軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

期待の新人冒険者

「ニードルタートルの討伐依頼を受注しました。気をつけていってらっしゃいませ」

出発する冒険者を笑顔で見送ると、同僚のカティがやってきた。

「ねえ、さっきの新人くん面白かったね」

どこか面白がるような声音で言ってくるカティ。

カティはこういった面白い話や噂を聞きつけると、退屈しのぎによく話しかけてくる。

ギルドの受付嬢もずっと笑顔で接客をしないといけないので、こういう息抜きは必須だ。

今は依頼を受けにきてる冒険者もいないし。

さっきの新人というのは、私が登録を担当した冒険者のシュウという人間のことだろう。

「端から見たらそうかもしれないけど私は大変よ」

「新人なのにいきなりランク上の依頼を受けようとするし、三つも採取依頼を受けてたもんね」

しっかりとやり取りを聞いていたのだろう、カティが笑う。

ギルドのルールでは、冒険者は自分の与えられたランクよりも、一つ上のランクの依頼を受けることができる。というものがあるが、それはある程度依頼をこなした上で挑戦するものだ。

なんの実績もない上に、登録したばかりのFランク冒険者がするようなことではないし、ギルド職員としても見過ごせるものではなかった。

それに採取依頼というのは一見して、簡単そうに見えるがそうではない。

まず、広大な森の中から素材を見つけるのに時間がかかる。

素材を早く見つけるためには特徴をしっかりと把握して、その場所を優先的に回るものであるが、彼はアルキノコもクレッセンカも見たことがないという。

ミントの葉は知っていると言っていたが、知識もない中で三種類の素材を見つけることができるのかは疑問だ。

「わたくしはそれよりも、彼がプレートを壊した方が気になりますね」

新人の行動を振り返ってこめかみを抑えていると、同じ同僚のシュレディが会話に混ざってきた。

エルフ族の彼女は、あまりこういった雑談を好まないのか会話に入ってくることは少ない。

そんな彼女にとっても、シュウという冒険者がプレートを壊したという事実は興味深いものらしい。

「確かに! プレートが壊れるなんて見たことがないもんね」

「でも、あれはプレートに不備があっただけでは?」

魔力を取り込む性質のある魔晶石でできたプレートだ。魔力を注いで壊れるなんてあり得ないので、プレートになにか欠陥があったに違いない。

「わたくしも長く職員として勤めていますが、そのような欠陥があったことは見たことがないですね」

「ええ? 長くってどれく――何でもないです」

余計なことを聞こうとしたカティだが、シュレディにひんやりとした視線を向けられて口を閉ざした。

私も一瞬気にはなったけど、命が惜しいから聞かなかった。

「じゃあ、どうして壊れたのです?」

「……恐らく、注ぐ魔力に対してプレートが耐え切れなかったのではないかと……」

「魔力を注ぎすぎるとプレートが壊れることってあるの?」

「はい、過去に宮廷魔法使いが冒険者登録をする時に、そのようなことがありました」

宮廷魔法使いが冒険者登録をするなんて、ここ数十年くらいなかった気がする。

シュレディの勤務歴の長さが伺えるが、決してそこに突っ込んだりはしない。

カティは驚きの声を上げそうになっていたが、咄嗟に口を塞いでことなきを得ていた。

「魔力を注ぎすぎて壊れることがあるなんて初耳ですね」

「少なくとも魔晶石が吸収できる以上の魔力を持っていなければ不可能ですからね」

「じゃあ、あのシュウって人は宮廷魔法使い並の魔力があるってこと?」

「わたくしの推測が正しければそうなりますね」

宮廷魔法使い並の魔力量があれば、普通は王族や貴族のお抱え魔法使いとして雇われるはずだ。

そんな人がどうして冒険者ギルドに登録して、採取依頼を受けているのだろう。

「出身はフェルミ村って書いてるけど、あそこは何もない田舎だよね?」

シュウさんの登録用紙を引っ張り出して、カティが首を傾げる。

そんなところで、こんな魔力を持った人が育つものなのだろうか

「冒険者として登録しにきた以上、そこに踏み込むのはタブーです」

「そうですね」

冒険者の過去や出自を尋ねるのはタブーだ。本人から話さない限り、尋ねるものじゃない。

