軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

メイン料理

天空魚を食べ終わると、次のお皿が差し出される。

「メインの肉料理、ガラルゴンのバロティーヌ野菜添えとなります」

蓋を開けると、野菜の上に丸いガラルゴンの肉が四つほど並び、躍動感が溢れるようにソースが散らされていた。

「説明を頼む」

「ガラルゴンの肉は非常に旨みが強いのですが、やや筋が硬く、念入りに下処理をし、内部からじっくりと蒸し上げることで旨みを逃さずに柔らかさを出しました」

アルトリウスが言うと、屈強な料理人はスラスラと解説をしてくれた。

あれだけ硬質な毛や羽に覆われており、筋肉も発達していた魔物だ。肉の方も一筋縄ではいかなかったのだろう。

「では、早速いただくとしよう」

説明をひとしきり耳にすると、待ち切れないとばかりにアルトリウスが手を動かし、俺とフランリューレも続くようにしてナイフとフォークを伸ばした。

モモ肉にナイフを入れると、スッと肉が断ち切られた。

内部からじんわりと肉汁が出てきて、中央にはキノコ、ニンジン、タマネギ、ミンチ肉などが詰められている。

食べやすい大きさにカットすると、そっと口に運んだ。

「柔らかくて美味しい!」

最初に感じたのは驚くほどの肉の柔らかさ。モモ肉とは思えないほどの柔らかさで、口の中でとろけていくようだ。

「低温でじっくりと蒸されたことによって、内部に肉の旨みが凝縮されていますわ!」

頬に手を当てながらフランリューレが感想を漏らす。

自分でやると蒸し料理というのは、ついパサついてしまいがちだが、さすがはライラート家の雇ったプロ。しっとりとしていながらジューシーという蒸し料理の理想を体現してくれていた。

「あっ、中に詰まっているミンチ肉はバイローンの肉ですね?」

「おっしゃる通りです」

詰まっている肉もガラルゴンの肉かと思ったが、ガラルゴンとは違った荒々しい野性味の強い肉は間違いなくバイローンのものだった。

「細かく砕かれていてもしっかりと味が主張されている! なにより食べているだけで力が漲ってくる!」

不敵な笑みを浮かべながらバロティーヌを口にするアルトリウス。

整髪料で整えているはずの髪の毛が逆立っている。

今すぐに外に出て、食材でもハンティングしてきそうな雰囲気だ。

体質によってバイローンの肉の効果が効きやすい人がいるのかもしれないな。

グランテルに帰ったら、ルミアに頼んでそういうのを調べてもらうのも面白そうだ。

「この柔らかさ、あふれ出る肉汁……ッ! 今まで食べてきた鶏料理の中でもっとも旨みが強い」

「わたくしもそう思います」

美食家のアルトリウスとフランリューレが言うなら間違いないだろう。少なくとも、鶏料理の中では、かなり上位に含まれる食材に違いない。

「次にシュウ殿に採取依頼を頼む時は、ガラルゴンもお願いしよう」

「その時はわたくしは同行を控えますが、いい考えだと思いますお父様」

「さすがにそれは勘弁してください」

とんでもないことを言う親子にすかさず突っ込んだ。

シレッと、その時ばかりは同行を避けようとするフランリューレもズルいと思う。

なんて本気なのか冗談なのかいまいち区別がつかない会話をしていると、あっという間にメインの肉料理がなくなった。

「さて、最後はデザートだな」

食器か片付けられ、最後に差し出されたのは巨大樹の実。本日の真のメイン食材だ。

小さな器には薄黄色に輝く巨大樹の実がカットされ、飾り立てるように並んでいた。

「巨大樹の実です。色々と調理法を模索しましたが、やはりこの食材は生でいただくのが一番かと。時間が経過するにつれて温度が変わり、味も変化いたします。ごゆっくりお召し上がりください」

