軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話:天樹の落露

◇蒼井 奏side◇

「遅い……」

恵ちゃんが呟いて時計を見上げる、それに釣られ私も時計を見上げる。

「そうだよね……」

夕刻の鐘が鳴って1時間、いつもなら旦那様が迎えに来て帰宅の途に就いているのだが未だに来る気配が無い

「また何かあったのかな? 初日みたいに……」

恵ちゃんがため息をつく、彼女が言っているのは講習初日に旦那様が急に 第三王子(アラテシア) 様との面会が発生して遅くなったというちょっとした事件だ。

「でも、あの時はお城からの連絡があったんだよね」

「そうだね、その時はミラさんが教えに来てくれたし……ってはーい!」

話している途中に扉がノックされる、恵ちゃんの答えに入って来たのは青い顔をしたミラさんだった。

「お二人とモ、その場はそのままで良いのデ、至急ついて来て下さいますカ?」

「はい、どうしたんですか?」

「何かあったのでしょうか?」

私達はミラさんに連れられギルドの奥へ向かう、段々と薬品や薬草の匂いが立ち込めてきた。

「こちらでス……」

ミラさんによって空けられた部屋、その中は鉄の臭いが充満していた。

「そんな……」

「嘘っ……!」

そこに居たのは 飛翔(つばさ) 君だった、止血帯を宛がわれているが溢れ出た血によって木のベッドの下には水溜まりが出来ている。

「ホウショウさんは路地裏で暗殺者に狙われましタ、辛くも相手を倒せましたがその毒によって出血が止まりませン。ただいま治療院から治療術師を呼んでおりますガ、間に合うかもわからない状態でス」

ミラさんの言葉が耳に入って来る、だが私の頭はその言葉を考える事が出来ない……。

(嫌だ……どうして……)

また、わたしから奪うの……?

(嫌だ……いかないで……)

また、わたしから奪うの……?

(そんなの嫌だ……)

また、わたしから奪うの……?

(奪わせない……)

また、わたしから……奪わせない!!

(なに……これ……)

私の中から何かが沸き上がる……。

(今なら……私なら!)

「ちょ! あおっ……ネモフィラ!」

駆け寄り、抱き付き頭に重い浮かんだ言葉を……繋ぎ合わせる……。

「『見えざる 生命(いのち) の 光輪(こうりん) よ、 廻(まわ) れ 廻(めぐ) れ。その力は命の 環(わ) に白き 軌道(みち) を繋ぎ。すべての傷を癒す清らなる雫となれ―― 天樹の落露(てんじゅのらくろ) !』

言葉を紡ぎきると同時に、私の意識は闇に落ちるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

◇ホウショウside◇

「うっ……俺、生きてるのか?」

昔良くお世話になったギルドの医務室の天井が視界に入る、どうやらあの暗殺者との戦いの後、助かった様だ。

「いぎっ! さすがにまだ体は動かせないか……」

ビキビキビキと痛みが走る、肩口から頸動脈までを切られたので仕方ない、傷口よりも内部が痛いのでぼうっと天井を眺めている、すると暫くして扉が開いて誰か入って来た。

「おー、目が覚めたか」

軽い感じで入って来たのはアインだった、手には造血ポーション含めた複数のポーションを持っている。

「アイン、お前が助けを呼んでくれたんだな?」

「間に合ってよかったよ、丁度巡回をしてる衛兵達も近くに居たし」

「ありがとう、お前が来なかったら死んでたよ……」

「いやーそれにしてもお前、いつの間にそんな強くなったんだ? 相手はあの〝 死神の長(ネファキュル) 〟だったんだぞ?」

アインが青い顔をしながら言う、ネファキュルは暗殺や誘拐、殺しも受け持つ死神ギルドのトップだ。噂じゃ元金等級上位で20年前に他の国のギルドで大量の冒険者殺しをしまくった大罪人である。

「マジか……見た目は子供だったし、そんな噂でしかない奴が?」

「あぁ、ウチのギルマスが確認したよ。昔、面倒を見た冒険者って事もあって覚えていたらしい、それから色々と話した上で判断したらしいぜ」

「いや、見た目は完全に子供だっただろ? まさかエルフなのか?」

でも、エルフも生まれてから20年で成人の姿になる、そうなるとあの見た目と辻褄が合わない

「そこはわかんないな、後でギルマスが見舞いに来るからその時にでも聞きな。さて……俺は帰るわ、嫁さん待たせてるし」

そう言って椅子を立ったアインは医務室のドアの方へ向かう。

「助かったよ、 奥さん(スズラン) さんにも今度謝りに行くよ」

「あぁ、そうしてくれ。心配してたしな、それじゃあ……っとお客さんみたいだな」

そう言って扉を出た、入れ替わりで三人分の足音が部屋に入って来た。

「よかった、目が覚めたのね……」

顔を向けると凄く心配した顔の 細野さん(ミモザ) が居た、うっすらと目元が赤いのは気のせいだろう。

「旦那様……良かった……」

何故かギルドの服を着た 蒼井さん(ネモフィラ) が俺の手を握りポロポロと涙を流す。

「ホウショウさん、無事でよかったです。お加減はどうですか?」

「あー左肩から首までが凄く痛いです。体の表面じゃなくて体の内が凄い鈍痛です」

「そうなんですね、ネモフィラちゃん。頼めるかしら?」

「はい、頑張ります!」

「無理はしないでね、さっきも魔力枯渇で倒れちゃったし」

「はい……『傷付きし体、私の魔力よ巡り癒して——ヒール』」

蒼井さん(ネモフィラ) の魔力が俺の中にじわじわと浸透してくる、普段の治療術師から受ける回復魔法より心地が良い。

「あ、痛みも無くなってきた……、これなら起き上がれそう……」

起き上がろうとすると三人に押さえつけられる。

「あのねぇ、運ばれた時は瀕死状態で血も止まらなかったのよ。無理しちゃ駄目じゃない」

「そうですよ、私の魔法じゃ血までは増えないんですから」

「特殊な毒だったみたいで、血が固まらない成分が入ってるそうなのです、なので当分あ・ん・せ・い、ですよ!」

「あ、はぃ……すみません……」

冒険者の性分で、例え怪我をしても動くのに問題無い分の治療や止血が出来ていればその場から移動するように癖付けているのだ。

「後、造血ポーションは飲んで下さいね」

「うっ……マジですか……」

「そりゃそうですよ。大きめの盥二杯分ですよ?」

それ、死んでない?確か人間って3割の血が出るとヤバいんじゃ?

「ヤバいですね……。うげぇ……匂いキツイ……」

「我慢して下さい、エルフに伝わるポーションがベ-スですので効果は良い筈です」

細野さん(ミモザ) に起こしてもらい、濃厚な血と薬草の臭いのするポーションを口に含む、吐きそうになりつつ飲み干すと、 細野さん(ミモザ) が水差しから水を入れてくれる。

「はい、旦那様」

「あ゛り゛が゛と゛う゛……お゛え゛っ゛……」

水を飲み干してもう一杯もらう、飲み干すとだいぶ口の中がマシになった。

「それじゃあ、私はギルマスを呼んできますね」

俺が飲んだのを確認すると部屋から出ていった。