軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

領主からのお手紙

「さあ、収納した物を出してもらおう」

ギルドで指名依頼をこなしているとルミアの言っていた通り、三日後にクラウスは街に戻ってきた。

そして、俺を宿から連れ出して薬屋へと連行するなり告げた。

「はいはい、わかったよ」

俺がそう返事するとクラウスはトランクをぞんざいに床に置いて腕を組む。

俺がきちんと店の品を出すまで安心はできないような感じだ。

帰ってきたばかりなので落ち着いたらどうかと思うが、いつもある物が店になくて安心できないようだ。

クラウスがしっかりと見張る中、俺はマジックバッグから素材や瓶に収められた薬草なんかを丁寧に取り出す。

「ふむ、さすがはマジックバッグ。劣化はしていないな」

クラウスはそれをひとつひとつ確かめては元の場所に戻していた。

黙々と取り出すだけでは退屈なので、俺はクラウスに会話を振ってみる。

「で、あの後はどうだった?」

「誰かが余計な気を回したせいでパーティーに連れていかれ、どこぞの令嬢とお茶をさせられた」

クラウスが苦い表情を浮かべながら言った。

屋敷でゆっくりと過ごしているだけかと思ったら、予想以上に面白い展開になっていた。

きっといつまで経っても恋人のいないクラウスを心配して、ネルジュかソランジュがセッティングしたんだろう。

もっとお兄ちゃんと一緒に過ごしたいだけかと思っていたけど、他の思惑もあったのか。

「おお! それはどうだった?」

「中身のない話ばかりで退屈だった。こにらが話題を振っても学がないせいかロクに答えられもしない」

「ええ……」

クラウスの容赦のない言葉に俺は呻いてしまう。

クラウスとお茶会をセッティングしたということは、曲がりなりにも良家の子女だろう。そんな人でさえ学がない扱いだなんてクラウスの判定は厳しそうだ。

「見た目はどうだった?」

「別に普通だ。少し幼いように思えたがな」

もっとこうどんな見た目だったとか、どんな印象だったとかを聞きたかったのだが、クラウスにそういう語りを期待するだけ無駄か。

「でも、クラウスも貴族でしょ? 跡取りの問題とかないのか?」

「俺は当主になるわけでもないからな」

ということはクラウス以外にも兄や姉がいて、そちらはしっかりとしているのか。

でも、当主じゃないからといって婚姻から逃げられはしない気はするな。

詳しい家のことは話したがっているように見えないし、これ以上突っ込むのはやめておこう。

「随分と婚姻に興味を示しているようだな? お前もBランク冒険者と立派な肩書があることだ。商家の娘との縁談くらいは見繕ってやるぞ?」

なんて考えていると、クラウスが実にいい笑みを浮かべながら言ってきた。

クラウスっていいところの貴族っぽいから、本当に実現しそうで怖い。

「……いや、遠慮しておくよ」

「ほう? それはどうしてだ?」

「まだ俺は自由に素材を採取していたいから」

結婚することに憧れがないでもないが、今は新しく始めた人生を楽しみたい。家庭を持ったら今にみたいに自由にあちこちで素材採取とかできなさそうだからな。

「俺も同じだ。まだまだ研究するべきことがたくさんある。余計な気遣いはほどほどにな」

これはネルジュやソランジュと共謀したりするなという脅しだろうか。

別に今回は共謀したわけではないが、クラウスが独りでいる理由にも共感できたし、得体の知れないプレッシャーがあったので俺は素直に頷くことにした。

品物の確認が終わるなり、クラウスの店から追い出された俺は冒険者ギルドにやってきていた。

クラウスのために今日は一日空けていたので、暇つぶし程度に依頼を眺めて情報収集だ。

最近は指名依頼を定期的にくれる顧客がついて、ありがたい限りだが同じ素材ばかりを指名してくる。

素材を採取すること自体は好きなのだが、新しい場所や素材を開拓したいものだ。

「あっ、シュウじゃん!」

掲示板を眺めていると、俺の名前を呼ぶ者が。

振り返ると獣人のレオナ、エルフのエリク、人族のラッゾがいた。

