軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴォルケノスの卵

「うん? なんだ? あのスライムは?」

洞窟をひたすら奥に進んでいると、前方にオリーブ色のスライムがいた。

【オイルスライム 危険度F】

オイルでできたスライム。油分百%で触るとかなり油っぽい。

上質な油でできているので家庭でも大人気。

鑑定してみると、危険度の低い魔物だった。

レディオ火山の中で危険度Fの魔物は初めてだ。

オイルスライムはこちらに気が付くとぽよんぽよんと跳ねてくる。

その可愛らしい姿に頬が緩みそうになるが、オイルスライムの進行方向にマグマがあるのに気付いて背筋が凍った。

「ブリザード!」

慌てて氷魔法を使用してオイルスライムごとマグマを凍り付かせる。

オイルスライムは、マグマに飛び込もうとしている瞬間に氷像となった。

「危ない、油断しそうになった」

油百%でできているスライムがマグマに飛び込むとか、どう考えても嫌な予感しかない。

入った瞬間、業火をまき散らすだけならまだしも、ちょっとした爆発すら起こす可能性があった。

単体での危険度自体は低いが、この環境下では自爆型の魔物というこの上なく危険な魔物だな。

そんな風に洞窟内で現れる魔物にヒヤリとさせられながら、俺は順調に進んで洞窟を抜け、頂上付近にやってきた。

頂上部は洞窟のように閉鎖的ではなく、広く開けた平地であった。

洞窟内と違って太陽の光もあるので、視界は晴れやかだった。周囲にはマグマが流れているので暑いのには変わりはないが、籠るような暑さではないためにマシだった。

ただ、ヴォルケノスの巣があるらしい山岳部近くでは、激しい火の粉のようなものが舞い上がっているのが見える。

あの辺りの暑さは尋常ではないだろうな。ほぼ、火口部じゃないか。

「調べた情報によると、多分あそこがヴォルケノスの巣だな」

領主にも大まかな生息地は聞いていたし、酒場でドロガンやバリスにも聞いて確認したので間違いないだろう。あの辺りに巣があるに違いない。

早速、そこに向かいたいところであるが、調査をしてみると周囲に大量の鉱石が埋まっているのが見える。

「魔鉄、調査」

ルミアの欲しいものリストにあった魔鉄で検索してみると、地中や壁の中に大量に質の良いものが埋まっているのが見えた。

「おお、ここにある魔鉄は質がいいな。ルミアのために採っておくか」

先にヴォルケノスの卵を採ってしまっては、採掘をするのは難しくなるからな。

手が空いている今のうちにやっておくべきだろう。

エルドの店のドワーフから買った、耐熱性に優れたグローブをはめて、硬魔石のツルハシを握る。

このように暑い環境下であるが、ツルハシが熱を持って握れないことはないようだ。

恐らくグローブのお陰だろう。安心して採掘をする意味でも買っておいてよかったと思う。

赤、橙に光る魔鉄目掛けてガツガツと壁を削っていく。

出てきた魔鉄は銀色に少しの黒が入り混じったもの。質がいいので純度が高く銀の部分が多い。

低階層の部分で出てきた魔鉄とは質が大違いだ。ここら辺にある鉱脈は質がいいのだろう。

「うん? これは?」

魔鉄をもっと集めるべく、見えているポイント目掛けて掘り進めていくと途中で見覚えのない赤い鉱石が出てきた。

気になって手を伸ばしたいところであるが、中々に高熱を発しているようだ。

先に鑑定をしてみる。

【熱石 高品質】

高温度の熱を発する石。

その温度は二百度を上回り、保存は厳重にしなければいけない。

どうやらかなりの熱量を持った石らしい。迂闊に触らなくてよかった。

「これも確かルミアの欲しがっていたものだよな?」

この素材の名前には聞き覚えがある。

ルミアに渡されたメモを開いて確認すると、確かに熱石と書かれていた。素材の特徴も目の前にある熱石と一致した。

