軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カルロイドへの報告

「シュウさん、もう帰ってしまわれるのですか?」

寝室で荷物を整えていると、フランリューレが声をかけてきた。

「すみません。カルロイド様に依頼のご報告をしなければいけませんから」

既にライラート家には休暇として二泊ほどお世話になっている。

これ以上の休暇は迷惑になるだろうし、依頼を持ってきてくれたカルロイドにきちんと報告をしなければいけない。

伯爵家に紹介した冒険者が粗相をしていないか、きちんと依頼が果たせたか、きっと気が気じゃないだろうしな。

「保護区の西には広大な畑が広がっており、そこには様々な稀少食材が栽培されております。さらに北西にいったところには広大な湖があり、外では滅多に見つけることのできない魚や絶滅危惧種として指定された生き物も飼育されています。行きたくありませんか?」

「行きたい! ――じゃなくて、もう帰らなくちゃダメなんです! そんな面白そうな提案をしないでくださいよ!」

「うふふ、ごめんなさい。シュウさんがあんまりにもあっさりとしていたので、つい意地悪をしてしまいました」

抗議すると、フランリューレがクスリと笑いながら言った。

この数日で随分と俺の性格を理解したようだ。このまま滞在していたら手の平の上で転がされそうで怖い。

「本当は俺だってもっと採取したいんですから」

「では、次に機会があれば、是非とも一緒に食材を採取しましょう」

「ええ、喜んで」

素材の採取なら大歓迎だ。

改めてフランリューレと約束を交わすと、俺は荷物を纏めて部屋を出た。

玄関から出ると、屋敷の外には高級馬車が停まっており、傍らにはアルトリウスがいた。

「やあ、シュウ殿。帰りの馬車を呼んでおいたよ。既にグランテルまでの料金は当家が支払っているから気にしなくていい」

「なにからなにまですみません。ありがとうございます」

高級馬車を貸し切りの上に料金はライラート家持ちときた。

アルトリウスの器のデカさに惚れてしまいそうだ。

荷物のすべてはマジックバッグに入っている。馬車に積み込む大きな荷物もないので、そのまま馬車に乗り込むだけだ。

御者に扉を開けてもらい、俺はほぼ手ぶらのままに車内に入る。

フカフカのソファーに腰をかけると、俺は別れの挨拶をするために窓から顔を出した。

「お世話になりました!」

「世話になったのはこちらの方だ。お陰で私は思う存分に美味しい食材を味わえ、フランは貴重な経験を積むことができたのだから」

「改めてお礼申し上げますわ、シュウさん」

アルトリウスが満足そうに頷き、フランリューレがちょこんとスカートの端を摘まみながら一礼をする。

「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をさせてもらいましたので」

俺とライラート家の関係は、まさにwinwinなものと言えるだろう。

できれば、これからも末永くお付き合いをお願いしたいものだ。

「これはカルロイドへの感謝の手紙だ。会った時に渡してくれ」

「確かに受け取りました。グランテルに着きましたら、すぐにカルロイド様にお渡しいたします」

手紙をマジックバッグに収納すると、アルトリウスが御者に視線を送った。

意図を察した御者が扉を閉め、御者席に戻ると鞭をしならせた。

二頭の馬がいななくと、ゆっくりと走り出して馬車が進む。

「またいつでもいらっしてくださいね!」

「はい! その時はまたよろしくお願いします!」

手を振りながら声を上げたフランリューレに手を振って答えた。

二人の姿がドンドンと小さくなっていき、やがて見えなくなる。

広大な庭園を抜け、植物の生い茂った敷地を潜り抜けると、敷地を囲う門の外へ。

滞在した時間は四日と短いものだったが、濃密な時間だった。

外の世界では見つけることのできない素材や、稀少な食材を見つけて採取するのはとても楽しかった。

俺によって美食保護区は楽園のような場所だ。

機会があったら必ずまた向かうことにしよう。

ライラート家の屋敷を出て六日後。

