軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ライラート家の食事

ワゴンを押して入ってきたメイドが動き出し、俺たちの前に料理を並べ始める。

執事が傍にやってきてワイングラスに赤ワインを注いだ。

「うん? どこかで嗅いだことのある香りですね。どんなワインですか?」

「こちらは七色ブドウのワインとなります。二十年ものです」

「七色ブドウのワイン? というと、すべての味が混ざっているのですか?」

「七色ブドウを原料としているが、すべての実を混ぜているわけではない。七色ブドウの中にあるブドウ味の実だけを選出し、腕利きの職人に作らせている」

質問をすると、答えたのはアルトリウス。

「あの一粒だけを使って……」

「我が領地で栽培しているとはいえ、かなり手間暇がかかる。市場に流通することは滅多にないぞ」

驚愕する俺をよそに誇らしげに語るアルトリウス。

七色ブドウのブドウ味の実だけを使って作るだなんて、かなりの手間だろう。

実際に知っている素材だからこそ、その苦労が想像できた。

しかも、二十年もの。並々と注がれているのが恐ろしく感じる。

「大切に呑ませていただきます」

俺の口から絞り出したのはそんな普通の言葉だった。

俺よりももっと味のわかる人に呑んでもらった方がいいのかもしれないが、せっかくの機会だからな。しっかり味わおう。

「プロレオドライトマトと水切りヨーグルトです」

目の前に差し出されたのは小さな器。

そこにはスプーンがあり、その上にはヨーグルトやトマト、バジルソースなどがかけられていた。

一品ずつこのように出てくるということは、フルコース形式だろう。

一口で食べられるこの料理がフルコースでいうところのアミューズかな。

日本の居酒屋でいうところの突き出しのようなものだ。

「では、シュウ殿との出会いとフランとの再会を祝して乾杯だ」

「乾杯」

飲み口が薄いワイングラスということもあり、目線の高さに掲げ合うことで乾杯。

早速とばかりに七色ブドウのワインに口つける。

「……美味しい」

口の中に広がる芳醇な味。

まるで重い水のようにまろやかでスッと喉の奥を通る。

赤ワイン独特の渋みがほどよく、カドがなくて非常に呑みやすい。

なにより、七色ブドウの旨みが凝縮されていた。

「気に入ってくれたようでなによりだ」

「ワインにしても美味しいんですね」

とても贅沢な味だ。

そのまま食べるのが一番だと思っていたが、ワインにするのも悪くない。

七色ブドウのワインを楽しんだところで、スプーンを持ち上げる。

口の中で広がるドライトマトとヨーグルトの味。

乾燥されたトマトは旨みと甘みが凝縮されており、噛めば噛むほどにそれらの味が滲み出てくる。そこに合わさるヨーグルトとバジルソースの相性がとてもいい。

僅かにかかっている黒胡椒やフレッシュなハーブの風味も後を引いて楽しめる。

「美味しい」

「よかったですわ。これからドンドンと料理が出てきますから、是非堪能なさってくださいね」

「ええ、すごく楽しみです」

たった一口で終わってしまったのが残念なほどだ。

しかし、たった一口でこれからの料理への十分な期待を抱かせてくれた。

これからどんな料理が出てくるのだろう。

ソワソワとしながら待っていると、次の料理が運ばれてくる。

「黄金サーモンのマリネとなります」

目の前の料理を見ると、やたらと透明なスライスタマネギの上に金色に輝くサーモンが載っている。

この世界にもサーモンがあるのはリンドブルムで確認しているが、このような色合いをしているものは初めてだった。

