軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

取引き

依頼をこなして報酬を貰った俺は、猫の尻尾亭に戻ることにした。

冒険者ギルドの酒場では、夕食時なせいか多くの冒険者がわいわいと盛り上がって食事していたが、さすがに登録したてで知り合いのいない俺が行くにはレベルが高かった。

それに今は食事つきで宿をとっているからな。

しばらくは、宿で食事をしながらこの街に慣れるのがいいだろう。

そういうわけで、俺は大人しく拠点にしている猫の尻尾亭に戻ってきた。

猫の尻尾亭の一階では既に多くの客が入っており、賑やかな声と魔道具の暖かな光が漏れ出している。

人族の男性が多く座っており、獣人の可愛らしいウエイトレスたちが機敏にテーブルの間を縫うように動き回る。優雅に揺れる尻尾と耳が可愛らしい。

昼間は食堂の大きな宿屋ってイメージだったが、夜になるとこんなにも賑やかな酒場になるとは。

「にゃー! シュウ、お帰りだにゃー!」

昼と夜の変化に驚いていると、ウエイトレスをやっているミーアが出迎えてくれる。

これだけたくさんの客がいるので、フェルミ村のような親密なやり取りはしないように思っていたが、そうでもないようだ。

「ただいま」

「今日は冒険者登録をして依頼をしてくるって言ってたにゃ。成果はどうだったにゃ?」

「採取の依頼を三つ受けて無事に報酬を貰ってきましたよ」

「にゃー! ということは、今日はお金ががっぽりにゃね?」

クリッとした瞳を期待で輝かせるミーア。

「しまった! わざわざ俺を出迎えてくれたのは懐具合を確認するためか!」

「にゃはは、今日はいいお魚が入ってるのにゃ。青銅貨を少しだけ追加で出せば、食事が豪華になるにゃ?」

ぐぬぬ、やはり俺からお金を絞り出すためだったか。

「と言いたいところだけど、今日は冒険者になって依頼を無事にこにゃしたお祝いにサービスしてあげるにゃ!」

「おお、いいんですか?」

「その代わり、丁寧な言葉をやめるにゃ。にゃんだか、聞いているだけで気疲れするにゃ」

「あはは、わかった。じゃあ、これからはこんな感じでいくよ」

「じゃあ、席に案内するにゃ!」

俺が口調を崩すと、ミーアは満足したように笑ってカウンター席に案内してくれた。

「おう、お前さんがミーアの言っていた冒険者登録したっていう奴か」

エプロンをしていてもわかるほどの筋肉に鋭い眼光。視線をさらに上にやると、そこには丸みを帯びた可愛らしいクマ耳がある。

そうだよね。獣人は女性だけじゃないんだ。男性にだって耳や尻尾も生えているよね。

「……聞いているのか?」

「え、はい。シュウといいます!」

ミーアには敬語を使わない約束をしたが、この人にため口で話しかける度胸は俺にはなかった。

「そうか。俺はここの料理長のバンデルだ。今日はお前さんにとってめでたい日だ。これを食って明日からも頑張りやがれ」

そう言って、バンデルさんはテーブルの上に次々と料理を並べる。

鉄板の上でじゅわじゅわと音を立てているステーキ、彩鮮やかなサラダ。

そして、一番目を引くのは大皿に丸ごと乗っている大きな魚の蒸し焼きだ。

目が四つもあるし、額から大きな角が生えている。

「……これ、なんですか?」

「エグラッゾの蒸し焼きだ。美味いぞ」

呆然としながら尋ねると、バンデルさんはどこか得意そうに答えた。

めちゃくちゃデカくて怖いけど、ちゃんとした魚料理らしい。

これ一つだけでお腹がいっぱいになりそうな量だ。

とはいえ、ミーアとバンデルさんの厚意だ。それを跳ねのけるわけにはいかない。

早速、オススメ料理であるエグラッゾの身をほぐして食べる。

「あっ、美味しい!」

脂の乗った身は柔らかく口の中でとろけるよう。凶暴な見た目からは想像できない淡白な白身の味。

そして、この魚の味を支える出汁と香草のお陰で、臭みもなく、旨味をより引き立てていた。

