軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

沼地料理

眼球と品物の交換が成立する頃には、空はすっかりと暗くなっていた。

しかし、周囲には篝火が焚かれており、周囲を明るく照らしている。

台座に乗っているゲイノースの頭が照らされており、なんともいえない不気味さを醸し出していた。

解体場に戻ると、ゲイノースはすっかりと解体されており素材ごとに分けられている。

肉は女性陣に渡されて料理に使われ、皮や牙は綺麗に洗われていた。

「シュウさん、素材が綺麗に取れました!」

駆け寄ってくるルミアの手には折りたたまれたゲイノースの皮や牙、収納ケースに収められた毒袋などが見えた。

「もしかして、ルミアさんも解体していました?」

「はい、これだけ大きい魔物の解体は初めてで、とても楽しかったです!」

じんわりと額に汗をかき、やり切ったと言わんばかりの表情。どうやらルミアも解体作業に積極的に参加していたようだ。

見た目によらずたくましい子だ。

料理を手伝うんじゃなくて、解体を手伝うというのがルミアらしいと思う。

「二人とも、そろそろ宴が始まるからこっちに集まってくれ」

マジックバッグに素材を収納すると、レイルーシカに呼ばれたので広場の中心部に移動。

宴は外でやる形式らしく、装飾の豊かなカーペットの上に座った。

組み上げられた木材に火が点けられ、キャンプファイヤーのように燃え上がる。

次々とカーペットが敷かれて、そこにはできたばかりの料理が運ばれた。

作業を手伝いたい気持ちもあったが、自分たちは客人でもあるので大人しく待つことにする。

そうやって賑やかになっていく広場を眺めていると、ダークエルフの全員が腰を下ろした。

広間で円を描くように皆が並んでいる姿は中々に壮観だ。

それぞれの杯には俺が樽で持ってきたワインが注がれている。子供などのお酒が呑めない者にはジュースと早速使ってくれているみたいだ。

普段はお目にかかることのできない料理や、酒を前にしてダークエルフたちが色めき立っているのがわかる。

しかし、長であるゲイルが大きく咳払いをすると、騒ぎ声はすぐに小さくなった。

「では、沼地に巣食うゲイノースを討伐し、我らの集落に安寧と繁栄もたらしたことを祝して乾杯!」

「「乾杯!」」

レイルーシカのよく通る乾杯の声を合図に、俺たちは杯をぶつけ合った。

「乾杯です!」

「乾杯」

傍にいるルミアやレイルーシカ、ゲイルとも杯をぶつけ、それから一口飲んだ。

乾杯を済ませると、並べられた料理に視線を落とす。

そこには魚のムニエルのような料理や、ゲイノースの肉が使われているらしき煮込み料理。

沼シャコともずくのようなものが入ったサラダや、素揚げにされたレンコンなどもある。

衣に包まれているのは沼シャコの唐揚げだろう。

レイルーシカが早速広めて、作ってみた料理に違いない。

しかし、その隣にあるゴロッとした唐揚げが何かわからない。

「沼シャコの唐揚げの隣にあるのはなんでしょう?」

俺と同じ疑問を抱いたのか、ルミアが尋ねる。

「ああ、そっちは沼蛙を唐揚げにしてみた」

「なるほど、蛙ですか」

「毒沼蛙とは違って毒もなくて美味しいぞ」

この世界では蛙も貴重な食料だ。

大蛙などの魔物もいることから食用肉として人々に親しまれている。

グランテルの屋台でも串肉として売り出されていることもあるので、俺もルミアも忌避感を抱くことはない。

「あっ、これ美味しいですね!」

「グランテルで食べる大蛙よりもジューシーです」

フォークで突いて食べてみると、とてもジューシーでまるで鶏のモモ肉のよう。

鶏の唐揚げとして差し出されても、まったく違和感を覚えないくらいだった。

「それは良かった。シュウの教えてくれた唐揚げとやらのお陰で、いつもよりも美味しく感じられるぞ。見ろ、皆の喜びようを」

レイルーシカに言われて周囲を見てみると、沼蛙の唐揚げを口にして驚いているダークエルフがたくさんいた。

食べ慣れた味故に新しい味の発見が新鮮に感じられるのだろう。

「喜んでもらえて良かったです」

「ただ、まだ衣や火の通り具合にムラが出てしまうのが難点だ。シュウの作ってくれた沼シャコの唐揚げのように外はカリっと中はジューシーにするのが難しい」

「そこは油の温度を調節しながら経験を積んでいくしかないですね。後は低めの温度で揚げた後、油の温度を上げて二度揚げをしてみるのも手です」