だとしたら、これも回収するべきだな。

耐熱性のグローブとはいえ、一枚では少し心許ないな。

グランテルで買っておいた丈夫なグローブを下に重ねて二枚重ねにしておく。

ここまですれば大丈夫だろう。

熱石の周りにある石を削ると、二重にしたグローブで慎重に取り外す。

二重にしていても少し熱を感じるが、熱くて触れないわけではない。

耐熱瓶に入れてマジックバッグに収納した。

これで取り出す時も安心だな。

魔鉄や熱石の採掘を終えた俺は、ヴォルケノスの巣がある山岳部にやってきていた。

急な傾斜になっている部分に隠れて、魔石調査を使う。

すると、八つの反応があるが、小さな魔石ともいえないようなシルエットだけだった。

恐らくこれはヴォルケノスの卵なのではないだろうか。

傾斜から顔を出して巣を覗いてみると、中心部には大きな卵が八つほどあった。

微かな反応はそこから出ている。

周囲にヴォルケノスや他の生物の反応は一切ない。

餌を取りにいっているのか知らないが、幸運なことに最大の障害であるヴォルケノスはいないようだ。

「よし、これはチャンスだ!」

あまりの幸運に小躍りしそうになる気持ちだ。

俺は即座に傾斜から出ていって、卵へと近づく。

【ヴォルケノスの卵】

レディオ火山に棲息するヴォルケノスの卵。

美食家から珍味として指定されている。

その濃密な黄身の味は、美食家たちを虜にする。

鑑定でもヴォルケノスの卵だと情報が出ている。これが目的の素材で間違いないだろう。

肌色に赤色の水玉模様。変わった色合いをしている卵だな。

これが珍味と言われるほどの美味しさなのか。外見からはまったく想像できない。

美食家をも虜にするという、黄身の味がとても気になる。

「なんて呑気に考えている場合じゃないな」

ヴォルケノスが戻ってこない内に急いで卵を運び出さないといけない。

ゲームのように奴が戻ってきて、追いかけられながら運搬なんてゴメンだ。

ヴォルケノスの卵の一つを両手で抱えると、ずっしりとした重さだ。軽く十キロくらいある気がする。

鶏の卵とは違って、成人男性が抱えるような大きさなので当然か。

中には生命が詰まっているからか卵から温かみを感じる。調査で調べた時には胎児は見えなかったので生み落とされたばかりなのだろう。

とりあえず、これがマジックバッグに入るかが重要だ。

卵がバッグに入るか試してみる。

「……やっぱり、収納できないかぁ」

ヴォルケノスの卵はマジックバッグに入れることができなかった。

鶏の卵は収納することができたのにどうしてだ。

卵としてではなく、生命として認知されてしまっているからだろうか。

正直、生命としてカウントされる判定がわからない。魔物だからなのか?

それとも微妙にやってくるのが遅くて、生命として規定されたのだろうか。

試しに他の卵も試してみるが、どれも入らなかった。

「命って、なんなんだろう……」

柄にもなくそんな哲学的なことを考えてしまう。

ええい、これから珍味として提供する素材のことだ。あまり深いことは考えないようにしよう。

妙な思考に沈みそうになるのを振り切って、俺は気を取り直すように卵を抱え直す。

そして、急いでこの場を離れるべく抱えながら走る。

結構な重さのあるものを抱えているせいで、ちょっとした小走りしかできない。

ゲームで運搬をやっている時は、どうしてあの程度しか走れないものかとイライラしたものであったが、これだけ重いものを抱えて手が塞がっているとそうなってしまうと酷く痛感した。

あの時、イラついて怒ってごめんなさい。俺のゲームアバターは必死になって卵を運んでいたんだな。

異世界にきてそんな奇妙な理解をした瞬間だった。

俺はヴォルケノスの卵を落とさないように。だけど、できるだけ急いで山の傾斜を降りていった。