軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 旅路その二

「くあぁあ、やっと着いたか」

「まだ二つ目の町ですよ旦那、先は長いです」

馬車の旅は長い。

町々を経由し、全部で二週間ほどの日程だ。

町と町の間隔は馬車で半日から一日というところだが、休憩を挟んでもずっと馬車に乗っていると体が凝る。

これが後十日も続くと考えると気が滅入るな。

観光できるような物珍しい場所があれば多少は慰めになるが、何の変哲もない町に期待するのも酷というものだろう。

「ま、そーだな。とりあえず、宿でも探すか」

「ええ」

馬車の出発は明日の朝なので、それまではこの町で過ごす事になる。

マリネとピールの二人とも一旦お別れだ。

俺達も三々五々散っていく乗客達の流れに乗って移動を開始した。

「旦那はどこか当てがあるんですか?」

「いや、無いな。こういう場合、どうやって探せばいいんだ?」

「俺も正直……まあ適当に飯屋でも入って聞いてみますか。そこが宿をやってる場合もありますし」

ズーグも長い事奴隷やってたからそういうのはあまり知らないわな。

適当に人を捕まえて聞くのでも良かったが、飯屋にも興味はあったのでその提案に乗る事にする。

「……お、あったあった。アレは飯屋だろ」

地面の露出した道をしばらく歩くと、料理っぽい絵の描かれた看板が目に入った。

店に入ると、中の様子は俺が定宿にしているギールさんの宿屋によく似ている。

空いている適当な席に座り待っているとウェイトレスがやってきて注文を取っていった。頼んだのは日替わり定食。おすすめだって言ってたし、選ぶの面倒だから別に良いよな。

「変なの出されても知りませんよ。残り物出してる所だってあるんですから」

ズーグはこんな事言っているが、変なもん掴まされるのも旅の楽しみ……という事にしておこう。ちなみに彼はちゃっかり魚定食を頼んでいた。

「はいお待ち。合わせて八十ゴルドだよ」

「はいじゃあこれ。……ちょっと質問があるんだけどいいか?」

料理を持ってきたウェイトレスに代金を支払いながら宿の事を聞いてみた。

ちょっと忙しそうなので気が引けるが、仕方ない。

「今日の宿ねえ。それじゃあ三軒隣りのとこがいいんじゃない?」

ウェイトレスのお姉さんは顎に人差し指を当てて少し考えてからそう答えた。

割と近くにあったんだな。

「じゃあ飯食って行ってみるか」

「そうですね」

俺達はささっと飯を食い、宿屋へと向かった。

ちなみに日替わり定食はしっかり煮つけられた肉野菜煮込みだった。

残り物かは知らんが味は当たりだったので良し、だ。

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夜が明けた。

朝食をいただき、宿を出る。

「そのバッグ、良い感じっぽいな」

「ええ、プレートメイルその他諸々詰め込んでますが、重量軽減はしっかり利いてます。肩紐が二本なのも持ちやすい」

ズーグがよっこいせと担ぎ直したマジックバッグは、いわゆるリュックサックのような形をしている。

最初見た時はこの世界にもあるのかと思ったが、まあ同じような社会を持つ人間が暮らしてるんだったら、発明も似たものになるのは必然かもしれないな。と言うより俺が目にする殆どの物を違和感無く受け入れられている時点で当然か。

「高いんだから壊すなよ」

「その台詞、三回目ですよ」

ほっとけ。貧乏性なんだよ。実際貧乏だしな。

ズーグと同じく自分の分の荷物を担ぎ直し、俺達は馬車の定着所へ向かう。

集まってきたピールやマリネと挨拶をして乗り込み、発車まではいつも通り雑談に興じる事にした。

昨日はマリネは剣術道場で他流稽古、ピールは半日雇いの仕事をして過ごしていたらしい。

「寝ずの荷運びはけっこう体に堪えたぜ。馬車が出たらオレは寝るんでよろしく」

「あんた前みたいにあたしの足に頭のっけたらぶん殴るからね」

お前らそんな事をしてたのか。

俺が寝てる時にやったのかもしれない。

マリネは健康的な体をしてるので太腿も実に肉付きがよろしい。

創作のファンタジーよろしく謎にミニスカだったり露出が多かったりする事は無いので、それが筋肉ガチガチかどうかは体験してみないと分からないだろう。

「前にのっけた時はどうだったんだピール」

「前はすぐに突き落とされたから分かんねえんだぜリョウ。……ま、心配なさんな。チャンスはじきにやってくる」

「ないわよっ!」

こんな感じでマリネにセクハラをかますのは意外と楽しい。

マリネが「女なんて捨てた」なんて寂しい事を言うのでちょっかいを掛けたら、ピールが乗っかってきて今に至っている。彼女の方も女扱いされてそんなに悪い気分じゃなさそうだし問題無いだろう(個人の感想です)。

