軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

珍味の確保依頼

冒険者ギルドを出発した俺は、高級馬車に乗って領主であるカルロイドの屋敷に向かう。

紋章の入った手紙と命令書を見せると、御者は文句を言うこともなく恭しい態度で俺を馬車に乗せてくれた。

虎の威を借りる行為とはいえ、自分が偉くなったように錯覚してしまうな。

前世の社長とかもこんな気分だったのだろうか。

なんてことを考えていると、あっという間に領主の屋敷に到着した。

門番に手紙を渡すと、既に話は通っているからかあっさりと入れた。

馬車から降りると、燕尾服を見事に着こなした初老の執事、ベルダンが迎えてくれる。

ベルダンはこちらを見ると深く頭を下げた。

「シュウ様、この度は急な招待に応じてくださり誠にありがとうございます」

「いえ、これくらい構いませんよ。カルロイド様にはお世話になっているので」

自分よりも遥かに年上の方に頭を下げられると酷く落ち着かない。

なんだか悪いことをさせているような気分になってしまう。

さっきは社長もいいものだと思ったが、きっと上に立つ者はこういうのが日常なんだろうな。小心者の俺には無理かもしれない。

「そうおっしゃって頂けると助かります。では、早速ご案内いたしますね」

どこかホッとしたような笑みを浮かべ、ベルダンが屋敷を案内してくれる。

前回は初めてだったので緊張していたが、領主がいい人だというのはわかっているので少し心に余裕があった。

赤い絨毯が敷かれている廊下を進むことしばらく。前回挨拶した時と同じ談話室に通された。

ベルダンが扉を開くと、既に室内には領主であるカルロイド=エノープスがいた。

「やあ、シュウ殿。リンドブルムから帰って日が浅いというのに呼びつけてしまってすまない」

「いえ、冒険者にとって領主様に招待されるのは誉高いことですので」

「……シュウ殿はいい人だな。サフィーなんて呼んでもこないし、呼んだら呼んだで態度がデカくて、どっちが貴族かわからなくなるくらいだ」

俺の言葉を聞いて、どこか遠い目をするカルロイド。

前回、レッドドラゴンのことで釘を刺されたり、カルロイドとサフィーは過去に色々とあったようだ。

下手な貴族より財力も権力もある彼女と付き合うのは難しいのだろうな。

難しい話を無しにつるんでみると、だらしない近所の姉さんという感じだが。

ひとまず話題を変えるために、俺はベルダンに手土産を渡す。

「あっ、こちらはリンドブルムのお土産です。粗品ではありますが」

「おお、気を遣わせてしまってすまないな」

まさか領主に会うとは思っていなかったので立派なお土産なんてものは用意していない。

だけど、リンドブルムに行っていたというのは知られているだろうし無いよりかはマシだと思ったのだ。

ベルダンがそのまま持っていくと思ったが、カルロイドは気になったのか手土産の開封を命じた。

ベルダンが手土産の中にあるものをテーブルに並べていく。

フエガイに珊瑚片、乾燥させたアビスカスの花や海藻。

説明してみるとカルロイドが強い興味を示したのはフエガイだった。

「おお、本当に音が違うのだな。気に入った」

それぞれのフエガイを吹き鳴らすと、面白そうに呟いた。

爽やかな見た目によらず意外と子供っぽい一面があるらしい。

お子さんがいるらしいので、その子たち宛てにどうかと思ったがカルロイドが気に入ってしまった。

暇な時に吹いたり、使用人を呼ぶベルの代わりにするのかもしれないな。

ひとしきりお土産の説明なんかをすると、ベルダンが紅茶を淹れてくれた。

紅茶の上には早速アビスカスの花が載っている。

やはり紅茶のとの相性は抜群のようで、より上品な香りへと昇華していた。

カルロイドが紅茶を口にしながら、世間話のように尋ねてくる。

「リンドブルムはどうだった? 身体を休めることはできたか?」

「あちらの領主に依頼を頼まれたり、海底神殿が開いたり、クラーケンと遭遇したりと大変でしたがいい休暇を過ごすことができましたよ」

「ぶふっ!」

リンドブルムの出来事を軽く話すと、カルロイドがむせた。

「大丈夫ですか?」

「ちょっと、詳しく話してくれるか?」

あれ? 俺がリンドブルムに行っていたことは知っていたし、あちらでの出来事も知っているんじゃないのか?

