軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第727話 護衛人形

俺たち行商待ち伏せ部隊は、南の街道沿いから森に入り込んだ場所に潜伏した。一か所に留まると敵に察知されるかもしれないので、時間ごとに位置を変えている。

《俺達の位置は分かるか?》

《掌握しています》

高台で監視しているギレザムに念話を繋げて、俺達の位置を確認させる。俺達がいる場所を間違ってミサイルで爆撃しないようにするためだ。

《そちらから見て村に変化ある?》

《特に何もないようです》

《了解》

俺とシャーミリアとアナミスの三人は周囲を警戒しながら、じっと行商人が来るのを待っていた。シャーミリアが気配を察知したら、距離が離れていてもすぐに襲撃する予定だ。そんな状態で待ち伏せをしてから、既に丸二日が経過している。

《ガザム、そちらは?》

《特に動きはありません》

ガザムは村周辺の警戒にあたらせていた。村に何か動きがあれば、待ち伏せ部隊はすぐにガザムと合流する事になっている。

《ルフラ、街道周辺はどうだ?》

《こちらも異常はないようです》

南に斥候として送ったルフラからも、同じような答えが返ってきた。

「ミリア。本当に行商なんて来るのかな?」

「村の人間を生かすのであれば、食料が必要ですので何かしら届くと思われますが」

「だよなあ」

俺は目の前の木の蜜に群がる昆虫を見ながら、暇つぶしをするように魔人達に状況確認していたのだった。俺の目にはバカでかいカブトムシ風の昆虫と、バカでかいクワガタみたいなのが映っている。前世の子供の頃は虫などに興味はなく、ひたすら武器を調べていた。こうやって改めて見てみると、虫もなかなかにカッコイイなと思ってしまったりする。

「今日も収穫無しかもね」

「はい」

「一応さ、七日くらい待とうと思ってんだけど、どう思う?」

「妥当かと」

「それまで来なければ、食料は他のルートで運び込まれてると思うんだよ」

「砂漠や森を通ってと言う事でございましょうか?」

「いや、転移とかね」

「あり得ます」

「そん時は、無駄になっちゃうな」

「致し方ない事かと思われます」

あまりにも暇すぎて、俺はずーっとシャーミリアやアナミスに話しかけていた。

「場所を移す」

「「は!」」

移動する時間が来たので、俺はシャーミリアとアナミスに指示を出した。西に移動すると街道が見えてきて、道には馬車が通ったような轍があり、行商が来ているのだと確認できる。雨が降らない為か、轍がそのまま残っているのだった。俺達は街道に足跡をつけないように、飛んで反対側に移った。

「アナミスは暑くないか?」

「問題ありません」

俺はヴァルキリーを着ているから暑くはない、シャーミリアも汗一つ書いていないが、アナミスは少し汗をかいているようだった。煽情的な服装の開いた胸元に、汗が一雫落ちてくる。

「周囲に転移罠があるかもしれないから気をつけろ」

「「は!」」

本来なら鏡面薬を使い転移罠を探して除去していくのだが、敵に察知されることを警戒し何もしていなかった。既に今日の作戦行動を開始してから八時間が経過しており、これまでの二日間でも転移罠などの確認は出来ていない。

「ここにしよう」

より深い草むらの中に入ると、シャーミリアがあっという間にその場所の草を刈り取る。俺はすぐにドローンを召喚して、周囲の地形を確認するのだった。

「飯にする」

「「は!」」

ガパン!俺がヴァルキリーから外に出ると、すかさずアナミスが虫よけのモヤを発生させた。俺が食事をしやすいようにしてくれているのだ。魔人達のおかげで、サバイバルをしているという気がしない。

「アナミスはいるか?」

「必要ございません」

「そうか」

アナミスは一日一回程度の食事でも十分に間に合うようだ。アナミスの本来の食料は人間の精だったりするので、普通の食事の栄養はそれほど必要としていない。どうやってナイスプロポーションを維持しているのか謎ではあるが、魔人なので考えるだけ損だ。シャーミリアに至っては何も食べずに、凄いプロポーションを維持してるのだから。俺はすぐに戦闘糧食を召喚し、缶詰を開けて口に入れた。ペットボトルの水で食料を流し込む。

「ご主人様。ヴァルキリーを装着するのは、有事になってからでもよろしいのではないでしょうか?」

「どうしてだ?」

「かなりお疲れの様子です」

「そうか?」

「そしてお休みいただいた方がよろしいかと思われます」

シャーミリアが俺の生体反応を感知して提案してくる。ヴァルキリーは魔力を消費し続けるので、装着しっぱなしだと魔力が減ってしまうのだ。さらに作戦に入ってから俺はほとんど寝ていなかった。少し体力が低下してきているのだろう。

