作品タイトル不明
ゴムの蔦
ソルジャーアントの群れを撃退した俺たちは、巨大樹の頂上を目指して快調に進んでいた。
「すごい! 身体が軽いや!」
「クイーンアントの蜜のお陰ですわね!」
快調に進めている理由は百メートルを越えた辺りから、蔓が斜めに伸びて傾斜ができるようになり、普通に歩いて登ることができるという理由もある。
しかし、それ以上に身体に堪っていた疲労が取り除かれたのが大きかった。
身体がやけに軽くなり、すいすいと足が進んでいく。
気力も体力もまだまだ問題ないと思っていたが、自分たちが思っていた以上に身体は疲れていたようだ。
クイーンアントの蜜を採取して、すぐに食べておいてよかった。
現在は地上からおよそ三百メートルといったところか。ようやく中盤に差しかかかる頃合いで、本来なら疲労が強く出てくる頃だったが、蜜の疲労回復効果のお陰で進行は絶好調だった。
調査スキルを使って、頂上への最適なルートを導き出し、魔物との不要な戦闘を避けながらサクサクと進んでいく。
「おっ、素材だ」
鑑定しながら進んでいると、素材の光が見えた。
それは何気なく蔓からぶら下がっている蔦だった。
【ゴムの蔦】
巨大樹に自生しているゴム製の蔦。
加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の状態に戻る。ゴム弾性を備えている。
緩衝材として非常に優秀だが、耐熱性には滅法弱い。
「えっ、すごい! ゴムだ!」
「これが素材なのですか?」
驚きながら眺めていると、フランリューレが寄ってくる。
どうやら彼女の知らない素材だったらしい。
「ええ、ゴムの蔦と言って、加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の状態に戻るようです」
「よくわかりませんが、なんだかブヨブヨしていますわね」
首を傾げながらフランリューレがゴムの蔦を触る。
ゴム弾性と言えば現代人は理解できるが、この世界ではゴムの存在が一般的ではないのでピンとこないようだ。
他人の素材の説明をするのって難しい。
にしても、ゴム製の素材か……パッと思いつくだけで、ゴムベルトやホースが作れたりと色々と活用方法がありそうだ。
ルミアやサフィーに預けたら加工して便利な物を作り出してくれるかもしれない。
俺としては馬車の車輪に取り付けて揺れを軽減してほしいところだ。
この世界は道が整備されているところも少なくて、かなり揺れるのでお尻に響くのだ。
あと、男としはパンツにゴムが入ってくれると心強い。
今は紐のようなものが入っているだけで、少し心許ない感じがするからね。
そういった意味でも大いに期待できる素材だ。
ゴムの蔦を引っ張ってみると、実に弾力があって伸びるな。
試しに手を離してみると、バチンッと音を立てて元の位置に戻った。
「……当たったら痛そうだな」
これだけ分厚い蔦がゴム弾性を備えているのだ。伸縮や元に戻ろうとする力は半端ないだろうな。
輪ゴムのようなノリで他人にバチンッとやるのは絶対にやめておこう。
「少し採取してもいいですか?」
「構いませんわ」
フランリューレに許可を貰って、ゴムの蔦が生えている根元から採取用ナイフで切って採取する。
二メートルくらいの長さがある。このまま振り回したら鞭として使えそうなくらいだ。
ゴム製品の加工のために気持ち多めに採取だ。
「シュウさん、わたくしは少しあちらの葉っぱで一休みいたしますわ」
「あっ、すみません」
手伝ってくれていたフランリューレだが、さすがに俺ほど熱意は燃やせないのか休憩をしに葉っぱに移動。
その際、俺は違和感を抱いた。
蔦に夢中になって調べていなかったが、調査スキルを使った時にあの葉っぱもシルエットとして表示されていた。
付近にはゴム弾性を備えた蔦がある以上、あの葉っぱもゴム弾性を備えているのでは?
【ゴムの葉】
巨大樹に自生しているゴム製の葉っぱ。
加えた力の方向に大きく伸縮し、力を除くと元の状態に戻る。ゴム弾性を備えている。
葉っぱの上に乗ると、トランポリンのように高く跳ねることができる。
もしやと思って鑑定をしてみると、やっぱりそうだった。
「フランリューレさん! その葉っぱに乗っちゃダメです!」
「えっ?」
警告の声を上げるが遅かったようで、フランリューレはちょうどゴムの葉に足を乗せてしまった。
フランリューレの体重が葉っぱを伝って、下にググっと沈んでいく。
そして、元の位置に戻ろうとする力が強く発揮され、葉っぱの上に乗っていたフランリューレが高く跳ばされた。
「きゃああああああああああああああああああっ!」
地上三百メートル超で命綱無しの大跳躍。
これで悲鳴を上げない人間は恐らくいないだろう。
下から見上げる俺の位置からは、スカートの中身が丸見えだがそんなことを気にしている場合ではない。
フランリューレは十メートルほど跳躍すると、そのまま真っすぐに落下してくる。
ただ混乱しているフランリューレが正確に葉っぱの上に着地できる可能性は低いだろうし、仮にできたとしても落下エネルギーを乗せてさらに跳躍する羽目になる。
そうなってしまっては助けるのがさらに難しくなる。介入するなら今しかない。
「フランリューレさん、ジッとしていてください! ウインド」
フランリューレに声をかけながら俺は風魔法を発動。
気流を操作して、彼女の落下地点を正確にゴムの葉の上に誘導。
そして、彼女が再び葉っぱに落ちてくるのに合わせて、俺もゴムの葉の上に乗ることにした。
ゴムの葉が大きく沈み込む。
「シュウさんも一緒に乗ってどうするんですの!?」
「このまま一緒に高くまで跳びます!」
「ええっ!? つまり、今よりもさらに――」
フランリューレが言葉を告げるよりも早く、ゴムの葉に着地。
落下エネルギーも相まって、とてつもない勢いで俺たちの身体が跳ね上げられた。
「ひええええええええええっ!」
「すみません、少し失礼します」
涙目になっているフランリューレの身体を抱き寄せ、身体を安定させる。
蔓の物凄い勢いで下に流れていく中、ゴムの葉で検索して調査スキルを発動。
すると、跳躍した先でさらにゴムの葉があるのを発見。
今度はそこに着地して、さらにまた跳躍。
「うん、やっぱりこれを使えばかなり速く登れるな」
見上げるとゴムの葉はまだまだ続いている。
こうやってゴムの葉を使って跳躍を繰り返せば、ドンドンと登っていくことができるな。
そうやって三つ目、四つ目と跳躍を繰り返していくと、六百五十メートル付近でゴムの葉が少なくなってきた。
多分、この辺りから植生が変わったゴムの蔦や葉っぱがなくなってくるのだろう。
これ以上の跳躍は無理だと判断。
「フランリューレさん、ゴムの葉がなくなるので着地します」
風魔法を下に放つことで落下の衝撃を和らげ、近くにある大きな葉っぱに着地した。
「すみません。フランリューレさん。大丈夫でしたか?」
「…………」
「フランリューレさん?」
フランリューレに声をかけてみるが、まったく反応がない。
思わず顔を覗き込んでみると、フランリューレはぐったりとしており目を回していた。
どうやら跳躍中に気絶していたようだ。
「……やっちゃった」