軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優勢から劣勢に

モンモンハンターでは依頼を受けて、採取に赴いたり、討伐したりする最中にモンスターと出くわすことは面白さの醍醐味ではあるが、いざ現実で起こると洒落にならないものだ。

海底神殿で軽い調査をするつもりだったのに、危険度Sの魔物と遭遇するとは。

「シュウ君、クラーケンはどこにいるかわかるかい?」

サフィーにそう頼まれて、改めて調査スキルを発動してみると真下で巨大なクラーケンのシルエットが見えていた。

「真下です」

「真下ですか?」

思いがけない居場所にルミアが目を白黒させる。

「神殿の下に深い海溝があってそこから触手を伸ばしているようです」

海底神殿の下には深い溝がある。恐らく、民家のところにあった亀裂と繋がっているのであろう。

奴はそこから入り込んで神殿の内部に住み着いていると思われる。

「このまま真っすぐ進めば穴があるので接敵できるかもしれません」

「こそこそと攻撃されると厄介だ。接敵して引きずり出してやろう」

それが一番厄介だ。下手に距離をとるとその方が危険だ。

どちらにせよ退路がない以上、距離を詰める他はない。

俺たちは礼拝堂から続く渡り廊下を移動して進んでいく。

すると、大きな中庭らしき場所に出てきた。

中央には大きな穴が空いていて、触手だけが不気味に生えて蠢いている。

あそこにクラーケンがいるのは間違いない。

「シュウ君はどんな魔法を使う?」

戦闘に入る前に確認をしたかったのだろう。サフィーが尋ねてくる。

「海の中なので氷魔法と風魔法で攻撃、水魔法を障壁や補助に使っています」

「十分だな。あたしは雷魔法とアイテムを使う」

雷魔法は風魔法の派生だ。

となると、先程の雷もサフィー自身で込めたものか。

海中であれほどの威力の魔法が使えるなら心強い。現に触手を焼き焦がしていたことだし。

「私はアイテムによる援護を中心にしますね」

「海の中で武器を振るうには厳しいからな。魔力や属性を付与した武器があるならいいが、ない現状ではそれがいいだろう」

ルミアの腰には以前と同じく剣を佩いているが、クラーケンが相手となると厳しいだろう。

あの巨木のような触手を前にしたら棒きれのようなものだ。

俺とサフィーでクラーケンに攻撃を叩きこんで、ルミアが遊撃や補助がいい。

「あっ、念のためお二人に装備をお渡ししておきますね」

そう言って俺が取り出したのは極硬魔石で作ったブレスレットと盾だ。

ドロガンに作ってもらった緊急用の防具を二人に手渡す。

ルミアには盾を、サフィーには腕輪を。

「……これは硬魔石で作ったのか? それにしては色合いが濃いようだが……」

さすがは素材にも精通しているサフィー。

これがただの硬魔石ではないと即座に気付いた。

「それは硬魔石に魔力を極限まで込めて加工したものです。一定の衝撃が加わると、魔力障壁を展開する効果があります」

「なんだって!?」

「つまり、これで攻撃を受ければ守ってくれるのですか?」

俺の説明にサフィーが驚き、ルミアが目を瞬かせた。

「そういうことです」

「……硬魔石に魔力を込めるとそのような物に変質するのか。シュウ君、極硬魔石が残っていれば、融通してくれないだろうか? 身を守れるアイテムが作れる気がする!」

サフィーが鼻息荒くしながら頼んでくる。

酷く興奮しているのか距離がかなり近い。

「いいですけど、それはここから生き延びられたらの話ですよ」

「これだけ創作心をくすぐられる素材を前にして死ぬなどあり得ない!」

サフィー熱のある叫びにつられたのか、蠢いていた触手が伸びてきた。

「きました! 散開します!」

三人が固まっていてはいい的だ。

ルミアの声を合図に俺たちはバラバラの方向に逃げる。

しかし、クラーケンはさらに触手を増やしていずれもの方向に攻撃を仕掛けてきた。

俺はそれぞれに付与している水魔法の噴射力を上げた。

推進力の上がった俺たちは水中であっても、自在に動き回って回避。

