軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37 学会と帰路

「それではこれで私の研究紹介を終わります」

発表を終え、演者が壇上から降りていく。

今の研究は中々面白かった。

学術的にどうかは俺には判断が付かないが、内容のインパクトは俺にも理解できるものだった。

どんな内容だったかと言うと、竜が用いる技の一つ「 竜の咆哮(ドラゴンズロア) 」を魔法で再現するというものだ。

この攻撃は竜の持つ最強の攻撃方法であると言われているらしく、咆哮に魔力を乗せ指向性を持たせてぶっ放す、純魔法の極致にあるような技なのである。

ブレスとは違い属性的な性質を持たないためこれほどの威力を実現できている。

その予測の下、魔法的再現と純魔法的な攻撃魔法の威力追究を行うというのが、この研究の目的のようだった。

結果、できあがったのは純魔法の極致のような魔法である。

まあ当然と言えば当然だが、非常に魔力を消費する事に目を瞑れば、魔法抵抗の高い魔物ですら消し飛ばすほどの威力を叩きだす事に成功したらしい。

面白かったのは魔法として成立させるために魔力放出の方法や形状を検討すると、どんどん 本物(ドラゴンズロア) に似てきたという話だろう。

最初はエナジージャベリンのように魔力を打ち出すところから始まったのが、最後には風魔法で咆哮を再現するところまで行ったらしい。

音波に乗せた魔力が非常に魔力的収束制御効率に優れている事を発見したくだりなどは、会場が驚きにどよめいていたくらいである。

演者としても興味深い発見だと思っていたのか、その辺りを熱く語っていたのが印象的であった。

「では続いてエルメイル教授の発表に移ります」

俺が先の発表の内容を反芻していると、師匠の準備が整ったようだ。

司会が簡素な進行を口にし、いよいよ彼女が壇上へと上がってくる。

「おおっ」

師匠がキチっとした服を着ていて驚き、思わず少し声を上げてしまった。

普段は町娘的ファッションの上からローブを着ているだけだが、今は白のブラウスに臙脂色のジャケット、裾の広がった足首まで隠れるロングスカートという出で立ちである。

髪は後ろで一つ括りなのでいつもとあまり変わらないが、正装っぽい感じだと美人度が三割増しだな。

ちなみにいつもの町娘ルックというのは薄手の長そでシャツの上にチュニック、足首が見えるくらいの丈のスカートというものだ。

その服装だと堅そうだけどとっつき易いお姉さんな感じだが、今はデキる女という感じである。

そんな師匠に壇上からウインクされて不覚にもちょっとドキッとしたのは内緒だ。

俺を見つけたからそうしたんだろうけど、普段やらない仕草だし、今日は発表の日とあってえらくテンションが高いようである。

そして師匠の発表が始まり、俺は居住まいを正してその内容に耳を傾けるのであった。

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数日後、師匠やヘックス教授などお世話になった人への挨拶を済ませ、俺達はキンケイルへの馬車を待っていた。

俺としては学会の後、師匠に改めて時間を取ってもらって師匠の研究の解説とか、普通に魔法の習得に関する話をしたいと思っていたのだが。

学会で師匠が公にした情報は魔術組合でもかなりセンセーショナルな話題になっていて、彼女は今引っ張りだこになっているのである。

そうして会う時間もあまり取れないまま一日、二日と経った頃、師匠から手紙が届いた。

探索者である俺を自分の都合で留めておくのは時間の無駄だから、マイトリスでまた会おうという旨の手紙である。

それを見た俺の感想は「やっぱりだめか」というものだ。

彼女の研究成果はたぶん魔法史に残るものだろうし、色んなところで話を求められる事になるのは分かっていた。

予想していても残念なものは残念だが、師匠に気を使われてまで王都で時間を無駄にする事もないだろう。

そうして帰還を決めた俺達は、その翌日にはこうして旅路へと出る事にしたのである。

「それにしても、王都はあんまり観光とかしなかったなあ。時間が無かったのもあるけど」

「リョウ様はお勉強とか学会で忙しかったですものね?」

「忙しいって程でもなかったけど、あんまり興味が湧かなかったんだよな。まあ魔導列車が開通するらしいし、行き来がしやすくなったら来るくらいでいいだろ。ここには迷宮も無いし」

俺がワーカホリックみたいな事を言うとシータにくすくすと笑われてしまった。

馬車の待合所でそんな雑談を交わしていると、噂をすれば影と言うか、魔導列車の話をしていたのでそれに関連する知り合いが馬に乗ってこちらにやってくるのが見えた。

「誰かと思ったらやっぱりリョウじゃない。知ってる顔が見えたからきちゃったわ」

「ようマリネ、久しぶりだな。その様子だと、警備隊には入れたみたいだな」

果たして、現れたのはキンケイルまでの馬車の旅を一緒に過ごした、剣士マリネその人であった。

彼女は今騎乗しているが、街中で騎乗できるのは高位の軍人と一部の警備隊だけという事になっている。魔導列車の警備隊がなぜ街中にいるのかは知らないが、旅の道中に言っていた通り警備隊には入隊できたという事なのだろう。