料理人が手を加えないことが最上。

色々と模索した上で、そこにたどり着いたのだから間違いないのだろう。

「……十年ぶりの再会だ」

巨大樹の実を前にしてアルトリウスが感慨深そうな声音を漏らす。

十年にたった一度しか収穫できない。恐らく三十半ばであるアルトリウスでも、二回か三回しか口にしたことがないのだろう。

「フランリューレさんは過去に食べたことがありますか?」

「はい。わたくしが五才の頃に一度……しかし、あの時は幼かったので、お恥ずかしながらただ漠然と美味しいものを食べたというくらいの記憶しかございませんの」

どこか恥ずかしそうに笑うフランリューレ。

「では、今回はしっかりと味わって記憶に残さないといけませんね」

「はい。シュウさんもこの美味しさをしっかりと刻んでくださいませ!」

プルリと震える巨大樹の実をゆっくりと口へ運ぶ。

歯を突き立てた瞬間、薄皮がプチンと弾け、果汁の大洪水が起こった。

リンゴ、マンゴー、ブドウ、イチゴ様々な果物の味が一気に押し寄せてくる。それらのひとつひとつがとても高濃度で、通常の果物とは比べものにならないほどの糖度。

一口食べただけで身体中の細胞が喜ぶのを感じる。

人は本当に美味しいものを食べると、一切言葉を発しなくなるらしい。

巨大樹の実を食べた誰もが、その美味しさに感動していた。

「……アルトリウス様、フランリューレ様、顔がとんでもないことになってますよ」

「そうおっしゃるシュウさんもですわ」

「ええ、俺もですか!? あ、本当だ!」

フランリューレに言われ、マジックバッグから手鏡を出してみると、写し出された自分の顔はどうしようもないほどに緩んでいた。

表情を正そうとするが、またすぐに緩んでしまう。どうやら当分戻ることはないようなので諦めた。これだけ美味しいデザートを食べているんだ。仕方がない。

気を取り直して巨大樹の実を食べると、口の中でモモ、バナナ、ナシ、スイカと味が変化した。

「すごい! 味が変わった!」

「一体、どれだけ味が変化するんでしょう」

しかも、そのどれもが極上の味ときている。

巨大な根から吸い上げた栄養が一点に凝縮され、十年に一度しか採取できないというのも納得の味わいだった。

巨大樹の実を食べ終わると、ゆっくりと食器を置いた。

食後の余韻に浸っているのか誰もが声を発しない。

しばらくして、ようやくアルトリウスが声を発した。

「美味しかったな」

「ええ、想像以上の味わいでした」

味はもちろんのこと、十年に一度しか採取できないものを採取し、味わえたということが俺にとっては一番の満足感かもしれない。

「フランはどうだったかね?」

「もちろん、美味しかったです。もう、この味を一生忘れることはないと思えるほどに」

「それは良かった」

前回の食べた時の記憶はほとんどなかったが、今回でしっかりと心に刻み込むことができたようだ。

「素敵なお食事をありがとうございました」

「いや、これらの食材はシュウ殿がいなければ手にすることができなかったものばかり。礼を言うのはこちらの方だ。改めてありがとう」

食事のお礼を告げると、アルトリウスとフランリューレが頭を下げた。

「頭をお上げください。冒険者として当然のことをしたまでですから」

「これだけ稀少な素材の採取と、ガラルゴンの討伐が当然の仕事となれば、世の中の冒険者たちはとんでもないことになってしまいますわ」

などと謙遜すると、フランリューレがクスリと笑いながら言った。

確かに言われた通り、当然の仕事の範疇を越えているか。

「シュウ殿には依頼の品よりも多くの稀少食材を採取してもらった。対価として報酬を上乗せするだけではいささか弱いな」

「ええ、まったくですわ。なにか当家でお力になれることがあるといいのですが……」

アルトリウスの言葉にフランリューレが同意するように頷いた。

先の取り引きだけで、慎ましく暮らせば一生遊んで暮らせるんじゃないかってくらいにお金を貰ったんだけど、それでもまだ弱いんだ。

お金持ちの価値観がわからない。なんだか放っておくと、とんでもないことを言い出されそうなのでこちらからお願いしてみることにしよう。

「では、図々しくも一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」

「構わん。遠慮なく言ってくれ」

「今後も美食保護区で採取をする権利をいただきたいです。もちろん、採取した素材はきちんと報告し、アルトリウス様が望めば優先的にお売りいたしますので」

「そんなことでいいのかね?」

「それがいいんです!」

俺としては、一般人では入ることができない場所で好き放題採取させてもらったので、むしろお金を払いたいくらいだった。

変にお金を積まれたり、便宜を図ってもらうよりも、今後も美食保護区に入って素材採取をさせてもらえる方が何万倍も嬉しい。それが俺にとっての大きな報酬だ。

「お父さま、シュウさんはこういう方なんですよ」

「本当に素材採取が好きなのだな。問題ない。保護区内への立ち入り、採取は当家も望むことだ。今度も是非食材の採取を頼みたい」

「はい! こちらこそ今後ともよろしくお願いします」

アルトリウスの差し出してきた手を、俺は笑顔で握った。

よっしゃ! これで今後とも美食保護区に入ることができる! 美味しい食材が欲しくなったり、珍しい素材を存分に採取したくなったら遠慮なく入らせてもらおう。