俺たちは海守の腕輪の力――魔力を全身で覆う事によって海中での活動を可能にしている。

もし、膜を破られるようであれば、たちまち保護が解除されてしまう。

即座に魔力を込めて張り直せば問題はないが、このような魔物を相手に一瞬の隙は命取りだ。攻撃を掠ることも許されない。

元よりこんな触手にでも掴まってしまえばあっという間に握りつぶされる。どっちにしろ攻撃を食らうことは許されない相手だった。

触手が通り過ぎる度に耳元でブオオンという音が聞こえる。

海中の中であっても鮮明に音が聞こえる。一体、どれほどの速度で動かしているのか。

「インパルス!」

サフィーが攻撃を躱して触手に雷魔法を放つ。

するとクラーケンの触手の一本が焼き焦げた。

どうやらサフィーの魔法はクラーケンに相性がいいようだ。

初級魔法には載っていないので中級、あるいは上級の魔法だろう。中々の威力だ。

「えいっ!」

ルミアも襲い掛かる触手に丸いものをバラまいていた。

それらは触手にぶつかると次々と爆発していく。

水中機雷のようなものだろうか。サフィー魔法ほどの威力はないが随分とおっかないものを持っている。

そうだ。本体が姿を現していなくても触手に攻撃を加えてやればいい。

巨木のような触手が鞭のようにしなってくるが、魔法による補助のお陰で機動性は俺たちの方が優れている。

「エアカッター!」

襲い掛かる触手の横から魔力を多めに込めた風魔法を射出。

風の刃は海中を切り裂いて直進し、クラーケンの触手を半ばから切り裂いた。

二本の触手にダメージを受けて怒ったのか、クラーケンが触手を激しく振り回しながら穴の中から出てきた。

【クラーケン 危険度S】

鑑定してみると視界に名称が表示された。

見た目はどう見てもタコ。

しかし、俺たちが知っているものよりも、それは遥かに――

「……大きい」

足を広げて海中を浮遊する姿はクラゲのように見えた。

大量の吸盤がある触手を蠢かす姿は生理的嫌悪感を抱かせる。

食用として食べることに忌避感はないが、これだけ大きさはきついな。

「穴から出てきたようだな」

サフィーは怖気づくことなく面白そうにクラーケンを眺めていた。

このような魔物を相手にしても顔色を変えないとは肝が大きいのか。それともアイテムに使える素材としか見ていないのか。どちらかというと後者のような気がする。

「今の攻撃で触手の二本をダメにしました。このまま触手を減らしていければいけそうですね」

八本あるクラーケンの触手のうち俺が切断した一本と、サフィーが焼き焦がした触手はだらりと下がっている。ルミアが攻撃を加えた触手はまだ動かせるようだが、攻撃を繰り返していけば動かなくなる。

楽勝のように思えるが、本来ならば海中という圧倒的なアドバンテージで相手にすることもできない魔物だ。

しかし、水中でも問題なく行動できるアイテム持ちが三人もいるのが大きい。全員が遠距離攻撃の使い手でもあるし。

一撃貰えば死んでしまうような危険な相手であるが、このままジリジリと触手に攻撃を加えていけば優勢に……。

「クラーケンの様子が変です!」

海中でもよく通るルミアの声によって、俺は現実に引き返される。

海中に浮遊するクラーケンは触手を動かして、自らの体に巻き付けた。

具体的には負傷した触手に。

「なにをする気だ?」

クラーケンの得体の知れない行動を訝しんで、俺たちは警戒心を引き上げながら見守る。

クラーケンは自らの触手で負傷した触手を引っこ抜いた。

突然の自傷行為に驚いていると、引っこ抜かれた根元から新たな触手が生えてくる。

ポコポコと細胞が盛り上がり、一瞬のうちに変わらぬ巨大なものへと。

「触手が再生して……」

「クラーケンって再生能力があったのですか?」

「いや、そんな情報は聞いたことがない」

サフィーから余裕のある笑みが崩れ去り、真剣な眼差しへと変わる。

後方にいるルミアも同様を隠せない様子だ。

触手に攻撃を与えてドンドンと数を減らしていけばいいと思っていたが、再生されるとなると話が違う。

これはマズいのではないだろうか?