軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 旅路その一

ゴトゴトと馬車が進んでいく。

乗合馬車の窓から外を見れば、手前には川、その向こうに丘がある。

今俺が乗っている馬車は川に沿って伸びている道を走っている状況だ。

そして……、

「あれが魔導列車の通る道ですか」

「みたいだな。レールは一本なのか」

馬車の走る道のそばに敷設されているのが魔導列車が走る(予定の)レールのようだ。

作業員が工事している所が見えるが、元の世界とは異なり一枚の板を並べて土に埋め込んでいるだけである。そもそも元の世界で列車が二本のレールの上を走るようになった理由も知らない俺だが、あの板の上をどのようにして走るのかはちょっと興味あるな。

第一迷宮都市キンケイルへの道のりはそこまで鍛錬もできないだろうし暇になるのは目に見えてるので、調べるのも良いかもしれない。

「兄ちゃんら、魔導列車に興味あんのかい?」

「え? ああ、どんな風に走るんだろうって」

突然話しかけてきたのは群青の髪色をした青年である。

馬車の速度はそれ程でもなく、マイトリスからキンケイルまでの間に点在する町々を巡る道中は暇の一言に尽きる。

なので馬車内で道連れになった者同士、こうして会話する事はよくある事だった。

「なんでもあの板と引き合う力を持つ板に、荷物を載っけて運ぶらしいぜ」

「へえ、よく知ってるな」

というか魔導列車はリニアじみた感じの乗り物らしい。

凄いな異世界とファンタジー。

「オレもよ、王都で作業員やら何やら募集があるらしいってんで向かってるところよ」

「確かにさっきも工事の人が一杯居たし、働き口は多そうだよな」

工事の作業員は当然の事、荷物の積み下ろしや設備の保守等、これから死ぬほど人手が必要になるだろう。

産業的に成功したから列車網の拡大が計画されたとマルティナさんは言っていたが、もしかするとそれ以上に公共事業的な意味合いもあるのかもしれない。

こういう立ち上がった直後の新規産業に関わって働くのも結構楽しそうだよな。

色々問題も多くて苦労しそうだが。

「けどあの板ってあんなとこにポンって置いてて誰も盗んだりしねえのかな。お、俺はやらねえけど食い詰め者なんてどこにでもいるだろ」

例えばこういう問題とかな。

確かにあの板は魔導具の類だろうし、売ったら高い値が付きそうだ。

買い手がいるのかは知らんが。

「あんた知らないの? 警備隊も一杯募集掛けられてんのよ。あたしだってそれで王都まで行くんだから」

ほう、ちゃんとそういうのも考えられてるんだな。

ところであんた誰だ。

「あたしはマリネ。シュートの街から来たの。剣術道場に通ってたんだけど、傭兵ギルドに入るより良いかなって。あそこ臭いし」

俺が疑問の視線を向けると自己紹介が返ってきた。

長い赤髪のポニテ、気の強そうな目をした女の子だ。

この世界では戦う力が無いと生きていけないという事は無く、国軍がしっかりと国民を守っている。逆に言えば国軍には常に働き口があるので、こうして武術を身に着けて身を立てる事を考える人も居るようだ。

後は全く魔物が出ない訳でもないので、民間により近い傭兵ギルドが存在し、細々とした依頼を受けているらしい。戦争があった頃と比べると下火らしいが、戦う力を持つ者は傭兵として働く道もあるみたいだな。

探索者組合とはまるで関係の無い組織なので特別調べたりはした事無かったが、予備知識にあった情報である。

しかし……傭兵ギルドって臭いのか。

まあ男の園っぽいし、武芸者でも女の子には嫌な場所なのかもしれないな。

「俺はリョウ。迷宮探索者だな。こっちは俺のチームメンバーのズーグだ」

自己紹介とズーグの他己紹介を適当に済ませる。

ズーグは頷いただけだ。他人とズーグの会話シーンはこれまでもあまり無かったが、この反応が奴隷として一歩引いてるだけか根っからこういう感じなのかは不明である。

「オレはピール、よろしくな」

群青の髪の青年からも自己紹介があった。

キンケイルより先の王都まで乗る彼らは俺の道中の全行程を共にする人間だ。

仲良くしておいて損は無いだろう。

「それにしても、迷宮探索者ねえ。あんたそんなに強そうに見えないけど。お連れさんはともかくね」

「旦那は俺などよりはるかに強いぞ」

マリネの侮りの視線に、ズーグがのっそりと身じろぎしてそう返した。

フォローを入れてくれるのは嬉しいが、こういう勝気そうなヤツにそんな事言うのはやめていただきたい。大体その後どうなるか未来が見えるからな。

「へえ、じゃあ後で手合わせしない? 探索者の力量にもちょっと興味あるのよ」

ほーらな。

暇つぶしには良いかもしれないけど、魔法技能は大っぴらにしたくないし、近接戦闘は苦手な部類だ。

この子の強さがどれほどのものかは看破で大体分かるが、正直勝てない気がする。

ちなみにステータス画面の表示はこんなもんだ。

【ステータス画面】

名前:マリネ・エスタム

年齢:18

性別:女

職業:剣士(12)