「なるほど! そうすることであのような食感になるのか!」

手に入れたメモ用紙に早速とばかりにメモをするレイルーシカ。

どうやらすっかり唐揚げが気に入ったようだ。

沼蛙の唐揚げを食べると、沼シャコのサラダを口にする。

塩茹でした沼シャコは当然のように美味しい。

海藻のようなものはぬるりとしており、ほのかに酸味を感じさせる味だった。

「この海藻みたいなものはなんでしょう?」

「それは沼草といってな。粘り気のある独特な食感と酸味が特徴的だ。まあ、この辺りでよく取れる食用草のようなものだな」

【沼草】

湿気の多い沼地に生えている草。

ぬめぬめとした粘液を帯びており、コリッとした食感が特徴的。

粘液には非常に栄養価が高く、美肌効果がある。

「美肌効果もあるみたいですね」

「そうなのか!?」

鑑定結果を何げなく呟くと、レイルーシカが食い気味に尋ねてきた。

偶然会話を耳にしていた女性のダークエルフたちも真剣な視線を向けてきている。

「ええ、鑑定で出てきた情報ですけど……」

「なるほど。今まではただの付け合わせ程度に思っていたが、これは認識を改める必要がありそうだ」

「そ、そうですか」

レイルーシカをはじめとする女性陣の目が怪しく光る。

辺境に住んでいようと女性の美意識への感心は高いらしい。

「思えばここにいらっしゃる皆さんは、肌がとても綺麗ですよね。頻繁に沼草を食べていたことが影響しているのかもしれませんね」

そんな中、ルミアはのんびりと考察していた。

美容への意識より、素材への意識の方が勝っているような感じだ。

「そういえば、ルミアも肌が綺麗だな。普段、何か気を付けていることはあるのか?」

「私はお肌にポーションを塗っていますよ」

「ポーションをか!?」

「はい。肌の潤いや状態維持を保つ効果もあり、ちょっとした肌荒れなんかにも効くんですよ?」

「し、知らなかった。ポーションにそんな使い方があるなんて……」

「同じく」

ポーションにそのような使い方があったなんて知らなかった。

ルミアもサフィーも道理で肌が綺麗なはずだ。

ラビスをはじめとするグランテルの女性に教えれば、凄い勢いでポーションが売れてしまいそうだな。

エルドの泥パックでさえあの騒ぎだ。皆には申し訳ないが、あまり広めないようにしよう。

などと考えながらレンコンの素揚げを摘まむ。

素揚げにされたレンコンとカリッとしていてとても美味しい。甘辛いタレがかけられており、一度食べると止まらなくなりそうだ。

しかし、普段食べているレンコンとも違う気がする。

【沼蓮根】

沼の奥底で育つレンコン。

通常のレンコンよりも旨みと甘みが強い。

どうやらこの辺りの沼で育つレンコンのようだ。

これだけ生物が肥沃な沼で育ったレンコンだ。通常のものよりも旨みや甘みが上なのは納得だな。

「さて、一通りのものが食べ終わったことだ。今回のメインに移ろう」

そう言ってレイルーシカが大きな鍋からスープをよそってくれる。

そこにはゲイノースの肉やネギ、キノコなどで煮込んだものがあった。

本日の主役であるゲイノース料理である。

注がれた茶碗を受け取ると、ゲイノースの肉がごろりと浮いていた。

見た目はそれほどいいように見えないが、鑑定で食べられるということは確認済みだ。

こういう未知の素材の味を確かめるのも大好きな俺は、怖気づくことなく匙を運ぶ。

あっさりとしたスープと共にゲイノースの肉がゴロリと舌に乗る。

噛みしめると肉はあっさりと千切れ、鶏の胸肉のような感じだ。

「あっ、美味しいですね」

「肉から染み出たお出汁がとてもいいです」

まるで鶏ガラスープを飲んでいるかのような、あっさりとしつつも旨みのあるスープだった。香草との相性も抜群で普通に美味しい。

通常、蛇の肉というのは細かい骨が多いのだが、ゲイノースにはそれが無いみたいで食べやすいのはありがたい。

加熱による身の縮みもほとんど様子なので満足感も大きかった。

「一緒に入っているネギやキノコも良い味をしていますね」

「凶暴な見た目と能力の割には優しい味です」

「本当ですね」

なんて俺の感想にルミアがクスクスと笑う。

今回は毒性素材を優先して採取していて、こういった食用素材の採取はあまり出来なかったな。

また今度来る時は、毒性素材以外の素材をゆっくりと採取したいものだ。

ダークエルフたちの宴は夜が更けるまで続き、篝火が揺らめきながら空を照らしていた。