軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

クラーケン討伐

「うおおおおおおお! ヤバいヤバい!」

穴から出てきたクラーケンは先程よりも猛烈な勢いで触手を振るっていた。

再生して八本に戻った触手を俺とサフィーに四本ずつ振り分けることで、確実に捕えようという作戦だろう。

一本や二本であれば軽々と避けることができるが、それが倍の四本となるとキツい。

水魔法のお陰で機動力は上回っているが、相手はそれを補う面での制圧力がある。

巨大な質量の物を次から次へと振るうだけで逃げ道は塞がれてしまう。

前方から巨大な触手が落ちてくる。

躱すと神殿の中庭へと打ち付けられ、大きな土煙が舞い上がる。

悪くなった視界の中、二本の触手が横薙ぎに振るわれた。

下降して回避すると、四本目の触手が鋭い槍のように迫ってくる。

水魔法の噴射を強めて急加速すること避け、戻ってきた一本目の触手にエアカッターを放つ。

俺の魔法は触手の半ばから断ち切ることに成功するが、すぐに細胞が再生して復活した。

「フリーズ!」

二本目、三本目は氷魔法で凍てつかせることに成功するが、こちらは自ら砕くことで同じように再生される。

それらはすぐに俺に襲い掛かろうとするが、ルミアがクラーケンの真上から機雷を落としてくれた。

クラーケンは二本の触手で打ち払うことで爆発から身を守る。

「ありがとうございます、ルミアさん!」

「いえ!」

ルミアは短く返事をすると、すぐにサフィーの援護に回る。

サフィーも巧みな回避をしながら雷魔法を放っているが、触手が炭化したところで引っこ抜かれて再生されてしまっていた。

「これではキリがないな」

思わず距離をとったサフィーがため息をつくように言った。

どれだけ攻撃をかいくぐって触手にダメージを与えようが再生されてしまう。本体に攻撃をしても触手を盾にされてしまう。

「お二人の魔力はどれくらい保ちそうですか?」

俺たちは腕輪のお陰で海中での行動を可能にしている。その源になる魔力が尽きてしまえばそこまでだ。

「あたしは後三時間保つが、魔法を使用すれば縮まる」

「海面に浮上することも考えると、私は一時間も保たないかもしれないです」

「だとすると、早めに決着をつける必要がありますね」

今の状況ではクラーケンを相手に持久戦は不可能だ。豊富な魔力を持っている俺はまだしも二人が保たない。

ここでの戦闘だけではなく、帰る時間まで考えないといけないのだ。

「本体を攻撃しようにも触手が邪魔だ。だが、触手を攻撃してもすぐに再生されてしまう」

「過去の文献にはクラーケンに再生能力があるなどとは聞いたことがありません」

「ああ、あたしもだ」

そう、一番の障害は時間ではなく、クラーケンの異常ともいえる再生能力なのだ。

あれがなければ三人の攻撃で一気に討伐ができる。

だけど、この世界の住人である二人もクラーケンの再生能力については知らない。

あのクラーケンは新種の魔物なのだろうか。

もう少し調べてみるのがいいのかもしれない。

触手を蠢かせてこちらを警戒するクラーケンから更なる情報を願いながら鑑定を発動。

【クラーケン 状態(魔力活性)】

主に深海に生息する巨大な魔物。時折、海面に現れて船を呑み込むことがあり、船乗りから大いに恐れら

れている。

自らの領域に近付いてきたものには容赦はしない。

「うん? 魔力活性状態?」

鑑定してみるとクラーケンの基本情報よりも深い情報が出てきた。

「どうかしましたか、シュウさん?」

「鑑定スキルで調べてみると、クラーケンが魔力活性状態であると表示されたんです」

「なるほど、それであの異常な再生をしているのか!」

小首を傾げるルミアと俺をよそに、サフィーは納得がいったように叫んだ。

「どういうことです?」

鑑定スキルで調べるとわかるだろうが、サフィーなら簡潔に教えてくれるので敢えて尋ねてみる。

「あのクラーケンは何かしらの方法で豊富な魔力を得ていて、細胞の再生をしているのだ」

「つまり、あの異常な再生力は魔力のせいだと?」

「ああ、その通りだ。魔力の供給を止めてやれば魔力活性状態は収まり、再生できなくなるだろう」

この世界の生き物は魔力を得ることによって、身体能力が上昇したり、性質を変化させることができる。

あのクラーケンの再生能力も魔力によるもののようだ。

「魔力の供給なんて一体どこから……」

「それなら俺に任せてください。調べてみます」

ルミアが不安そうにしているが、それなら俺の得意分野だ。

これだけのヒントがあるのだ。調査と鑑定を使えばきっとわかるはず。

まずは魔石による調査スキルでクラーケンをじっくりと観察する。

俺の視界ではクラーケンの頭頂部に大きな魔石があるのが見える。

魔石は魔物であれば誰しもが持っているもの。あれが特別異変をきたしているようには見えない。

次に鑑定を発動してみるも先程と同じような文章の羅列が出てくる。しかし、俺が知りたいのは魔力活性状態にある理由だ。

俺がそう願って意識を絞ると、さらなる情報が出てくる。

【クラーケン 状態(魔力活性)】

体内にアイテムを取り込んでおり、そこから魔力が供給されている。

「……体内にアイテム?」

鑑定で出てきた情報を訝しみながらも、アイテムで検索して調査スキルを発動。

すると、錬金術師であるサフィーやルミアから反応はあるのは当然として、クラーケンの体内からも反応が見えた。

「見えました! クラーケンのそれぞれの触手の根元にアイテムが埋まっています! そこから魔力を吸収しているようです!」