男友達とワル乗りして盛り上がるなんて元の世界じゃありふれていたがこの世界に来てからは無かった事だ。

探索にかまけていたから当然だな。

こういう下らないやり取りは無意味に見えて、案外色々なモチベーションに寄与している。

鬱憤の溜まる社会人をやっていたらよく分かると思う。

そうでなくたって楽しければ気分は上向きだろう。

そうしてしばらく俺達は話をしていたが、夜勤明けのピールが電池切れで睡魔との戦いに勝てなくなった頃、馬車の発車の時刻となった。

「定刻になりましたので、王都行き定期便第十七号、発車します! 乗り遅れないようご注意ください! 繰り返します……」

馭者のおじさんが声を張り上げる。

マイクもスピーカーも無いアナウンスは結構大変そうだ。

魔法で拡声器みたいなものは無いのかとぼんやりと考えていた俺の耳に、甲高い声が聞こえてきた。

「―――って! 待ってーっ! その馬車! 王国行きのっ!」

遠くから走ってきたのは眼鏡の女性だ。

紫の長い髪を後ろの低い位置で一つ括りにしていて、それが走る振動で左右にぴょこぴょこ跳ねている。

って言うかあの人どこかで見た事あるんだが。

「はぁ、はぁ……ぅゲェっほ……ま、間に合ったぁ……」

「大丈夫ですか? 貴方が乗ってから発車しますので、落ち着いて息を整えてください」

馭者さんの優しい言葉に促され、 嘔吐(えづ) いていた女性は胸に手を当てて深呼吸する。そうして下を向いていた顔を上げれば……、

「おや、若人じゃないか。奇遇だね」

にっこりと笑うその人はエルメイル武具店の店番、魔術学園の教員、アルメリアさんその人であった。

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「へえ、アルメリアさんって学校の先生なのね」

「先生なんて大それたもんじゃないさ。しがない研究者だよ」

走り出した馬車の中で相も変わらず俺達は雑談に興じる。

今日はその中にアルメリアさんが混じってるが、どうやら彼女は王都で開かれる魔術学会に出席する予定らしい。

「いやあ、夜遅くまで起きてて昨日の便を乗り過ごしちゃってね。今日もギリギリだったけど」

こめかみを掻いて照れながらアルメリアさんが言った。

時間にルーズなのは何となくイメージに合っている。たぶん夜更かしも研究の事を考えていたんだろう。

「それにしても、マイトリスで探索に邁進していた君が第一迷宮に鞍替えとはね……いや、分かったぞ……」

どこでもやりますアルメリア迷作推理劇場。

この後「君の到達階層は地下六階、マイトリス迷宮の七階からは~」と続いていくが、いつも通りすれすれを狙う見事な迷推理だった。

「……ん? どうしたピール、にやにやして」

「いや、美人が二人並んで話してると眼福だって思ってな」

指で 『』(かぎかっこ) を作って何しているかと思えばそんな事か。

まあ、言いたい事は分からなくもないが。

マリネの猫目で勝気そうな感じは好みを分けるかもしれないが、目鼻立ちがはっきりしていて美少女の類だ。

アルメリアさんは全体では堅い印象だが、鼻筋の通った美形である。眼鏡が邪魔していてぱっと見では分からなかったが、そういう目線で改めて見たら美女と言って差し支えないだろう。今日は結い上げ髪じゃなくてお下げなのも印象の違いに影響しているかもしれない。

俺がそんな風に(ピールと一緒になって)彼女たちの容姿を品評していると、向こうも気付いたのか二人して眉根を寄せた。

「あんたら人の顔見てあれこれ言っていいご身分ね! まったく……」

「まあまあマリネ、向こうから仕掛けてきたんだから、こちらもやり返してしまえばいいのさ」

インガオホーか。

まあ所詮は退屈な馬車の旅の暇潰しである。

興味もあるので俺とピールはおとなしく二人の批評に耳を傾ける事にした。

「リョウは……あんた、意外と男臭い顔してたのね」

なんじゃそら。

意外とって今まで見てなかったのかよ。ちょっと傷付くぞ。

「ははは、確かに私もそんな感じだ。もっとすっきりした顔立ちのイメージだったんだが……眉がくっきりとしていて、輪郭もゴツい系だね。二重で目も大きい」

「なんかそれだけ聞くとちょっとイケメンみたいだな」

「でもなんか印象薄いのよねえ。髪が邪魔なんじゃない? もっと短くすれば?」

えー、そういう理由なのか?

まあパーツは良いとの評価(でいいんだよな?)を受けたので、髪を短くするにやぶさかではない。今はがっつり眉が隠れるくらいの長さだが、正直ただ横着して切ってなかっただけだしな。

ちなみにマイトリスでは、髪は宿屋の娘エイラに切ってもらっていた。

「それで? 俺は俺は?」

「あんた? あんたは……」

「俺は……?」

「よく見たら垂れ眉ぎみでなんか優柔不断そう。却下ね」

「えええええ! 却下ってなんだよ却下って!」

最後にピールでオチがついて、一同に笑いが生まれる。

申し訳ないが彼はこういう役回りだ。

後でこっそり慰めておこう。もしかしたらそれはマリネ本人がするかもしれないが。

こうして馬車は進んでいく。

旅路はまだしばらく続くが、こいつらとなら退屈もあまり気にならないかもな。

時間はあるし、この機会にアルメリアさんに魔法の事を聞いてみるのもありかもしれない。

捨てるような呪文書があったら譲ってもらえないか掛け合ってみようか。

そんな事を考えつつ、ズーグの方にちらと視線を向ければ彼もニヤりと笑い返してくる。

そうだな。どうせ迷宮都市についたら戦いの日々なんだ。

束の間の平穏を楽しんでおけってこったな。

適当に、そうするとしよう。