俺はグランテルに帰還する前に、カルロイドの屋敷へと立ち寄ることにした。

屋敷の前で馬車を停めると、すぐに執事のベルダンが迎えてくれた。

「依頼のご報告とアルトリウス様から受け取ったお手紙をカルロイド様に渡しに参りました」

「カルロイド様がお待ちです。すぐにご案内いたします」

宿泊している宿から帰路につく旨の手紙を送っていたお陰で、カルロイドの準備はバッチリのようだ。

馬車から降りるなり、すぐに屋敷へと通された。

ベルダンが応接室の扉を開けて、中に入るとソファーにカルロイドが腰かけていた。

「お帰り、シュウ殿」

「ただいま戻りました」

自分の屋敷ではないので、こういったやり取りが少しだけ気恥ずかしい。

カルロイドに勧められ、対面のソファーに腰掛けると、マジックバッグから手紙を取り出した。

「アルトリウス様からの手紙です」

「確かに受け取った」

ベルダンが手紙を受け取ると、ペーパーナイフで封を切り、カルロイドがこの場で目を通す。

色々と報告するべきことはあるが、まずは重要なことや結果を確認する方が早い。

「やはり、美食保護区で食材の採取を頼まれたようだね」

「はい。この辺りには自生していないものや、稀少種のものまで採取ができてとても楽しかったです」

「伯爵から採取の依頼を受けて楽しかったとは、シュウ殿らしい感想だ」

少し能天気過ぎただろうか。とはいえ、それが俺の正直な感想だ。

フランリューレの同行は重荷ではあったけど、依頼全体としては楽しいものだったのだから。

「うんうん。アルトリウス様も今回の結果に大変満足しておいでだ。これでしばらくは私も社交界で立ち回りやすくなる。本当に助かったよ、シュウ殿」

「いえ、カルロイド様のお力になれたのであれば幸いです」

どこか苦労のにじませる顔で手を握ってくるカルロイド。

貴族とはいっても色々と大変なようだ。

「本日もお土産を持ってきました」

変に聞いて泥沼に引っ張り込まれるのも嫌なので、別の話題へとすり替える。

「おお、美食保護区の食材だね! 是非見せてくれ!」

カルロイドの言葉に頷き、俺はマジックバッグから採取した食材を出していく。

それらのひとつひとつをベルダンが手に取って確認。

「天空魚、バイローンの肉、スパイシーの樹皮、爆裂コーン、魔木……どれも滅多に採取することができない稀少食材ばかりです!」

「保護区にはそういった食材がゴロゴロと転がっていたので、採取の手がまったく止まりませんでした」

「なるほど。シュウ殿にとってまさに楽園というわけだ」

食材の説明をしていく中、俺はふと気になっていたことを尋ねた。

「ところで、本日サラサ様は?」

手紙の返事には、サラサがお土産を期待しているような文章が添えられていた。

しかし、その本人であるサラサがいない。

「ああ、サラサは少し事情があって人前に出ることができなくてね」

「なにかご病気とかですか?」

俺がライラート家に行っている間に何か思い病気に? いや、手紙ではそんな雰囲気はまったく感じられなかったのだが。

カルロイドがそっと顔を寄せてきたので、耳を寄せてみる。

「妻の顔にニキビができてしまってな。恥ずかしいから人前に出たくないとのことだ」

なるほど。お土産を楽しみにしていたサラサが出てこないわけだ。

女性にとって顔のニキビは非常にデリケートな問題。万全ではない状態では顔を出したくないと思うのも無理もない。

「カルロイド様、そんなサラサ様に非常に役立つものがあります」

「なにかね?」

「クイーンアントの蜜です。これを塗布すれば、瞬時に肌の異常は治まることでしょう」

「それは妻が何度もおねだりしてきた食材! シュウ殿、よくぞ持ち帰ってくれた!」

クイーンアントの蜜の効果についてはカルロイドも知っていたようだ。

というか、それに目をつけていたサラサは流石だ。

アルトリウスも欲しがるくらい需要の高いものなので、滅多に手に入ることはなかったのだろう。

「ベルダン、それをサラサのところに持っていってやれ」

「かしこまりました」

ベルダンが一礼をし、応接室を出ていく。

しばらくすると、上の階から女性の歓喜の声が響いてきた。

クイーンアントの蜜、しっかりと貰っておいて良かった。