作品タイトル不明
128 邪神の倒し方
「この悪魔たちは……全て敵になるって認識でいいのかい?」
俺の話を聞き終えたアルメリアから、フェリシアにそんな質問が飛んだ。
正直これについては俺も気になっていたんだよな。
四悪魔はいずれも一度滅ぼされている存在だから、敵として出現するならば復活ということになる。その復活の可能性がどれくらいか、その要因となるだろう瘴気の状況――ひいては迷宮の現在の状況についても聞いておきたいと思っていたのである。
「可能性としてはありうるわよ。でも封印の破壊に必要な瘴気の量を考えれば、確率はかなり低いと思うわ。余剰の瘴気を使っても、恐らく多くて二体くらいになるんじゃないかしら」
現在、迷宮の瘴気を削っているのは主に探索者たちである。
フェリシアが邪神から瘴気を吸い出して魔物へと変換し、それを狩ることで邪神を消耗させているという訳だ。
「それについてちょっと質問があるんだが、邪神の封印が解けるのをもっと先延ばしにすることはできないのか? 精鋭部隊の北方大討伐が完了したわけだし、これから迷宮内の魔物を訓練相手にすることになるから、瘴気削りの手数も増えるわけだろ?」
「残念なことに、私が邪神から一日に奪い取れる瘴気の量はもう上限近いのよ。それに比べて、活性化した邪神が生み出す瘴気の量は多い……リミットに近づく速度が遅れているだけで十分と考えるしかないわ」
「そうか……具体的に、あとどれくらい 保(も) ちそうなんだ?」
俺の質問に、フェリシアは少し考え込む。
これまで彼女は、明確な期限を口にすることを控えてきた。それは彼女の力をもってしても、それを推定するのが困難だったからということが理由のようだ。だがそろそろ俺たちとしても、目標地点を定める必要があるだろう。
「恐らく、今のペースなら二、三年くらいかしら。ただ、貴方が私と出会った時点からペースの落ち方が不自然なのよね……」
「それは探索者の活動が活性化が理由じゃないのか? 奪える瘴気は上限まで来てるらしいけど、それだって以前より多いわけだろ?」
「それを考慮しても、よ。もしかしたら意図的に封印への圧力を抑えてるのかもしれない。邪神側が封印の外……つまり迷宮や迷宮外部のことを知る方法は無いと思うんだけど……」
邪神側にこちらの情報が洩れている可能性か。
その推測は正直ぞっとしないな。
不確定要素を排除するために、できれば不意を打って一撃、という形にしたい。
「まあ、それについては今ここで考え込んでもしかたないか」
「そうね。私の方でもう少し調べてみることにするわ」
俺の結論に、フェリシアが頷く。
「そういや、一つ気になってたことがあるんだ。……邪神って 神降ろし(コールゴッド) でこの世界から追い出す訳だろ? それって戻ってきて終わり、って感じにならないのか? 今一つ解決にならないんじゃないかと思うんだが」
それは俺の素朴な疑問だった。
フェリシアはコールゴッドで邪神を倒すと言う言い方は一度もしていない。あくまで彼女が言っているのは、この世界の外側に追い出す、ということだ。
それは確かに俺たち人間にとっては大した出来事だろうが、邪神のような存在への対処として効果があるのだろうか。いよいよ それ(コールゴッド) の使用が近づいてきて、効果について考えることも増え、そう思うようになったのである。
「あー、その辺は少し誤解があるかもしれないわね……。神、というのをどう定義するかにもよるんだけど、虚神や邪神は『神』の名前がついていても、実際はいわゆる神様――例えばこの世界の創造神のような存在とは、神格がいくつも劣る存在なのよ」
苦笑して話すフェリシアによれば、どうやら虚神も邪神も 世界間転移(ワールドトランスファレンス) に耐えられる格は無いらしい。
「もちろん、アーテリンデから聞いた話ではあるけど、信憑性は高いと思うわ。それで……貴方には以前話したと思うけど、世界間転移は神にしかその衝撃に耐えられない、つまり」
「世界間転移でこの世界から追い出しつつ、その衝撃でダメージを与えると」
「そういうことね。無理矢理に転移させるわけだから、その抵抗分のダメージも入ることになる。その回復には時間がかかるでしょうし、戻ろうとするには神の位階に昇らなくてはならない」
結論として、何千年か何万年かは分からないが、邪神から人類への干渉を断つことはできると、そういうことらしい。
「というかそもそも、 ア(・) イ(・) ツ(・) らこの世界で発生した存在なのか」
世界間転移ができない存在である。
ということはすなわち、外の世界から入って来たものではないということでもある。
虚神はともかく、邪神もこの世界に産み落とされた存在だというのは、なんか嫌な気持ちになるな。
「状況証拠からして、そういうことになるわね。元は生物だったのかも」
フェリシアのそんな感想に面々も微妙な表情だ。
そうだとして一体あれだけの存在になるのに、どれだけの時間を費やしたのだろうか。
そしてそれだけの時間を費やしたのに、あれほど歪んでしまったのは何故なのか。
それこそ考えても仕方ないことではあるが、悠久の時をもって育まれた悪意に晒されている俺たちからしてみれば、迷惑極まりないと言う外ない。
邪神(アイツ) の栄養になる恐怖ではなく辟易した感情に近いのが、唯一の救いだなと、そんな風に思った。
閑話休題。
話を戻して、直接相対する四大悪魔への対処についてだ。
と言っても詳細はアトラさんの調査が終わってからになるわけだが。
「今分かってる範囲だと、刃と血の悪魔については俺が直接対決できれば簡単に倒せそうだな」
技量が高く、自己強化を行える。
軍勢で正面からぶつかれば被害は大きいし、強化の糧になってしまうだろう。
けれど俺の新しい魔法……特に 小転移消滅(ポータルバニッシュメント) なんかは、回避も困難で防御を無視できるから相当に効果がありそうだ。
「直接対決できるならどれが相手でも大して違いはないんじゃないかい? 問題はどうやってそこに持ち込むかだろう。準備できる魔法があれば作っておきたいから、アトラさんは調査できたところから順次私のところに報告に来てくれると嬉しい」
アルメリアの意見に賛同が集まる。
直接対決なら確勝できる……実際ウィスパーさんに与えられた情報と、俺の実力を想定すればそうなのかもしれない。
ただ、それは果たして本当なのだろうか。
何か不確定なことが起こって、それに対して最後に頼れるのは俺自身の力だ。
だから俺は……大魔法の発動を今日得ることができて、自分の中で考えていた計画を一つ、進めることを決めた。
もしかしたらアルメリアには怒られるかもしれないが、それでもいい。
他の面々が今後の予定などを詰めているのを横目に、俺は資料に載ったその魔法の術式を、じっと見つめていた。