「ま、あたしくらいの実力なら当然ね……と言いたいところだけど、実際は騎乗の上達が早かったから駆り出されてるだけなんだけどね。新参は普通は地味な下積みよ」

なるほど。

マリネは以前看破した時にSPが余っていたから、騎乗の訓練をした時にすぐに習得できたのだろう。

そう考えるとSPが無ければ一生技能を習得できない事になるがその辺はどうなっているのだろうか。

今更になってその事が気になり、マリネにそれとなく聞いてみると、どうも乗るだけならほとんど全員が騎乗できるようになるらしい。しかし騎乗での警邏や追跡など、馬術的に難度が上がる技術を習得できる者は一部しかいないようだ。

マリネは上達も早く見込みがあったため今は騎乗警備をして経験を積んでいるという事だな。

「元気そうでなによりだよ。ピールとは最近会ってるのか?」

「ぜんぜん。あいつはたぶん今、線路を作る真っ最中よ。あいつ技術なんてなんも持ってなさそうだから、穴掘りとかそんなんでしょうけど」

相変わらずピールへの評価が低い言動だが、これで何気に仲が良いから面白い関係である。

「そういえばあんた今日ヒマ? あたし早上がりだからどっか食べに出かけようと思ってたんだけど」

タイミング悪くマリネからのお誘いがあったが、残念ながら俺達は今日で王都を出るのだ。

って言うか馬車の待合まで来て分からなかったのか。

「すまん、見ての通りこれからキンケイルに戻るつもりなんだよ」

「ふーん残念ね。ズーグさんの腕が生えてるし、その事も話を聞きたかったんだけど」

「色々あったんだよ、色々な」

「まあいいわ。次に会った時の楽しみに取っておく事にする。それじゃあね」

俺が言葉を濁すと彼女は一瞬口をへの字に曲げたが、すぐに納得して馬首を巡らせた。

「しばらくキンケイルに居るから来たら言ってくれ、組合に言ったら伝わると思うから!」

離れていく彼女に俺が声を張ってそう伝えると、分かったとでも言うように手をひらりと振って、彼女は振り返らずに去っていった。

ピールもそうだが、キンケイルまでの馬車の旅で出会った二人も頑張っているんだな。

中々会う事も無いだろうけど、次に機会があればどこか飲みにでも行く事にしよう。

「今の方、どういうお知り合いなんですか?」

「ん? ああマイトリスからキンケイルへの馬車で一緒になってね。長旅は暇だったから色んな事を話したもんだよ」

「へえ……」

シータは興味ありそうな、羨まし気な反応である。

彼女は呪いで不自由していただけあって今は色んな事に興味があるお年頃だからな。

しかしこの話の流れは、微妙に話しづらかった あの(・・) 件について触れるチャンスかもしれない。

あの件とは要するにシータをマイトリスに連れていくという事である。

マイトリスは俺が召喚された場所という事もあって、俺はその迷宮の深部に行こうと考えている。

最終的にはトビーも連れて戻るつもりでいるし、それは彼が俺の奴隷である以上強制なのだが、少女一人をキンケイルに残していくのもあの兄貴にとっては辛いものがあるだろう。

そこで俺が考えたのがシータもマイトリスに連れていきそこで生活する、という事だ。

俺はシータに対してなんら強制力を持っていないが、これが円満なんじゃないかと考えていた。

ただ、それだと彼女が生まれ育った家を引き払う事になるんだよな。

それが引け目で、中々言い出せないでいた訳だ。

そんな中で巡ってきたチャンスなのである。

俺が意を決して彼女にその事を提案してみたのだが、

「一緒に連れていってくださるんですか!」

と意外なほど色良い返事が返ってきた。

どうやら彼女としても置いていかれるんじゃないかと不安を感じていたらしい。

こんな事なら早々に伝えれば良かったと少し申し訳ない気がするな。

子供に気を使わせるとは情けない。

「じゃあ、マイトリスに行っても皆で生活できるんですね」

「え?」

当然のようにこんな事を言うが、別にシータは俺の奴隷じゃないし、同じ街に居るならトビーと二人暮らしかと思っていたんだが。

まあ呪いのせいでひっそりと暮らしていた彼女としては、ここ最近の賑やかさは楽しかったのかもしれない。賑やかさの主な原因は俺(神威事件とか)なのがちょっと悲しいところだが。

俺としては、もしシータが同居人となって家事とかやってくれると死ぬほど助かる。

男やもめの暮らしはどうしても貧相で小汚くなるからな。

いや、俺だけかもしれないが。

とにかくその辺の話をトビー兄貴に振ってみると、

「そうっすね。宿代とかもバカになんないでしょうし、オレもそれが良いと思います。……俺ばっか便宜を図ってもらうのも悪いですしね」

という言葉が返ってきた。

こちらも奴隷なのに自由行動が許されてるのが気になっていたらしい。

悪い事じゃないはずだが、自分の立場を弁えていれば不当に高い扱いも気になるものか。

「じゃ、決まりだな。どうせ今後仲間が増える事もあるだろうし、ちょっと大きめの家を借りるのもありかもしれない」

「いいですね、大きなお家! お庭とかもあるんでしょうか。お野菜作ってみたいです」

シータは家庭菜園に興味がおありのようである。

どうせ何か月か先の話にはなるだろうが、馬車の旅は暇だし、色々検討する事にするか。

そうして、到着した馬車に乗り込んだ俺達は王都を後にし、キンケイルへの帰路へ着いた。

俺は探索の再開が近い事に不思議な高揚感を覚えながら、マイトリスでの生活の展望を皆と色々と話し合い、馬車の旅路を過ごすのであった。