軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

地下六階

などと意気込んでロスカに採掘した素材を持ち込んだものの、彼女の琴線に触れるものはなかった。

地下三階だけでなく四階も同じように採掘してみたが、そちらも反応は微妙。

さらなる素材を求めるために俺たちは、さらに深く潜ってみることにした。

そうしてたどり着いたのが地下六階。

六階までくると今までの階層と比べて道幅が広くなり、坑道というよりも洞窟という様相を呈している。

さらに壁には光石が露出していたり、ヒカリゴケが繁茂していたりと全体的に少し明るい。

「随分と様子が変わりましたね」

「六階になると魔物も増えてあまり採掘者も入ってこれなくなるっすからね。今までのように道も手が入っていないんすよ。ここから先は今までよりももっと危険になるっすからね」

今までの道のりは人が多く通り、採掘者が多く使っていた場所故に整地されていた。

しかし、ここから先は人があまり入ることのない魔物の領域。

今までの道とは訳が違うということだろう。

魔石調査を使いながら俺たちは慎重に道を歩いていく。

視界では遠くの方で魔物の姿が浮かび上がっている。カニっぽいシルエットをしたもの、巨大な蛇、人間の腕のようなもの……今までの階層では見たことのない魔物が一気に増えていた。

急激な魔物の変化が採掘者や冒険者を阻んでいるのだろうな。

ひとまず調査スキルを使って歩いて、まずは内部構造から把握しないとな。

そんなことを考えていると、ロスカがスンスンと鼻を鳴らした。

「……シュウさん。左側の道は止めた方がいいっす。ガスっぽい匂いがするっすから」

「本当ですか? 俺には何も匂いませんが……」

「シュウさんはそうでも、あたしの鼻なら既に感じるっす」

【微量に有毒ガスの含まれた空気 濃度が高まるにつれて、呼吸器系に異常をきたす】

ロスカにそう言われて空気を鑑定してみると、有毒ガスが漂っていることがわかった。

しかも、ヤバい系のやつ。

このまま気付かずに進んでいたら呼吸に異常をきたしていたかもしれない。

そこで初めて気づいたとしたら手遅れだったかもしれない。

「わかりました。右側の道を進みましょう」

ロスカがいてくれて助かった。ここからは頻繁に空気も鑑定してガスの有無も確かめないとな。

魔石調査、鑑定を駆使しながら俺たちは安全に道を進んでいく。

「この辺りなら安全そうですし採掘をしてみますか」

魔物が周囲におらず、退避しやすい場所を見つけた俺はロスカに提案する。

しかし、ロスカは目を瞑って耳を澄ませているようだった。

「どうかしましたか?」

「……遠くで水の流れる音がするっす。ちょっと行ってみないっすか?」

俺にはまったく聞こえないが、獣人であるロスカには聞こえているのだろう。

この鉱山にも水脈があって、水が湧きだしているのかもしれない。

「いいですよ。向かってみましょうか」

「案内するっす」

俺がそう言うと、ロスカは嬉しそうに笑って歩き出した。

こういうちょっとした好奇心に任せて行動してみるのも悪くない。純粋に鉱山の中にある水脈がどんなものか気になる。

そうやってロスカの背中に付いていきながら調査を放ってみる。

通路の先はちょっとした広間になっているらしく、魔力の反射の鈍い箇所があった。

この感触は川で調査をした時の感触に似ている。ということは、この先に水があるということか。

通常の道であれば壁に反射して魔力同士がぶつかるのですぐにわかるからな。これは水の中に魔力が浸透した時の感触だ。

それにしても俺の魔力が浸透しきらないなんて相当深い。この下は縦穴になっているようだ。

「水の音が俺にも聞こえるようになりました」

「多分、あそこっすよ! 行ってみるっす!」

小走りするロスカを追いかけて広間に入ると、そこには美しい泉があった。

青や緑が入り混じったかのような綺麗な水は、まるで水自体が宝石のよう。

水の中には小さなイカのような生き物がふわりふわりと浮いており、体を発光させている。

地面から微かに水が湧き出る音がし、静かに水が流れ落ちている。

そして、そんな泉を取り囲むようにカラフルな水晶があちこちで露出していた。

「……綺麗な場所っすね」

