軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルトリウスの依頼

「ところで、シュウ殿は素材の採取を専門にしていると聞いた。採取生活を送っていて面白い、あるいは美味しいと思える食材はあったかね?」

どこかゆっくりとした時間の流れる食後のティータイム。

紅茶を飲んでいると、アルトリウスが尋ねてきた。

珍しい食材を集めているだけあって、冒険者である俺が出会ってきた食材が気になるのだろう。

尋ねられた俺は少しの間考える。この世界にやってきてたくさんの可食素材を採取してきた。

しかし、これだけの食材をアルトリウスに語るとなると中々に難しい。

「そうですね。最近ですとテラフィオス湿地帯に行ってきたので、沼草や沼蓮根という食材が美味しかったですね」

「あの辺りは過酷で食べられるものが少ないが、土地自体は肥沃で食べられる食材はかなり美味しいからな。わかるぞ」

ジャブとして沼地の食材を挙げてみたが、アルトリウスも勿論食べたことがあるようだ。

やはりこの程度の食材では、美食家のアルトリウスを驚かせることはできないか。

ならば、こっちの話はどうだろう。

「後は沼地で遭遇したゲイノースという魔物の肉が美味しかったですね」

「げ、ゲイノースだと!? あの百年に一度しか市場に流れないという、伝説の魔物の肉か!?」

ゲイノースについてはアルトリウスも食べたことがないのだろう。

目を大きく見開いて前のめりになっていた。

「学園の資料で確認したことがありましたけど、確か危険度AAの化け物ですわよね」

「はい、仲間がいなければ討伐するのに苦労したかもしれません」

「普通は仲間がいても苦労どころじゃないんですが……」

フランリューレからやや呆れたような視線が向けられる。

俺だって好きで出会ったわけじゃないので勘弁してもらいたい。

何故か向こうからやってくるんだ。

「それでゲイノースの味はどんなものだったのだ!?」

「見た目は大きな蛇なのですが、蛇のように小さな骨はなく非常に食べやすかったです。鶏の胸肉のようにあっさりとしていて、食べると活力が湧いてくるような感じでした」

「お、おお……! その時はどのようにして食べたのだ!?」

などと語ると、アルトリウスはさらにお代わり。

「沼地の食材と一緒に煮込んで鍋にしました。ゲイノースの肉からいい感じに出汁が出て、あっさりとしつつ旨みのある鶏ガラスープのような味でしたね」

「ほうほう、それで?」

いや、味についてはもうこれ以上語るなんてできないんだけど!?

俺は食レポが得意なわけでも、料理評論家なわけではない。

これ以上語るのは難しいぞ。しかし、身を乗り出さんとするアルトリウスはもっと情報を寄越せと言わんばかりの表情。

口で味わえない代わり、耳で味わおうとしているのだろうか。

「えっと、乾燥肉であれば持っているので食べてみますか?」

「いいのか!?」

「はい、口で聞くよりも食べた方が早いでしょうし。あ、でも、アルトリウス様に干し肉なんて失礼ですかね」

「そんなことはない! 是非、食べさせてくれ!」

「は、はい」

咄嗟に思い留まったが、アルトリウスが派手にテーブルを打ち鳴らした。

どうやらかなり食べたいらしい。

俺はマジックバッグからゲイノースの干し肉を取り出す。

執事の方が丁寧にお皿を出してくれたので、そこに二枚ほど盛り付けた。

「お、おお! これがゲイノースの干し肉!」

ゲイノースの干し肉を持ち上げて、嬉しそうにするアルトリウス。

まるで宝石でも手に入れたかのような大袈裟な喜びようだ。

食を何よりも愛する彼にとって、未知の食材とはまさに金銀財宝のようなものなのかもしれないな。

「よろしければフランリューレ様もいかがですか?」

「いただきますわ」

大はしゃぎするアルトリウスをよそに、フランリューレにも差し出した。

フランリューレはまじまじと干し肉を眺めると、小さな口を開けて食べる。

「確かに鶏肉のようですけど、臭みはまったくないですわね。旨みが凝縮されて、不思議と力が湧くようですわ」

ゲイノースの肉は乾燥させると旨味が増す。

余った肉で干し肉を作ってみた時にわかった事実だった。

食べると活力が湧き、非常に満足感の高い味わいなので非常食として重宝している。

「……これが百年に一度しか出回らないと言われるゲイノースの味か……美味い」

驚くフランリューレとは反対に静かに味わっているのがアルトリウス。

先程のテンションの昂ぶりが一気に落ち着いている。

食に関することならテンションの起伏が激しくなるようだ。

「シュウ殿、実に素晴らしい食材をありがとう」

「いえ、美味しい料理を振舞って頂きましたから」

結果として討伐した魔物の素材だが、それで喜んでもらえるのであれば俺も嬉しかった。

「さて、今回シュウ殿を屋敷に招待した目的は最初に告げた通りだが、実は一つ頼みたいことがあってな」

「私にできることかはわかりませんが、お聞きしましょう」

俺がそう返事すると、アルトリウスは頷いた。

「シュウ殿も知っているかもしれないが、私の領地のある場所では世界中から集めた食材を育てている」

「美食保護区と呼ばれる場所ですね。珍しい可食植物だけでなく、動物や魔物に至るまで管理して育てていると聞きました」

「その通りだ。しかし、私の持っている保護区はできるだけ自然に近い環境で維持しており、その生態系はハッキリ言って全てを管理しきれてはいない。そこでは動物や魔物も独自の進化を遂げており、危険度の高い魔物も出現している。そこでヴォルケノスの卵を持ち帰れる腕を持ったシュウ殿に、保護区での食材の採取を依頼したい」

きた! カルロイドの予想が当たった!