「にしても、ラビスも結構意地悪だよね。新人にクレッセンカの蜜の採取を勧めるなんて」

「クレッセンカの蜜は間違った方法で採取すると、えぐみが混ざって売り物にならなくなりますから」

「意図的に勧めたわけではないですよ。彼が全部受けると言ったんですから」

まあ、正しい採取の方法を教えるまではしなかったのは確かだし、依頼を失敗して痛い目を見る方が彼のためかなと思ったけど。

わざと困らせるように勧めたと思われるのは心外だ。

「まあ、なんにせよ無事に帰ってきてくださるといいですね」

シュレディの言う通り、無事に帰ってくれさえすれば失敗を糧に前に進める。

仕事だと割り切ってはいても、自分が担当した冒険者が亡くなってしまうのは悲しいから。

「あっ、ラビス! 新人冒険者君が帰ってきたよ!」

受付で書類仕事をしていると、カティが私の肩を叩いて言った。

顔を上げるとギルドの入り口から例の新人冒険者が入ってきた。

ひとまずは五体満足な様子を見て、私はホッとした。

でも、まだ時刻は昼を過ぎたところ。どう考えても、全部の素材を採取できたわけではないだろう。

私の忠告を聞かなかったことを少し叱らないとね。

それとなく視線を送ると、彼はふらりとカティの方に向かう。

普通は登録を担当した私のところにくるのが筋じゃないかしら? 別に今は混んでいるわけじゃないんだし。

「お帰りなさい、シュウさん」

にっこりと微笑みながらこちらに来るように圧をかけると、察してくれたのか苦笑いをしながらやってきた。

「ただいま戻りました、ラビスさん」

「思っていたよりもお早いお帰りですが依頼はどうでしたか?」

「全部、採取してきましたよ」

「え?」

想像していた反応とまったく違うことに私は戸惑う。

「ここに置いてもいいですか?」

「え、ええ、どうぞ」

私が促すと、彼はショルダーバッグからミントの葉、アルキノコ、クレッセンカの蜜が入った瓶を受付台に置いた。

ええ? 嘘? 本当に半日程度で三種類の素材を集めてきたっていうの?

驚愕しながら確認していくと、三種類の素材は紛れもなく正しい素材だとわかる。

だけど、まだよ。クレッセンカの蜜は品質が重要だから。

間違った方法で採取すれば、えぐみが出るために納品させるわけにはいかない。

「素材の品質を鑑定させて頂いてよろしいでしょうか?」

「ラビスさんも鑑定が使えるんですか?」

「はい、素材の品質を確かめるのもギルド職員の務めですから」

「構いません、お願いします」

冒険者からの許可も出たので、私はクレッセンカの蜜の品質を確かめるべく、鑑定スキルを発動させる。

すると、私の鑑定では高品質という表示がされた。

ということは、このクレッセンカの蜜は正しい方法で採取されたものだと言える。

素材の情報さえ知らなかったのに、正しい採取方法を知っていた?

採取に行く前に情報を集めたのだろうか? いや、でもそんなことをしていたら、こんなに早く帰ってこられるわけが……。

試しにミントの葉やアルキノコも鑑定してみると、そちらも高品質だという結果が出た。

ミントの葉はきちんとナイフで根元から切り、アルキノコは捕まえてすぐに締めてしまわないとこうはならない。

「えっと、品質はどうでしたか?」

「……どれも正しい方法で採取されており品質も高品質ですので、シュウさんの依頼は三つとも達成です」

「おお、それはよかったです」

にっこりとした余裕のある笑みを浮かべる新人冒険者のシュウさん。

謙虚な態度とは裏腹に素材の品質には自信があるように見える。

もしかしたら、この地にある素材を知らなかっただけで、他の土地で採取をこなしてきた採取専門家なのかも。私と同じ鑑定スキルを持っている可能性もある。

グランテルでは素材に対する豊富な知識を持った冒険者がかなり少ない。現状では討伐依頼ばかりがこなされて、採取依頼の消化率が悪い状態だ。

高品質の素材を、即座に納品することのできるシュウさんは、ギルドにとってありがたい存在になるかもしれない。

私が担当職員としてしっかり見守っていかないといけないわね。

「では、報酬をお支払いしますね」

私はシュウさんのこれからに期待の思いを抱きながら、報酬の準備をするのだった。