「へへっ、誰が作ったと思ってやがる」

俺の反応を見て、得意そうに笑うバンデルさん。

エグラッゾと同じようにいかつい見た目をしているが、何という繊細な味を生み出す人なのだろう。こんな美味しいものがサービスで食べられるなんて本当に嬉しい。

エグラッゾの蒸し焼きを食べて、次は鉄板に乗せられているステーキをナイフで切り分けて食べる。

こちらも大きな肉であるが、歯を突き立ててみると思ったよりも柔らかい。

ジューシーな肉汁が染み出して、野生の肉の味が強く感じられる。甘辛いソースと絡まっていてガツンとくる料理だ。

にしても食べたことのない肉の味だ。豚肉と牛肉の中間くらいの味だ。

「このステーキはなんの肉ですか?」

「食べたことねえのか? オークの肉だぜ」

オークってあの豚の顔をした二足歩行の? ゲームなどでよく知っている魔物だが食べられるんだ。

オークの肉だと耳にしても、口に入れるステーキの味は変わらない。

うん、魔物だって動物だって美味しければいいんだよ。

繊細な料理だけじゃなく、こういうパワフルな料理も作ることができる。

バンデルさんの料理レパートリーは広そうだ。

これなら依頼で採ってきた素材でも、うまく料理してくれるかもしれないな。

「バンデルさん、依頼とかで採取した素材を渡したら、素材を使った料理をしてくれます?」

「……ほう、面白いじゃねえか。受けてやりたいが条件が二つある」

「聞きましょう」

「一つ目は、ちゃんとした品質を保った素材であることだ。この店で料理として出す以上、いいものじゃねえと使ってやれねえ」

「飲食業なので勿論です。品質の悪いものは自分用だとしても出しません」

俺の答えにバンデルさんはどこか感心したような顔をした。

他人に作ってもらうのだ。品質の悪い素材で料理をさせるわけにはいかないからな。

「二つ目は俺が欲しい食材が手に入ったら相場より少し安く卸してくれ。まあ、登録したてのお前にどこまでの腕があるかわからねえが、料理に使う食材も手に入れるのも難しいからな」

「わかりました。食材になる素材が欲しい時は声をかけてください」

「ああ、その時は頼む。ところで、採った素材で料理してほしいって言うことは、なにかいい素材が手に入ったのか?」

料理人として素材に気になるのか、バンデルさんが少し前かがみになって聞いてくる。

「はい、今日はアルキノコがたくさん採れたんですよ。後はクレッセンカの蜜も少し。どちらも食用として美味しく食べられますし、バンデルさんが料理に使ってくれればもっと美味しくなるかなーって」

「ちょっと見せてみろ」

採ってきた素材のことを述べると、バンデルさんが真剣な目つきで言ってくる。

どこかすごみの効いた顔にビビりながらも、俺はマジックバッグからアルキノコを二十個、クレッセンカの蜜が入った瓶を一つ置いた。

すると、バンデルさんは素材のひとつひとつを手に取って観察する。

「……ほお、ちゃんとすぐに締めているみたいだな。それにクレッセンカの蜜もえぐみが混ざっていない。どれも高品質だ」

「バンデルさんも鑑定スキルを持っているんですか?」

「バカ野郎。そんなものがなくても、ちゃんと目で見ればわかる」

なるほど、確かにそれもそうだ。俺も一目で見ただけで素材の質がわかるようにならないとな。

鑑定スキルがあるので問題はないが、素材を採取する者としてずっと頼りにしてはカッコ悪いし。

「よし、今度アルキノコを使った料理を振る舞ってやろう」

「おっ、ありがとうございます」

どうやら俺の素材はバンデルさんのお眼鏡に適ったようだ。

バンデルさんがアルキノコを十個ほど持っていったので、俺は残りの素材をマジックバッグに入れていく。しかし、その手をバンデルさんの大きな手が止めた。

「な、なんです?」

「待て。クレッセンカの蜜は売ってもらいたい」

やっぱり、クマだから蜜の類は好きだったりするのだろうか。頭の中で黄色いクマを思い浮かべながらそんなことを思った。