スキル:片手武器(5)、剣使い(5)、体術(2)(SP残1)

若い割に結構強い。レベル5は中堅探索者と同等の技量だからな。

SPが残っているのは余程剣一筋にやってきたという事だろう。

俺の近接技能は片手武器(3)と体術(3)なのでまず負けるだろうな。

「手合わせはあんまりやりたくないな。俺は接近戦が苦手なんだ。回復薬ももったいないし」

「なにそれ、探索者のくせに。魔法でも使うって言うの? それともズーグさんにいつもなんとかしてもらってるとか」

「魔法だな。まあ力試しがしたいならこのズーグさんとやれば良いだろう。俺も近接技能は上げたいし稽古なら参加するのもやぶさかじゃないが」

ズーグは微妙に嫌そうだがここは主人の命令という事で聞いてもらうとしよう。

素の身体能力はズーグが勝っているが、スキルは互角、片腕片目のハンデがある。

今は使えない槍スキルや長年の戦闘で培った経験でどこまでやるのか、ちょっと興味が湧いてきた。

「ふーん、まあズーグさんでもいいわ。次の休憩の時やりましょ」

「道具はあるのか?」

「道場で使ってた木刀があるわ。一本は予備だからちょっと汚いけど、使う分には問題無いはずよ」

そういう訳で、しばらく後に取られた休憩場所で、俺達は試合をする事になった。

少し体を動かして解した後、ズーグとマリネが対峙し……、

果たして決着はズーグに軍配が上がった。

それはもう清々しいまでの力押しゴリ押しでの勝利である。

技もクソも無い戦い方に当然マリネからはめちゃくちゃ文句が出たが、

「力押しを捌けない者に技術を使っても仕方が無いだろう」

とズーグが返し黙らせた。

マリネは顔を赤くしてプルプル震えていたが、まあ俺との戦いで留飲を下げてもらう事にしよう。

「じゃ、じゃあ今度はあんたね。手加減しないから」

「手加減はしろよ。ただの手合わせで怪我なんて馬鹿らしいだろ」

互いに剣を構え、向かい合う。

マリネは上背は無いが別に華奢な印象は無い。女性にしては筋肉もついている方だろう。

戦いを始めて半年経ってない俺と比較して、腕力の差はどれほどか。

想像は難しいが、それでも男と女だ。せめてそこくらいは勝っていてほしいところである。

「いくわよっ!」

「はあっ!」

キンキンキンキンキンキンキンキン!

はい、そんな音は鳴る訳がありませんね。木刀同士だもの。

結論から言うと、俺は負けた。

けどズーグVSマリネの時よりはいい勝負だったと思う。

やっぱりと言うか、体格と性別の有利により腕力は僅かに俺が勝っていた。

しかし技術はどう考えても相手の方が上だ。

こっちの打ち込みは捌かれ相手の打ち込みは回避できない。それを何とか腕力で受け止めて、押し返してという戦いになった。

「はあっ、はあっ……勝負あったわね」

「ふう、そうみたいだな。あー疲れたー」

剣を払われ喉元に剣先を突き付けられて負けを認める。

マリネの顔は運動後で朱が差しているが、満足げな表情だ。

「あんた、意外とやるわね。剣術では負けてないけど、なんか強かったわ」

「そりゃどうも。探索者の意地ってやつかね」

「ふーん」

まあ意地とかは関係無いが、剣術以外の所でなんとか勝てないか画策していたのは事実である。

例えば僅かに勝っている体術スキルによる間合いの出入り。これは空間把握も非常に役立った。後は並列思考で俯瞰した戦術を客観的に考察してみたり。

いつもは魔法魔法アンド魔法のために使っているリソースを惜しみなく近接戦闘につぎ込んだ訳だな。

思いの外動けて俺も何気に満足である。

「探索者って落ちぶれた奴がなるイメージだったけど、思い違いだったわ」

「そういうもんか」

言いながら見物していたピールに視線を向けてみると、頷きが返ってくる。

「そうだなあ。まあ、他に何もできねえやつがなる職業ってイメージはあるかな。結構稼いでるやつがいるのも知ってるけど」

そういうイメージらしい。

まあよく知らない職業に対してなら、実情と印象が違う事もあるだろう。

俺だって、屠殺業者とか廃品回収とか、物凄い偏見だけど底辺なイメージ持ってるし。実際には稼いでそうなところも同じだ。

「じゃ、そろそろ戻るか。休憩も終わりの頃だろ」

「そうね。これからも稽古はやりましょ。ズーグにだってリベンジしたいし」

俺もそれには異論はない。

体を動かすのは非常に気分転換になった。

一日中馬車に乗ってると体はこるし気分も塞いでくるからな。

変わった風景とかがあれば良いんだが、見慣れてしまえば殆どは代り映えのしない景色だし。

俺達は馬車に戻り、第一迷宮都市、そして王都への旅路を再開するのであった。