいいだろう。

「調査!」

というわけで、海の中で調査スキルを発動。

すると、視界が色鮮やかに彩られた。

【グラスガイ】

グラスのように透き通っている貝。

海水と同化することによって、獲物に襲われるのを防ぐ。

透き通った貝殻があればあるほど売値が高くなる。衝撃には非常に脆い。

【アクア鉱石】

海底の深くにある魔力によって生成される鉱石。常に水分を保持しており、魔力を流すことで海水を流すことができる。

錬金術師が抽出すると、質の高い塩を取り出すことができる。

【ハンマーシャークの鱗】

ハンマーシャークの鱗。表面に無数の棘がある。

【キングロブスターの抜け殻】

キングロブスターが捨てた抜け殻。形のいいものほどマニアに好かれている。

素揚げにして食べるとエビの風味がして美味しい。

まず目についたのは海底にある素材だ。

グラスガイはグラスのように透明で、ホタテのような大きな貝柱が透けて見えている。

貝なのに中身が見えていていいのか。

でも、その貝殻はグラスのようでとても綺麗だ。橙色の価値がつくのも当然のような気がする。

鑑定スキルの捕捉によると、食べられる上に美味だそうだ。どうやら歯応えのあるホタテのような味らしい。

アクア鉱石はパッと見ただけではただの青い鉱石だ。どうやら魔力を流せば海水がわずかに出てくるらしい。

海水が出てくるということは、いざという時に塩分が補給できそうだ。

錬金術を使えば、高級な塩として抽出できるらしい。

時間のある時にルミアに渡して塩でも作ってもらおうかな。

ハンマーシャークの鱗は、サメの鱗らしく、表面がやすりのようにザラザラとしている。不用意に触れてしまえば肉が持っていかれてしまいそうな感じがある。

サメ系の魚や魔物と遭遇する際は、身体に触れられないように注意しよう。

アイテムの効果でできている膜が破られてしまいそうだ。

キングロブスターは市場でも見たが、まさか脱皮をするとは驚きだ。

目の前にあるものはまさに脱ぎたてのものらしく、綺麗にキングロブスターの形が出来上がっている。

形がいいお陰でそれなりの金額にはなりそうだが、俺としては素揚げとして食べる方が気になるので売らずに食べることにしよう。

身近にあったものをマジックバッグに入れて収納。

しかし、視界にはそれでもまだまだ素材がたくさんある。

メヒュエラ海藻、光る砂、ドレス珊瑚、ウミの実……知らない素材が数え切れないほどある。

最近はそれなりの素材を採取してきて、知識や経験も増えてきたと思ったが全くだった。

やはり海となると生態系が違うからか、名前や見た目だけでどのような性質があるか想像もつかないものも多い。

「海の中での素材採取も最高だな!」

俺は目の前にある素材を片っ端から鑑定して、採取していくのであった。