「わかった」

俺が戦闘糧食を平らげると、アナミスが目の前にやって来る。

「それではラウル様。お休みなさいませ」

「わかった。何かあったら起こしてくれ」

アナミスから俺にモヤがかかり、すぐに眠りに落ちるのだった。

・・・・・・・・・・・

「ご主人様」

「おう」

シャーミリアの声に俺が目を覚ます。物凄くスッキリしていて目覚めが良い。アナミスのモヤで眠らされて睡眠をとると、物凄く深く眠るのであっという間に疲れが取れる。

「どれくらい寝ていた」

「三時間ほど」

「結構寝たな」

「はい。そして南より人間の反応がございます」

「来たか!」

「そのようです」

いやー、待った待った。

夕暮れになっており、森の中が薄暗くなっている。もしかしたら行商は来ないかもと思っていたのだが、作戦は無駄ではなかったようだ。

《ルフラ》

《はい》

《人が来るぞ》

《シャーミリアより念話をもらっています》

《俺達がそちらに合流するから待機してくれ》

《わかりました》

ルフラにはその場所に待機してもらう事にした。

《ガザム》

《は!》

《ターゲットが来た。ガザムはそのまま待機して、村に変な動きが無いか監視してくれ》

《かしこまりました》

行商が来た事で村に何か動きがある可能性もある為、ガザムにはそのまま村の監視についてもらう事にする。

《ギレザム》

《聞こえております》

《俺達は南へ動く、位置の掌握を頼む。村の監視も怠るな》

《問題ございません》

高台から全体を見渡せる位置にいるギレザムに、俯瞰して見るように指示を出した。俺達がルフラのいる場所へと付くころには、既に太陽が地平に沈むかという時間だった。

「対象が近づいております」

シャーミリアが言う。

「どのくらいだ?」

「あと五キロほどかと」

「了解」

《ラウル様》

ギレザムから念話が飛んでくる。

《変化は?》

《ラウル様の位置より、五キロほど南にランプの明かりが見えます》

《わかった。そこからも監視をしていてくれ》

《はい》

少しずつ暗くなっていく森の中で息をひそめて、対象が来るのをじっと待った。すると街道の南側から、ポツリポツリと光が見えてきた。まるで火の玉が浮かぶように、ランプの光が浮き上がってくる。

「ご主人様。魔獣がおります」

「なに?」

「どうやら馬車を引いているのは、馬ではございません」

「全員完全に気配を消せ」

スッと、シャーミリアとアナミスとルフラの気配が消える。気配を発すれば魔獣が敏感に反応してしまう可能性がある為だ。馬車の集団が見えてくると、シャーミリアの言った通り八本足の馬の魔獣が馬車を引いていた。馬はバカでかくて、馬車なんかより高さがある。

《でっかい》

《はい》

《魔獣の他は人間だけか?》

《お待ちください》

シャーミリアが何かを伺うような表情をする。だが読み取ろうとして読み取れないような、そんな感じだった。

《魔獣と人以外に何かおりますが、気配がいたしません》

《デモンか?》

《いえ…デモンではありません》

《ならなんだ?》

《申し訳ございません。分かりかねます》

シャーミリアでも分からない何かが居ると聞いて、俺達三人が緊張した。得体の知れない物が近寄ってきているようだ。

《私が先行します》

ルフラがスッと透明になり消える。スライム状態になって、対象に近づいて行ったのだ。

《気をつけろ》

《はい》

俺達はピクリとも動かずに、ルフラからの連絡を待った。

《ラウル様》

《何がいる?》

《人型の何かが、馬車の周りを囲っています》

《人じゃないのか?》

《凹凸があまりなく、どうやら人形のように見えます》

《人形だと?ゴーレムか?》

《グレース様のゴーレムに比べると小さくて、人間くらいの大きさしかありません》

《なんだそりゃ…》

《接触しますか?》

《ダメだ。一旦引け》

《はい》

そんなわけの分からんもんに、ルフラを接触させるわけにはいかない。やはりデモンの何かが絡んでいるようだった。魔獣が馬車を引いている事にも驚いたが、それ以上に人形がその護衛をしていたことに驚愕を覚える。

《シャーミリア、商隊に人間がどのくらいいる?》

《三人ほど》

デカい商隊に見えたが、なんと人間は三人しかいないようだった。

《てことは、他は全て人形か》

《そのようです》

《ルフラ、そこから見える範囲で人形は何体ある?》

《十体はあります》

《そんなにか…》

俺が待ちに待った行商の馬車は魔獣が引いており、その護衛には得体の知れない人形がついていた。シャーミリアが気配を感知できなかったのは、生きていないからだった。

《どうするか…》

《中の人間だけを捕縛しますか?》

《空の馬車が村に着いたとしたら、すぐに俺達が動いた事がバレるぞ》

《はい》

簡単な作戦だと思っていたが、めちゃくちゃ難易度が上がってしまった。魔獣のデカさもさることながら、人形の正体が全く分からない以上簡単には手が出せない。

《アナミス、至近距離に来たら、中の人間が魅了を受けていないか調べられるか?》

《やってみます》

俺が指示をだして、じっと馬車が通り過ぎるのを待った。馬車は俺達に気が付く事も無く、目の前を走りすぎて行った。

《どうだった》

《魅了を受けておりません》

《よし、それを確認できただけで十分だ》

《よろしいのですか?》

《ああ》

そして俺達は目の前を行く馬車を見過ごした。一頭の八本足の馬の魔獣にひかれ、数珠つなぎになった五台の幌をかぶった荷馬車が過ぎていく。この魔獣はよほど力があるらしく、軽快に走りすぎて行った。

《ラウル様》

《どうしたガザム》

《目の前におかしなものが現れました》

《なんだ?》

《凹凸の無い人形のような物が数体、村の門から外に出てきたようです》

《そっちもか…》

デモンがいる村に、人間が普通に生きている事も不思議だったが、もっとおかしなものがいるらしい。一体何の人形なのか分からないが、生きていない事だけはシャーミリアの気配感知からも明らかだった。

「さてと、村に先回りするぞ!」

「は!」

「「はい!」」

行商の人間が魅了を受けていない事だけを確認して、俺達はガザムのいる村へと合流する事にしたのだった。