軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソルジャーアント

「もう大丈夫ですわ」

「わかりました。行きましょう」

小休止が終わると、俺たちはまたすぐに蔓を登ることにした。

巨大樹の蔓は上に登っていくごとに蔓の幅が大きくなり、無数に枝分かれしていく。

登っていくごとに葉っぱや足場が増えていくので、その点については有難い。

「ッ! フランリューレさん! 上からたくさんの蟻みたいなのが近づいてきています!」

百メートルほどの地点に到達すると、上の蔓からたくさんの蟻が這い寄ってきているのが見えた。

「ソルジャーアントですわ! ひとまず、足場の広いところまで避難して、そこで戦闘を――」

「ウインド!」

灰色の大きな蟻が見えた瞬間、俺は風魔法で突風を起こした。

すると、上から蔓を伝って迫ってきていたソルジャーアントが一斉に吹っ飛んで地上に落下していく。

「あっ、すみません! 先に迎撃しちゃいました!」

「いえ、さすがですわ!」

軽く数百を超えるソルジャーアントの数にビビりはしたが、足場が悪いのは相手も同じだ。

ここは地上百メートル。

強靭な肉体を誇る魔物だろうが、ここから落下して地面に叩きつけられればタダじゃ済まない。

迫りくるソルジャーアントが俺とフランリューレの風魔法で次々と吹き飛んでいく。

しかし、中には風魔法を堪えて留まる個体もいる。

恐らく、ソルジャーアントの脚には不安定な場所でもしっかりと歩行できるスパイクのようなものがあるのだろう。

そういう個体にはダメ押しで強風を浴びせて無理矢理吹き飛ばすか、適当な魔法を撃ち込んでやればいい。

突風を堪えるために静止している状態では、俺たち魔法使いの的でしかなかった。

そうやってソルジャーアントを蹴散らしていると、奥の方にいた触覚が長く、やけに細長い個体がいるのが見えた。

【クイーンアント 危険度D】

ソルジャーアントたちの産みの親であり、統率者。

繁殖や統率に優れているが、戦闘力はあまり高くない。

尻尾に蜜をため込んでおり、とても濃厚。

鑑定してみると、どうやらあのクイーンアントという個体が群れを統率していることがわかった。

となると、あいつを倒すとソルジャーアントの群れが瓦解する可能性が高い。

「奥に統率者であるクイーンアントがいるので仕留めます!」

「わかりました!」

「アイスピラー」

フランリューレに声をかけると、氷魔法を発動。

俺が氷柱を生成して射出すると、クイーンアントが狙われていることを察知したのかソルジャーアントを呼び寄せて肉壁にさせようとする。

この速度では防がれるか。

「ウインド!」

と思ったところで、フランリューレによる突風。

射出された氷柱は風魔法の勢いに乗って加速。

ソルジャーアントたちが完全な肉壁を築き上げる前に突破し、奥にいるクイーンアントの眉間を貫いた。緑色の体液をまき散らし、ぐったりと倒れる。

すると、ソルジャーアントたちが途端にオロオロとし始めた。

産みの親であり、統率者を失ったことでどうするべきか迷っているようだ。

その隙を俺とフランリューレは逃さずに攻撃。

俺たちの勢いに押されて、ついに一匹のソルジャーアントが背を向けた。

一匹が撤退を始めると、二匹、三匹と続いて撤退していき、群れ全体が散らばって逃げていった。

鑑定で出た情報通り、クイーンアントを失うと群れが瓦解するようだ。

「風魔法、助かりました。フランリューレさんって、最小の魔力で最高の結果を出しているのでプロの魔法使いっぽくて憧れます」

俺のような魔力によるゴリ押しではなく、最小の魔法で結果を出しているのがすごい。

それに自分だけが殲滅するのではなく、状況を見極めて仲間が戦いやすいように援護をしている。

あんな風に他人の魔法に合わせて、瞬時に自分にできる魔法を発動させるなんて並大抵の人ではできることではない。

「さ、さすがにそれは褒め過ぎですわ。でも、ありがとうございます」

などと素直に賞賛の言葉を述べると、フランリューレが頬や耳を真っ赤にしながら髪をいじり始めた。

どうやらかなり照れているらしい。

言動こそ大人っぽいが、こういった可愛らしい一面もあるようだ。

ソルジャーアントたちがいなくなると、周囲にはソルジャーアントの遺骸とクイーンアントの遺骸が残った。

「素材を回収しましょうか」

「ですわね!」

ソルジャーアントは甲殻や牙、刺などが武具に加工できるようなので、丸ごとマジックバッグに回収しておく。

「フランリューレさんは回収しないのですか?」