疑問に思いながらもリンドブルムで起きた出来事なんかを話していく。

どうやらカルロイドは細部まで知らなかったようだ。

てっきり冒険者ギルドや領主ネットワークなんかで聞いているものだとばかり思っていた。

「レッドドラゴンにドボルザークときて、次はクラーケンか……シュウ殿は呪われているのではないか?」

「自分でもそう思い始めています。俺はただのんびり素材を採取していたいだけなのに……」

どうして行く先々でそのような危険な魔物と遭遇してしまうのかわからない。

危険な魔物をハンティングして採取する生活を望んでなんかいない。

もっと薬草とかキノコとかそういう地味な素材でいいんだ。欲をいえば珍しい素材。

「ほう、そんなシュウ殿に採取の依頼を頼みたいのだがどうだろうか?」

どこか遠い目をする俺にカルロイドが提案をしてくる。

「採取の依頼ですか? どんな物です?」

採取の依頼と聞いては、黙ってはいられない。仮にも領主がもってくる依頼だ。

面白い素材かもしれない。

「今回はヴォルケノスの卵を持ち帰ってほしい」

「……ヴォルケノスというのは?」

「レディオ火山に棲息している、マグマの中だろうと移動する巨大なトカゲのような魔物だ」

レディオ火山。

グランテルより北西部に位置する火山だと地図で認識した覚えがある。

火山地帯という厳しい環境。それに適応した強靭な魔物がはびこっている場所だ。

火山といえば、モンモンハンターでも色々な素材がとれた。機会があれば、一度行ってみたいなと思っていた。

「うーん、結局討伐して回収することになりそうなんですが……」

厄介そうな情報を聞くに、結局はそういう風になりそうな気がする。

そうだとすると、俺の期待していた採取依頼とは違う。

「ヴォルケノスの卵は非常に珍味故に稀少価値が高い。それ故に冒険者がこぞって討伐したために数を減らしている」

「……つまり、討伐してはならないと?」

「ああ、成体の討伐はしないでほしい。だからこれは採取依頼になる」

にっこりと笑みを浮かべて頷くカルロイド。

どうやらこの世界には魔物であっても、絶滅を避けるために討伐を制限する考えがあるようだ。

「ヴォルケノスの卵って、それほどに美味しいんですか?」

「私も食べたことはないのだが珍味だと聞く。今回はとある美食家貴族がご所望でね。それをお土産に持っていけると、私の今後の立ち回りが非常に楽になるんだ」

「なるほど」

非常にという部分を強調するカルロイド。

どうやら貴族の社会も中々に大変なようだ。

「ヴォルケノスの危険度はBと高く、それを討伐せずに卵だけ持ち帰るというのは至難だ。だからこそ、素材採取人として名を馳せるシュウ殿にやってもらいたいんだ」

火山地帯はただでさえ危険だ。そんな環境で自由に動き回るヴォルケノスを討伐してはならないという枷がついた状態で、卵だけを持ち帰るのは難しいだろう。

モンモンハンターでも卵だけをとったりしたら、飛竜が怒り狂って襲い掛かってきた。

それを回避しながら持ち帰るのはかなり難しい。しかも相手の危険度はBだ。

だけど、レディオ火山に行けるいい機会だし、そういう難しい採取依頼はこちらとしても燃える。

俺はカルロイドから詳しい報酬内容を吟味した上で引き受けることに決めた。

「わかりました。その依頼、引き受けましょう」

「ありがとう、シュウ殿! 助かるよ!」

危険な依頼だけに報酬もかなりいいし、旅費もある程度負担してくれるというのも気に入った。

たとえ、危険な場所だろうと珍しい素材があれば、採取しに行きたいからな。

必要な数は一つだそうなので、何とか余分に確保して珍味を味わってみたいものだ。