「海を漂流していたアイテムを呑み込んだのか、沈没させた船から奪ったのか。どちらかは知らないが、種が割れたのなら攻略は簡単だ」

「根元にあるアイテムを壊しましょう!」

再生能力のカラクリがわかったからか、晴々とした表情でサフィーとルミアがクラーケンに接近していく。

クラーケンはいくつもの触手を槍のように突き出すが、それらは神殿の中庭に穴を穿つだけだった。

あの大きな丸い穴。バルバロイさんの船に空いていた穴によく似ている。

もしかすると、あのクラーケンがバルバロイさんの船を沈没させた犯人なのかもしれないな。そこから漏れたアイテムを拾って――いや、今は戦闘中だ。

このような考え事をしている場合ではない。

サフィーやルミアの後に続く。

クラーケンはヤギのような四角く水平になっている瞳孔をこちらに向け、四本の触手振るってくる。

それは先頬のような速さはない。質量で行き先を塞いで、確実に俺を捕えようとする動きだ。

元より触手を無理に当てたり、貫かなくても、絡めとってさえしまえば相手の勝ちなのだ。

クラーケンの合理的な思考には舌を巻きそうになるが、触手の動きが鈍いのであれば反撃も容易い。

「エアカッター」

迫りきる二本の触手を半ばから断ち切る。

切断された二本の触手が半ばから再生を開始している間に、俺はクラーケンの足の根元へと近づく。

当然、クラーケンは近付けまいと二本の触手を振るってくるが、それはルミアの機雷によって逸らされた。

残りの四本の触手はサフィーにかかりきり。

俺は触手の根元にシルエットとして見えているアイテム目掛けて、アイスピラーを発動。

素早く射出された氷柱は海水の中でも減衰することなく、触手の根元にあるアイテムを撃ち抜いた。

「オオオオオオオオオッ!」

クラーケンから漏れる重苦しい声。

切断されていた触手の再生が止まった。触手は元の長さになることなく、中途半端な負傷状態で維持されている。

「やった! 触手の再生がされない!」

「これならいけますね!」

触手が再生しないというのならこっちのものだ。

中途半端な長さになった触手目掛けて、再びエアカッターを放って根元から断ち切る。

海中にクラーケンの血液らしい、青い液体が噴き出した。

これで触手の数は残り六本。再生能力もなく、自慢の手数も減らしてやることができた。

クラーケンがぎょろりと瞳孔を向けてきて、六本の触手全てを伸ばしてくる。

さすがに巨大な触手が四方から覆い被さってくると逃げ場がない。

だが、触手を一塊にしてくれるのはこちらとしては非常に有難かった。

ゆらゆらと蠢く触手を一気に切断するのは難しいが、一塊でやってきてくれるなら容易い。

俺は豊富な魔力を注入して、巨大な風の刃を生成。覆い被さってくる触手にそれを放つと、六本全ての触手が切断された。

クラーケンは六本の触手を即座に再生――させることなく、断ち切られた触手をそのまま俺に振るってきた。

根元にあるアイテムを破壊しようと接近していた俺は、クラーケンの予想外の行動に驚く。

身体に負荷がかかるのを前提として、水魔法を最大出力で回避。

しようとしたが、そこに極硬魔石の盾を構えたルミアが割り込んできた。

触手が盾へと衝撃を加え、極硬魔石の強力な障壁が展開。

その防御力にクラーケンは触手ごとひっくり返る。

クラーケンの根元が露わになったので、俺はアイスピラーでそれぞれのアイテムを撃ち抜いた。

これで触手の再生は不可能だ。

「おっと、あたしのことも構ってくれないと寂しいではないか!」

唯一、攻撃を受けていなかったサフィーは今までにない魔力と雷を溜めており、隙を晒しているクラーケン目掛けて、最大級の雷を落とした。

膨大な熱量によってクラーケンは瞬く間に炭化し、脱力したように海底神殿の中庭に沈んでいった。

「これでクラーケンの討伐は完了ですね!」

「すごい魔法でしたね!」

「ありがとう。できればもう少し感傷に浸りたいところだが、あたしの魔力が限界だ」

ルミアと俺が駆け寄ると、サフィーは少し疲労の滲んだ表情でそう言った。

大きな魔法の連発によって、魔力が消耗しているのだろう。

このままではアイテムの維持すら難しくなる。

「では、すぐに引き上げましょう」

「いや、待ってくれ。せめて、クラーケンの魔石だけでも取るべきだ!」

それがわかっているはずなのに、サフィーは魔石を優先しようとしている。

「師匠? このまま海に沈んでも知りませんよ?」

そんなサフィーにルミアが迫力のある笑みを浮かべて言った。

海守の腕輪で海水の冷たさを感じないはずだが、何故か体温が下がった気がした。

「わ、わかった。引き返そう」

ルミアが本気で怒っていることがわかったのか、サフィーが渋々と頷く。

しかし、このままクラーケンの魔石や遺骸が放置されるのは心配だ。

またクラーケンを取り込んで、変異するような魔物も出没しかねない。

「クラーケンは俺が回収しますよ」

「シュウさん?」

物分かりの悪いダメな子供を見るかのような視線がルミアから向けられる。

注意されている傍からそんなことを言っているので、誤解されるのも仕方がない。

「大丈夫です。本当に一瞬ですから」

ルミアやサフィーは信頼に値する人たちだ。彼女たちならマジックバッグのことを教えても問題あるまい。

俺はクラーケンの遺骸に近付いてマジックバッグに触手の先を入れる。

すると、吸い込まれるようにクラーケンの体がマジックバッグに入っていった。

「もしかして、マジックバッグですか?」

「はい、黙っていてすみません。これでクラーケンは回収しました」

「もう、そんな物があるなら早く言ってください」

ルミアは俺の隠していた秘密を咎めることなく、恥ずかしがるように言ったのだった。