「ですね」

あまりに幻想的な光景に上手く言葉がでず、ただ相槌を打つことが精一杯であった。

この光景からたくさん感じることはあるが、それを言葉だけで上手く伝えることもできないし、口にするとチープに感じてしまうように感じられた。

今はただ感想を口にするよりも、綺麗なこの空間を眺めていたかった。

水晶を別の角度から眺めようとしているのかロスカが歩き出す。俺も一緒に付いていこうとしたところで、はたと気付いた。

まだこの辺りの魔石調査をしていないことに。

こういう時に感知を怠るとロクなことにならない。

それを経験から知っていた俺はすぐに魔石調査を発動。

泉の周辺には魔物はいない……と思いきや、天井にある鍾乳石に紛れるように一体の魔物が張り付いていた。

岩や鉱物で体が構成されており、岩に足が二本生えただけにも見える魔物だ。

【ガントル】

洞窟に生息する魔物。岩や鉱石を好んで食べ、年月が経過するごとに体が硬化していく。

食べたことのある鉱物などに体表を変えることができる。

非常に鈍足であるが、天井に張り付いて落下し敵を押し潰してくるので要注意。

「ロスカさん、下がって!」

「え、ええ!?」

鑑定先生の情報を見た瞬間叫ぶと、ロスカが戸惑いながらも反応して下がる。

すると、先程までロスカのいた場所に天井にいたガントルが落ちてきた。

「うわー、天井にこんな魔物がいたんすね! 助かったっす、シュウさん。危うくペシャンコにされる――」

ロスカが俺の隣に下がりながら感謝の言葉を述べた瞬間、地面がピシピシと音を立てた。

視線をガントルから外して地面に移すと、蜘蛛の巣状にヒビが入っている。

「なんだ、地面にヒビが入っただけっすかぁ」

何も知らないロスカはホッと安心の息を吐くが、この下が深い縦穴になっていることを知っている俺は冷や汗が止まらない。

「……マズいです、ロスカさん。ここには深い縦穴があります」

「え? どういうことっすか?」

「このままだと俺たちは穴に落ちます」

きょとんとしたロスカにそう告げた瞬間、地面が崩壊して俺たちの足場がなくなった。

地面が崩れ落ちる中、俺たちは深い奈落へと落下していく。

「「うあああああああああああああっ!?」」

かなり深い穴なのだろうか先が見えないし、俺たちの悲鳴すら反響してこない。

重みのあるガントルがすごい勢いで落ちていくのが見えた。

「これダメっすよ、シュウさん! あたし死んだっす!」

ロスカが半泣きになりながら弱音を吐く。落下の風圧のせいか顔がすごいことになっている。

この一瞬で軽く数十メートルは落下した。ただの人間がそのような高所から落下して助かることはほぼない。

素材採取の途中で死ねるなら本望ではあるが、俺はまだこの異世界にきて数か月。

まだまだ採取していない素材が山ほどあるのだ。こんなところで死ぬわけにいかないし、諦めるわけにはいかない。

調査を発動すると、百メートルほど先で魔力が地面に到達する感触がした。

しかし、安心していられない。この落下速度で百メートルなど一瞬だ。

俺は落下しているロスカを急いで左腕で抱えると、右腕を地面に突き出して風魔法を発動。

「ウインド!」

手加減することなく放たれた風魔法が穴の中で荒れ狂う。

鋭い風の刃があちこちで舞い上がり、壁を容赦なく削っていく。もはや、突風を起こす初級魔法のレベルではない。

だが、その衝撃はかなり大きく俺たちの落下速度はかなり減速。

そして、今度は風を下に放出し続けるイメージで風魔法を発動。

俺たちの落下速度は緩やかになりホバー移動するような感じで降下。

そして、遂に俺たちは怪我をすることなく地面に足をつけることができた。

「ふう、風魔法でなんとかでき――たあっ!?」

抱えていたロスカを地面に下ろして一息つこうとした瞬間、抱き着かれた。

「シュウさん、ありがとうっす! あたしたち生きてるっすよー!」

よっぽど怖かったのだろう。ロスカが涙を流しながら、ギュッと腕を回してくる。

抱き着かれたことに戸惑った俺であるが、膨大な魔力がなければ本当に詰んでいた。

一度は諦めていたロスカが生きていて嬉し涙を流すのは当然だろう。

「なんとかなったのでもう大丈夫です」

「うう、ぐすっ……はい……」

俺はロスカが落ち着くまで頭を撫でてあやし続けた。