「旅行に行ったって聞いてたけど帰ってきたんだ?」

「はい、少し前に。三人はここ最近見かけませんでしたけど、なにかの依頼に?」

お土産を渡しにきたときも指名依頼をやっている時も、三人は見かけなかった。

「ああ、今回は田舎の村の畑を荒らす魔物が出ててな。そいつらを討伐してたんだ」

「それってどこの村です?」

「イルゼ村だが、どうかしたのか?」

戸惑った表情をしているラッゾの言葉を聞いて、俺はホッとした。

「すみません、俺がお世話になったフェルミ村かと思って心配しちゃいました」

「ああ、その気持ちわかるわ。故郷の村で依頼とか出てると心配しちゃうもんね」

心配する俺に共感するように言ってくれるレオナ。

フェルミ村はこの世界やってきて、とても優しくしてもらった思い出のある村だ。

何かがあればすっ飛んでいくくらいには恩がある。

まあ、そんな時がこないのが一番だけどな。

「とりあえず、互いに一段落したようだし今日は呑むか!」

「いいですね!」

元々今日は情報収集がてらにやってきただけだ。三人と楽しく語り合いながら、近況を聞く方が手っ取り早い。

「ああっ! シュウさん! こんなところにいたんですね!」

ラッゾたちと併設された酒場のテーブルに向かおうとすると、そんなラビスの声が聞こえた。

「何か俺に用があるっぽいのでちょっと行ってきます」

「お、おう」

ひとまずラッゾたちを先に座らせて、俺はラビスの方に歩いていく。

「あちこち探し回った末にここにいたとは……」

額に汗をにじませ、疲労を感じさせる声を吐くラビス。

どうやら俺の用件があって、街を探し回っていたらしい。

そこまでして急いでいる用事とやらが怖い。

「えっと、今日はどうしたんですか?」

「領主であるカルロイド様からシュウさんに手紙です」

「ええー、またですか」

別に領主のこと自体は嫌いではなく、むしろ好感を抱いているタイプであるが、偉い人と会うのはそれなりに気疲れがする。

できるならあまり会いたくない人物だ。

「会って頼みたいことがあるそうですよ。私はきちんとお渡しましたからね!」

自分は役目を果たしたことを強調し手紙を渡してくるラビス。

貴族から受け取った手紙と責務から解放されてホッとしたような表情をしている。

会って話したいことがある。十中八九何かほしい素材があるのだろうな。

とりあえず、すぐに何かをしなければならない問題なのか確かめるために手紙を開く。

チラッと目を通すと、相変わらず貴族らしいお硬い文章が並んでいる。

要約すると頼みたい依頼があるので、すぐに馬車に乗って屋敷に着てくれという内容だった。

この紋章を見せて高級馬車に頼めば、貸し切りにして送ってくれるそうだ。しかも、支払いも領主持ち。

前みたいに迎えを送る手間すら省いているのは、それほど時間が惜しいからだろうか。

ここまでされては早急に向かわざるを得ないな。

仕方がないラッゾたちとの飲み会はキャンセルだ。

「シュウ、用事は終わったか?」

酒場に向かうと既にラッゾたちは料理を食べ、お酒を呑んでいるようだった。

「すみません、領主様に呼び出されてしまったので飲み会は延期で……」

「お、おお、領主様の呼び出しとはすげえな」

「……Bランクほどになると当然か。なにせシュウはレッドドラゴンを倒すほどの実力者だからな。俺たちに気にせずに行ってこい」

「なによ、シュウ! 私とはお酒が呑めないって言うのー!」

エリクの優しさをぶち壊すように、レオナがロレツの回っていない声で叫ぶ。

よく見ると顔が赤くなっており、見事に酔っぱらっているようだ。

威勢よく返事した癖にドタキャンをしたのだ。レオナの気持ちももっともだった。

「あーあー、酒が強くねえ癖にペースを考えろよ」

「私は酔ってない!」

「酔ってる奴は皆そう言うんだ」

「……レオナのことは構わないでいい」

「ありがとうございます。埋め合わせとして今度は俺が奢りますから」

「おー! 期待して待ってるぜ!」

酔ったレオナをあやしているラッゾとエリクに見送られて、俺は冒険者ギルドを後にするのだった。