この場で即決したい衝動に駆られるが、気になる部分があるので呑み込む。

「報酬はどのような形になるのでしょう?」

「最低金貨二百枚を保証し、そこから採取してきた食材の値段を上乗せしていく形でどうだ?」

金貨二百枚!? どう考えても報酬が高すぎだ。

さらにそこから採取した素材を上乗せって、いくらなんでも話が良すぎないか?

「不満かな?」

「すみません。あまりにも報酬が高いことに驚きまして……」

「それだけ保護区が危険ということもあるが、頼みたいのは素材の採取だけではないんだ」

「採取以外とは……?」

「娘を同行させてほしい」

「フランリューレ様をですか?」

驚く俺とは正反対にフランリューレは落ち着いており、にっこりと笑みを浮かべていた。

彼女の態度から突発的な頼みではなく、計画しての依頼だとわかった。

「わたくし、将来はお父様の保護区の管理をしたいと思っていますの。魔法学園に通っているのも魔法で食材の育成や管理に役立てるためです。しかし、今のわたくしの実力では一人で保護区に入るには些か実力不足でして、シュウ様に同行させていただきたいのです」

胸に手を当てながらしっかりとこちらを見据えるフランリューレ。

すごいな。もう自分のやりたいことを決めており、そのための努力をしているのか。

フランリューレの真摯な態度から、遊びや道楽ではないというのがすぐにわかった。

なるほど。道理でやたらと報酬が高いわけだ。

基本報酬の金貨二百枚にはフランリューレの安全も含まれているわけか。

なんだか一気に依頼の難易度が上がったような気がする。

……どうしよう。報酬金額を下げてもいいので、フランリューレの同行を拒否できないだろうか。

「シュウ殿は、レディオ火山でフランリューレをはじめとする学友を連れて、無事に卵を採取できたと聞いた。フランリューレ一人同行させるくらい問題ないだろう?」

などと交渉しようとしたが、それを制するようにアルトリウスが先に口を開いた。

その穏やかな笑みの奥にある感情はまるで読み取れない。さすがは腹の探り合いに慣れている高位貴族と言えるだろう。

フランリューレを危険な目に遭わせてしまった身として、そう言われたら断れない。

あれ? これって詰んでるんじゃないか。どう考えても断れる理由が思いつかなかった。

「わ、わかりました。フランリューレ様をしっかりとお守りします」

「まあ、頼もしいですわ」

「うむ、シュウ殿がいれば問題ないだろう」

苦笑しながら了承すると、フランリューレは嬉しそうに微笑み、アルトリウスは満足げに頷いた。

「採取した素材についてですが、どのような値段で買い取っていただけるのでしょう?」

小難しいことを考えても胃が痛くなるだけなので、素材のことを考えることにする。

「基本的に市場価格で買い取る。市場に出回っていないものは当家でリスト化しておおよその金額をつけている。その辺りはフランリューレに尋ねてくれ」

「わかりました」

「できれば、採取する食材は同じものばかりではなく、たくさんの種類のものを採取してきてほしい」

「当然ですね」

俺もできればたくさんの素材と触れ合いたいので、アルトリウスの注文には納得だった。

お金に関してはそこまで困っていないからな。

「保護区には数多の動物や魔物も棲息している。有害なものは討伐しても構わないが、そうでない個体の討伐は控えて欲しい。勿論、命に関わった際の自衛は許そう。二人の命の安全が優先だ」

保護区には当然、食材となり得る動物や魔物もいる。

それらを無暗に討伐されては困るということだろう。

「気絶させる程度や動けなくなる程度の攻撃は認められますか?」

「その程度であれば問題ない」

それならば、氷魔法で足を凍らせて逃げることができるだろう。

サフィーに貰ったスタンニードルを使い、麻痺させて行動を不能にさせることもできる。

危険度の高い魔物がいるってこと自体考えたくないが、これについては前もって考えてもどうしようもない。出会ったらその時に考えよう。

「最後に保護区で採取してきてほしい食材を伝える」

アルトリウスが視線を送ると、執事がサッと動いて俺の傍にやってくる。

差し出された紙を開くとは、そこには五つの食材が書かれていた。

【爆裂コーン】

【シュワシュワ水】

【バイローンの肉】

【天空魚】

【ジャイアントプラントの樹液】

「……どれも聞いたことのない食材ですね」

「ああ、この辺りでは存在しない食材だ。採取するのが難しいものもあるが、この五つだけは絶対に採取してきてほしい」

「かしこまりました。この採取依頼、引き受けましょう」

しっかりと頷くと、アルトリウスはなぜかこちらを見て笑った。

「あの、どうかされましたか?」

「いや、カルロイドの言っていた通りの人物だと思ってな」

「シュウさん、素材のことになるととても生き生きとされますね」

親子揃って上品な笑みを浮かべながら言う。

それだけ今の俺は楽しそうな顔をしているのだろうか。

自分の顔なのでよくわからないが、素材が大好きなのはその通りなので、照れを隠すように笑った。