「そろそろマジックバッグの容量が少なくなってきましたので、ソルジャーアントの素材は諦めようかと」

「それなら俺のマジックバッグで保管しておきましょうか? 屋敷に戻った時にお渡しいたしますよ」

「助かりますわ! 後で保管代をお支払いいたします!」

別にタダでもいいのだが、こういった細かなところをなあなあで済ませないのがフランリューレだ。

ここは素直に頷いて、フランリューレの分のソルジャーアントも収納することにした。

ソルジャーアントの回収が終わると、残ったのはクイーンアントだ。

ソルジャーアントの甲殻が灰色なのに対して、クイーンアントの甲殻は紫がかっている。

鉱石や宝石とも違った輝きを放っていて、とても綺麗だ。

【クイーンアントの甲殻】

クイーンアントの体表を薄く覆っている甲殻。ソルジャーアントの甲殻に比べると、薄い上にとても柔らかい。

武具などの加工には向かないが、装飾品としての価値がある。

鑑定も武具への加工には向かないと言っており、素材としての等級も青と低い。

だけど、そんな市場価値とは違った美しさが、この甲殻にある気がした。

「クイーンアントの甲殻は素材としての価値は低いですが、これも採取家として採取なさるのですね?」

「ええ、持っていませんでしたし、単純に綺麗だなって思ったので」

それにこういった綺麗な素材は、お土産としてロスカに渡すと喜ぶからね。

またアクセサリーとか作ってみたいし、一緒に露店をやるのも悪くない。

クイーンアントの甲殻を回収すると、最後に残ったのは膨らんだ尻尾の先にある黄色い蜜だ。

【クイーンアントの蜜袋】

巨大樹に自生している草花からクイーンアントが採取した蜜の詰まった袋。

自信の蓄え込んだ豊富な栄養も合わさり、凝縮された濃厚な蜜となっている。

ひとさじ食べるだけで、疲労回復に効果がある。

シャンプーに混ぜると、しっとりと潤いのある髪に。

塗布すると、ニキビや吹き出物などの肌トラブルを即座に改善してくれる。

「……これは味以外にも疲労回復と効果があるみたいですね」

「はい! それ以外にもヘアケアやスキンケアにも効果が絶大で重宝しますわ!」

当然、蜜の美容効果についてもフランリューレは把握しているようだ。

蜜を眺める瞳には、ひと際強い熱が入っているように見えた。

これまたラビスやサラサが喜びそうな素材だな。

「とりあえず、採取しちゃいますか」

「はい!」

フランリューレと一緒に煮沸消毒している採取瓶を取り出して並べる。

ぶよぶよとしている蜜袋を取り外すと、千切れた部分から蜜があふれ出る。

そこにすかさずフランリューレが瓶を構えてくれたので、俺は蜜袋を抱えたままジーッとしておく。

瓶がいっぱいになったら、また次の瓶へ。ひたすらにそれを繰り返す。

五十本ほどの瓶が満タンになったところで、蜜袋は空になった。

周囲には綺麗な黄色の蜜が詰まった瓶が並んでいる。

こうして見ているだけで綺麗だ。

「これで蜜の採取は完了ですわ!」

「せっかくですので少し味見しましょうか」

「賛成ですわ!」

疲労回復にも効果があるので、ここらで食べて英気を養う方がいいだろう。

瓶を一つだけ残して、残りはマジックバッグに収納。

蜜の味をそのまま味わうために、他の食材と合わせることなくそのままスプーンでいただくことにする。

ねっとりとした黄色の液体がスプーンの上に満たされる。

まるでトパーズをそのまま砕いて、液体に加工したかのようなキラキラ感がある。

それにとても香り高い。

目と鼻で一通り楽しむと、ゆっくりと匙を口に運んだ。

「美味しい!」

上品で癖のない風味をしており、あと味も非常にスッキリとしている。

喉が焼けるようなくどい甘さはなく、しっとりと胃の中に流れていくようだ。

「このとろけるような甘さ! 疲れが吹き飛ぶようですわ~」

これにはフランリューレも頬を緩ませている。

彼女言う通り、甘未が取り入れられたことによって身体が喜んでいるような気がした。

色々な草花から採取された蜜だと言われているが、雑味のようなものは一切感じられない。

「……うう、もっと食べたいですが、これ以上は糖分の過剰摂取になりますわね」

「朝、昼、晩に大さじ三杯くらいがちょうどいいみたいですね」

追加で鑑定して情報を引き出してみると、それぐらいが一日の摂取目安だと出た。

それ以上は逆に糖分の過剰摂取になってしまうそうだ。

「なら、あとひと口はいけますわ!」

既に二杯分食べているフランリューレは、残りの一杯を味わっていた。

実に幸せそうな彼女の表情に釣られ、俺も残りの二杯を噛みしめるように味わうことにした。