ちょっと違和感を抱かないでもないが、盛り付け方といい非常に綺麗だ。

金色に輝くサーモンをタマネギと共に口へ。

「サーモンの旨みが強い」

舌の上でとろけるような脂が溶け、じんわりと旨みが広がった。

その味はまさに極上。高級なステーキを食べているかのようだ。

単品で食べるとやや味が強過ぎるほどであるが、酸味の利いたソースとスライスされたタマネギが見事に調和してくれている。

このタマネギもただのタマネギではないのだろう。シャキシャキとした食感がとても強く、いいアクセントになっていた。

「ジャイアントパンプキンのポタージュでございます」

あっという間に前菜を平らげると、次にやってきたのはカボチャのポタージュだ。

スープの上にはトッピングとしてクルトンと角切りにされたカボチャが載っている。

とても綺麗なカボチャ色だ。

「ジャイアントパンプキンですか?」

「ギガントフォレストにある巨大なカボチャだ。大きさは最低で三メートルで大きいものだと十メートルを越える大きさになる」

「そんな巨大なカボチャが生える森があるんですね」

未知の素材に対して鑑定したい気持ちもあるが、こうやって食材についてアルトリウスやフランリューレと語り合うのも楽しいので鑑定はしない。

敢えて知らないまま味わって、未知と遭遇するというのも楽しいものだ。

ポタージュをスプーンでゆっくりとすくいあげて口へ。

濃厚なカボチャの味と心地のいいとろみが口の中で広がった。

自分で作ったりすると、もったりとした重い味わいになりがちだが、このポタージュはそんなものを一切感じさせない。

「洗練された味ですね」

「扱っている食材は勿論のこと料理人の腕も素晴らしいのですわ」

「ええ、このキメの細かさを見れば、料理人の腕が伝わってきます」

カボチャのポタージュは、レシピの骨組み自体はシンプルだ。

しかし、シンプル故に調理をする者の技量がわかるというものだ。

「シーサーペントのポワレです」

ジャイアントパンプキンのポタージュを飲み干すと、次にやってきたのは魚料理。

「これは魔物のシーサーペントですよね?」

「ああ、リンドブルムで捕まえたものを運ばせた」

リンドブルムの深海で見かけたことはあったが、実際に食べたことはなかった。

「よく捕まえることができましたね」

シーサーペントは深海に棲んでいることや、凶暴な性格もあって捕まえることが難しく、市場にも滅多に出ない。

実際に海で採取活動をしたからこそ、この食材を手に入れることの苦労がわかる。

「優秀な冒険者と契約しているからな」

「なるほど」

きっとリンドブルムで活動しているAランクやBランク冒険者と契約を交わしているのだろうな。

美食家と言われるだけあって、美味しいもののためならばお金を惜しまないようだ。

会話をほどほどにし、ナイフとフォークを使って切り分けると口へ。

シーサーペントの身はとてもあっさりとしており、表面がカリっと焼き上げられていた。

タラやスズキとも違った独特な力強い味をしていた。

臭みはまったくなく、レモンやパセリ、塩胡椒と単純な味付けだがシンプルにそれが美味しい。

盛り付けられたキノコや長ネギとの相性も抜群だ。

「お口直しにミルク草のシャーベットです」

魚料理を食べ終わると、今度は小さな器に盛り付けられたシャーベットが出てきた。

シーサーペントのポワレは非常に食べやすく、口の中が脂っこいわけではないが、肉料理をしっかり堪能するためなのだろう。

ミルク草という植物は聞いたことがないな。一体、どんな味なのだろう?

好奇心を抱きながらスプーンですくい上げる。

シャリッとした食感と共に広がる濃厚なミルクの味。

「うちの保護区に生えているミルク草から絞ったミルクでできている。そこらの牛のミルクよりも濃厚だろう」

「……植物なのにこんな味が出るんですね」

こんなにも濃厚なミルクが植物から採取できるなんてすごい。

ライラート家が管理する美食保護区というのが本当に気になるな。

ミルク草のシャーベットは本当に美味しく、あっという間に平らげてしまった。

「さて、次はメインだな」

ナプキンで口を拭いたアルトリウスが期待のこもった表情で呟いた。

前菜、スープ、魚料理、口直しでこれだけのクオリティだ。

当然メインに対する期待も上がってしまおうというものだ。

「フラン、早く食べないか」

「父上、レディの食事を急かすのはよくありませんわよ? それにわたくしが遅いのではなく、お二人が早すぎるだけですわ」

期待のあまり娘を急かし、それを窘められるアルトリウス。

なんとも微笑ましい光景だ。

ややソワソワしたアルトリウスに見守られながらも、フランリューレは遅れて完食した。

そして、メイン料理が運ばれてくる。

「美白牛のステーキでございます」

お皿の上に盛り付けられたステーキがやってきた。

「変わった色合いですね」

「美白牛のお肉は焼いても淡いピンク色なのですわ」

通常のステーキのように肉々しい感じはないが、実に綺麗な焼き上がりだ。

それにしても中々の分厚さだ。アルトリウスと俺はともかく、フランリューレまでも同じサイズだ。

あの小柄な身体にこれだけの分厚いステーキが入るのだろうか。

「なんですの、シュウさん?」

俺の視線に気付いたのかフランリューレが小首を傾げる。

ここで言葉を濁すのも変か……。

「かなり分厚いようなのでフランリューレ様は大丈夫なのかなと思いまして……」

「美白牛はとても肌に良く、食べると健康的になれるんですの! 女性として美しい肌を維持しようとするのは当然のことですわ!」

思った心配をそのまま伝えると、フランリューレが少しムキになったように返事した。

「ククク、そう言い訳せずとも素直に大好物と伝えれば良かろう」

「お父様ッ!」

アルトリウスが笑いながら暴露し、フランリューレが顔を真っ赤にして叫ぶ。

恥ずかしさのあまり呼び方が素になっているのが可愛らしかった。

フランリューレがややむくれつつも、俺たちは美白牛のステーキへ意識を向ける。

分厚い見た目とは裏腹にナイフはスッと通った。

すると、美しいピンクの肉が露出し、キラキラとした肉汁がにじみ出てくる。

やや赤みがかった外側と内側にある淡いピンク色のコントラストが綺麗だ。

一口分に切り分けて、美白牛のステーキを食べる。

プルリとした柔らかな食感。次いで弾ける霜降り肉の脂。

それは決してしつこい味ではなく、とてもあっさりとしたもの。

噛めば噛むほど奥から旨みが出てくる。

「すごい。とてもステーキとは思えない食べやすさですね」

「それが美白牛の特徴だ」

俺の呟きに応えつつも、大きく切り分けたステーキを頬張るアルトリウス。

こんなに美味しいステーキが肌にもいいなんて最高だな。

こんな肉があれば、女性も喜んで食べるに違いない。

ふと、フランリューレを見ると恍惚の表情を浮かべていた。

大好物とあってか、これまでの料理以上に美味しそうに食べているようだ。

そんな姿が微笑ましいが、あまり不躾な視線を向けるのも失礼なのでステーキに集中する。

かなりの大きさを誇っていた美白牛であるが、その食べやすさもあってかパクパクと食べ進められた。

フランリューレも大好物とあってか、今回はほぼ三人が同時に食べ終えられた。

様々な美味しい料理を食べられて幸せな空気が漂う。

「グランイチゴのミルフィーユとなります」

満足感に浸っていると、デザートが運ばれてきた。

パイの間にはクリームやカスタードだけじゃなく、スライスされたイチゴが挟まっている。

そして、頂上には赤々としたイチゴが鎮座していた。

ナイフで丁寧に切り分けて口に運ぶと、パイがサクリと弾け、濃厚なクリームとカスタードが絡まり合う。

そこに瑞々しいグランイチゴがやってきて、実に調和のとれた味となる。

今まで食べてきたイチゴに比べて、甘さと酸味のバランスが絶妙だ。

きっとこれも保護区で栽培されている特別なイチゴなのだろうな。

これまでの料理と違って、じっくりとデザートを味わうことにした。

そうやってデザートを食べ終わると、食後の紅茶とお茶菓子が運ばれて、まったりとした時間が流れた。

「シュウ殿、我が家の料理は気に入ってくれたかね?」

「はい、とても素晴らしかったです」

他にも色々と賛美の言葉は思いついたが、シンプルに素晴らしいと思った。

食べたことのない食材であることは勿論、それを見事に調理してみせた料理人も素晴らしかった。

「そうか。満足してくれたようで何よりだ」

俺の返答を聞いて、実に嬉しそうな顔で頷くアルトリウス。

普通に会話している時は非常に落ち着いた男性であるが、料理のことになると無邪気で楽しそうに語っていた。

本当に美味しい料理が好きなんだろうな。

カルロイドよりも爵位が高く、年齢が上なこともあって緊張していたが、一緒に食事をすることで人となりがわかった気がした。